METEOS・21

 絶叫が聞こえる。
 誰の声かはわからない。だが、それは仲間の声だというのはわかる。
 反応しないといけない。立ち上がらなければいけない。
 自分は、彼らの前に立っていないといけないから。
 生きている限り、立ち上がらないといけない。
 なぜなら、自分は。

「艦長! ビュウブームに異変が!」
「なんだと!?」
 現在、宇宙基準時間午後5時7分。
 戦闘用アンドロイドであり、チームリーダーのビュウブームに異変が発生した。

 

 宇宙基準時間午後1時。4時間7分前。ギガントガッシュを出て五日でもある。
 お目付け役にされたGEL-GELが姫のわがままなどに困らされる事が日常茶飯事となり、至って平和に艦は進んでいた。
「退屈だよなぁ」
「そうですねぇ。メテオも来ませんし」
 ここの所出撃が全然ないビュウブームが、ついフォルテに向かってそうつぶやいた。平和なのはいいが、自分の役目がないのは逆に困る。
 戦うためだけに生まれたわけではないが、戦うことを取られてしまうとどうすればいいのかあまり知らない。それが彼ら戦闘用アンドロイドなのだ。
 対するフォルテはデータ収集や保存など、人の手助けをするために生まれたアンドロイドだ。彼はこういう時での暇の潰し方を知っていて、有効にそれを利用している。
 ……つまるところ、フォルテは暇を潰すためにビュウブームの話し相手になっているのだ。そしてビュウブームも、その暇つぶし方法を使っている。
「ラキさんどうしてるんだろーなー」
「何か、GEL-GELさんのデータで解析した部分を利用するためにラボに篭りっきりですけど」

 宇宙基準時間午後1時12分。3時間55分前。
 ラキはGEL-GELのデータの解析レポートと共に、新たな企画書をクレスに提出していた。
「GEL-GELのデータを応用した新型を?」
「はい。元々新型を考えてましたが、GEL-GELのデータを応用できれば……」
 ふむ、と顎を撫でながら、クレスはレポートにざっと目を目を通した。今回はどうやらヴォルドンと協力したらしく、彼のコメントも付随されている。
 特に目を引いたのは、「レアメタルが彼に内蔵されている」という所だった。レアメタルは希少価値が高く、大抵は軍上層部で保管しているのだ。
 GEL-GELのデータを応用するとなると、レアメタルの存在が鍵となる。メタモアークにもレアメタルは幾つかあるが、ほとんどが予備エンジン用だ。回す余裕はない。
「とりあえず一時保留だな。GEL-GEL本人がそれを嫌がるかも知れん」
 クレスはファイルを閉じて、ちょっと落ち込んだ顔をしたラキに返した。

 宇宙基準時間午後4時45分。22分前。
 近くの惑星でメテオが飛来したので、防衛のためにメタモアークがその星に着陸した。無人惑星なのがネックだが、メテオの規模は少ないので何とかなりそうだ。
 ビュウブームたちは通常装備で出撃し、メテオを破壊したり打ち上げたりする事で防衛する。最近ようやくチームとしてまとまり、何一つ問題はないと思われたが。

 きらり

 何かが空で光ったような気がしたかと思うと、それは凄まじい速度で落ちてきた。
「ビュウブーム!」
 ラスタルが悲鳴を上げて、ビュウブームに注意を促す。名前を呼ばれた当人は空を見上げようとするが、次の瞬間バランスを崩して落ちた。
 メテオが、彼をえぐったからだ。

 宇宙基準時間午後2時39分。1時間28分前。
 ラキはもう一度、GEL-GELに企画書を見せていた。レアメタルを内蔵するという点に関して、彼はずっと反対していた。その点を何とか納得してもらおうと思ったのだ。
「やっぱり、お勧めできませんよ」
 だがGEL-GELの意志は変わらず、相談は難航していた。クレスは一時保留と言っていたが、おそらく許可は下りないだろう。GEL-GELが納得してくれれば……。
(まあ、どうなるかを知らねぇから気楽に言えるのかもな)
 企画書をしまいながら、ラキは心の中で反省した。気楽にレアメタル内臓と言うが、装備した後に何が起きるのかはわからないのだ。
 実際にレアメタルを持つ身として、色々と大変なことがあるのだろう。彼が語らない過去の中に、それが原因の事故か何かがあったのかもしれない。
 この件はなしにした方がいいかもしれない。レアメタルの情報をもう少し手に入れてから、新型に取り掛かるべきかもしれない。
 ラキはしまいかけた企画書に、赤ペンで「保留」と書いた。

 宇宙基準時間午後3時。1時間7分前。
 アナサジはふらりと武器倉庫へと来ていた。レグの仕事場であるここは、アナサジが好きな場所でもあった。
「おう、どうした?」
 いつも通り武器の点検をしていたレグが、こっちを向く。その手元にある武器がちょっと気になって、アナサジは近くに寄って見てみた。
 大型レーザーブレードにしては、少しだけ形が違う。薙ぎ払うのではなく、力任せに一刀両断するようなタイプだ。パワータイプでないと、あまり使えそうにない。
 アナサジの不思議そうな顔を見て、レグがにやりと笑った。
「こいつはビュウブーム専用の武器だ。奴が作ってくれと直に頼んできやがったから、作ってみたのさ」
「どうして?」
「攻撃力のアップ、と本人は言ってたが、内心は違うな。ありゃ実戦に出すつもりはねぇ。練習でパワーアップを図るためだけの武器だな」
 武器制作担当であるレグは、ラキやサボンたち開発チームに次いで戦闘チームと縁が深い。だから何となくだが、作ってくれと頼んだビュウブームの考えが解るのだ。
「誰かが暴走した時に、自分で止められる力がほしいのさ。あいつはおちゃらけてるが、根は真面目だ。自分がリーダーだってのを自覚してて、全員の無事を案じてんだよ」

 ――なぜなら、自分はリーダーだから。

 ビュウブームの中で、さっき内部にはまり込んでしまったレアメタルが弾けたような感覚があった。