METEOS・22

 膨れ上がるエネルギーを、一番最初に察知したのはGEL-GELだった。
 GEL-GELはビュウブームの中で膨れ上がったレアメタルの波動に感づき、彼に近づこうとするが、メテオに阻まれてしまう。
「ビュウブームさん!」
 大声でリーダーである彼の名前を呼ぶが、ビュウブームは耳を貸さずにゆらりと立ち上がる。いつもとは違った大型レーザーブレードを構え、空を見やった。
 同じようにレアメタルを持つGEL-GELには不安があった。レアメタルによって暴走したのなら、止められるのは誰もいない。そう、自分も止められない。
 ラスタルの方を見ると、彼はメテオよりもビュウブームの方に視線を向けていた。METEOSモードに近いこの状態を記録しておくつもりだろう。
 メテオの一群が、星を砕こうと狙ってくる。昼間だと言うのにぎらぎらと輝くそれを、肉眼で確認できた時、ビュウブームが動いた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 猛々しい叫び声と共に、ビュウブームはブースターを全開にして大きく飛んだ。そのスピードと高度は、通常よりも遥かに上の代物だった。
 遠い空の彼方で、レーザーブレードの閃光がきらめく。真昼の星と、それと同じぐらいの閃光がぶつかり合い、爆発を呼んだ。
「ビュウ!」
「ビュウブームさん!」
 心配して声をかけると、「ぼけっとするな!」と返事が返ってきた。意識があることに驚くGEL-GELをよそに、アナサジたちの反撃が始まる。

 ビュウブームの覚醒に驚いていたのはGEL-GELだけではない。
 遠くからメテオを奪おうとしていた七賢のアリアンロッドも、その覚醒に目を見開いていた。
「レアメタルのシンクロに耐え切る奴がいるなんて……」
「彼のデータからしては0.00001%の可能性だったはずだが」
 ヤルダバオトも驚いているらしく、視線はビュウブームから動いていない。ヘルメットのせいでよく解らないが、アリアンロッドは彼の動揺を悟った。
(無理もないわね)
 彼の事を知り尽くしている彼女だから解る。ヤルダバオトにとってビュウブームの覚醒は、予想外なんて生易しいほどのものではないのだ。
 メテオの方に視線を向けると、覚醒したばかりのビュウブームはレーザーブレードを振り回してメテオを一刀両断している。
 スピード、パワー、それを支える耐久力。それらは全て彼の中に入り込んだレアメタルの力だ。どうも時のレアメタルが入ったらしく、特にスピードは凄い。
 だがまだ慣れていないため、力に振り回されている感じは否めない。まあ即座に順応してしまったら、凄いを通り越して恐ろしい。
 ……とにかく、メテオを待っているであろう仲間に、一つ報告する事が増えた。
 この事が大きな鍵にならなければいいが。
 アリアンロッドは叶わないのを承知で、そう願った。そう願わないとやってられない。こっちの予定が狂えば狂うほど、「奴ら」に隙を与えるのだから。
「あの調子だと、約二分で限界が来るだろう」
 ヤルダバオトがぼそっとつぶやく。
 空にはまだこの星を狙うメテオが見える。二分の間にどこまでメテオを打ち上げられるかが、勝負どころだ。遠くから見るに、彼らはよくやってるようだが。
 とりあえず今はまだ様子見だ。メテオを奪うチャンスはまだあるし、相手がこっちに気づいていないのだから、迂闊に動けば逆に目立つ。
「一応準備しておいてよ」
「了解した」
 アリアンロッドの一言に、ヤルダバオトは愛用のライフルを取り出した。
 メテオの影は、まだ空にたくさんある。

 限界が来ているのは解っていた。
 だが、今をしのげば何とかなると言うのも解っていた。
「くそぉ!」
 レグに整備してもらった大型レーザーブレードを操り、ビュウブームは大気圏すれすれでメテオを弾いていた。視界は既に赤一色だ。
 過負荷に耐えられるようにぎりぎりの場所で戦っていたのだが、もうボディの限界が来ているようだ。後はメタモアークや仲間に任せる方がいい。
 ……そう。それは解っているのだ。
 だがテンションがあがってきている彼の心は、ここでの撤退をよしとはしていなかった。自分が出来る限りのメテオを減らす。それだけが彼を動かしている。
 仲間に託すべきだと言う彼の理性と、自分が出来る事を限界までやれと叫ぶ彼の本能が、プログラムを動かし、暴走一歩手前まで引き上げていた。
 だが、限界は等しく訪れる。何かが抜けるような音と共に、ビュウブームの視界がノイズまみれになった。
(畜生……!)
 後もう少し。
 もう少しだけ、メテオを何とかできれば。
 メテオをどうにかする力があれば。

「うぉぉぁあああああああ!!」

 二度目の絶叫が、空に響き渡る。
 そしてそれにあわせるかのように、大気圏を突破したメテオの一群が木っ端微塵に砕け散った。
 巨大なハンマーで殴られたかのようなメテオは、バラバラになりながらも地表に落ちていく。だがサイズがサイズなので、星には何の被害もなかった。
「砕け散れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 ハンマーのような衝撃波は辺り一面に広がり、どんどんメテオを破壊して回る。中には打ち上げたメテオも破壊したが、ビュウブームはお構い無しだ。
 ……というより、狙いを定める事ができないのだ。
 暴走しかけているエネルギーは、ビュウブームのコントロール下を離れ、気ままに暴れまわっている。GEL-GELたち仲間を狙わないのは幸いだが。
 最初は驚いていたGEL-GELたちだが、衝撃波によってメテオが破壊されているのを見て、また攻撃を開始する。今は防衛が先だからだ。
 ラスタルはそんな中で、ビュウブームのデータを正確に取っていく。エネルギーがほぼ空っぽになっているのにもかかわらず、彼はまだ攻撃を続けている。
 彼が大きく手を振ると、衝撃波がメテオを破壊する。その破壊力は、ラスタルが知るどの武器よりも凄まじく、威力も桁違いだった。
 硬いはずのメテオを砕いていくその衝撃波は、まさに雷神の怒りの槌。
「トールハンマー……」
 ラスタルの口から、そんな言葉がこぼれ出た。

 最後のメテオが砕かれる。
 ビュウブームは全ての力を使い切り、空から落ちていった。メタモアークが急いで回収へと走り、残されたGEL-GELたちは待機となる。
 三人とも彼の復活にようやく安堵し……同時に彼の中で目覚めた力に疑問と恐怖を抱いてしまった。
 同じ力を持つはずのGEL-GELですら。