「空から災厄が来たる」
少女の声に、幾人もの獣人たちが吼える。
「だが同時に、空から希望も来たる」
吼える声の色が、少しだけ変わった。
何十、何百という獣人たちに囲まれ、『獣人ではない』少女は神の使いのごとく凛々しい顔で空を見上げている。
少女の隣には老人がいた。彼も、少女と同じように獣人とは違っていた。
「災厄の始まりが終わり、災厄の終わりが始まろうとしている」
「万物は零から生まれ、そして零へと帰る」
老人が謡い、少女が繋げる。
「創生は破壊から生まれ、破壊は創生から成る」
「戦場(いくさば)は広がり、全てを覆う」
「それこそ終末」
「それこそ創生」
獣人たちの吼え声が、星を大きく揺るがす。自分たちが崇める少女と老人の歌にあわせ、それは美しいハーモニーとなった。
猛々しい歌は一晩中続く。例え喉が枯れても、息絶えても、彼らは歌うのをやめない。これが彼らの儀式だからだ。
ここはギガントガッシュ。
宇宙の獣人が住まう暗き星。
「ギガントガッシュのメテオを?」
宇宙基準時間午前6時。
メタモアークは、上層部から新たな指示を受けていた。内容は、ヘブンズドア領域の辺境にあたる惑星ギガントガッシュの調査。
ギガントガッシュは獣とヒトが融合したような人間が住んでいるらしく、知能も獣と同じくらい。故に「宇宙の獣人」と呼ばれている。人を襲ったりしないそうだが……。
一応保護対象となっている惑星だが、ほとんどほったらかしのような状態らしい。
『あの獣どもは独自でメテオを打ち返しているらしい。その中に、研究中である物質があるかも知れんのでな。幾つか貰ってきてほしい』
「相手は獣人ですよ?」
『だが宇宙の隣人だ。やってやれなくないとは思うぞ』
無茶言うな、とクレスは心の中で突っ込んだ。
今まで凶暴動物のように扱っていた癖して、こういう時だけ協力を求めようとした所で、いい反応はないだろう。嬲り殺されるか、食われるのがオチだ。
だが彼らが所持するメテオに希少価値のあるレアメタルなどがあるとすれば、喉から手が出るほどほしい。だから代わりがいくらでもある前線の戦士にそれを任せるのだろう。
言いたい事は山ほどあるが、軍隊は上の命令に逆らえない。愚痴や悪口などを心の中に押し込めて、クレスはその命令を受諾した。
ここからギガントガッシュは一時間ほど。通常ワープを使えば一分足らずだが、エネルギー節約のためクレスは通常運転を選んだ。
その一時間の間、ラキはチームを呼んで今回の作戦についての説明をしていた。まあメテオ撃退という最大ランクの作戦ではないので、その顔は少し明るい。
「……っつーわけで、今回は特殊兵装フレームのテストも兼ねてるってこった」
ベルティヒに運んでもらった兵装は三種類。ガンナーフレームとエアライドフレーム、ナックルフレームだ。それぞれその名にあった装備になっていて、なかなか強そうだ。
「あたしがこのガンナーですか~?」
アナサジが手を上げて聞くと、ラキがちっちっちと指を横に振った。
「ビュウブームがナックル、アナサジがエアライド、GEL-GELがガンナーだよ。いつもと違った装備で、お前らのデータもついでに取るのさ」
パターンを変える事で、戦略の幅を広げようと言う事だろう。ビュウブームの役がアナサジに、アナサジの役がGEL-GELに、GEL-GELの役がビュウブームになったわけだ。
ラスタルの分がないが、彼は索敵や妨害などの後方支援のためにカスタマイズされているので、無理やり戦闘に参加させる方が危険だ。本人は少し納得してないが。
「でもラキさん、戦闘になるようなことってありますか?」
GEL-GELが自分の分を装備しながら聞いてくる。ラキは何度も頭をかきながら「理想では戦わないで済むけどな」とだけ、答えた。
相手は、あの宇宙の獣人だ。こっちを激しく敵対視してくるかもしれないので、いざと言う時の準備は絶対必要だった。もちろん、なければそれで御の字だが。
ギガントガッシュには艦長のクレスと参謀のフィア、学者代表としてロウシェン、それからネスたち三人が降りる事になっている。艦長たちは交渉役で、ペルゼインの三人は護衛だ。
元々フレームテストは別の惑星でやるつもりだったのだが、
「武装しているお前らを大っぴらに出すわけにはいかねぇから、ギガントガッシュに降りたらお前らとは別行動だ。場所はラスタルたちが把握してるから、ナビ通りに動けよ」
そう締めくくると、四人は真剣な顔でうなずいた。
指令を受け取ってから一時間後。ギガントガッシュに到着したメタモアークは、適当な場所を選んで降下した。
「付近サーチした結果、村みたいな集落が点々とあるって感じですね。その中でも一番大きな集落が……」
レイの前情報を聞いて、クレスたちは向かう場所を検討する。交渉役のクレスらは人のいそうな場所へ、テストのGEL-GELたちは人のいなそうな場所へ行く事になる。
しばしの相談の後、行く場所が何とか決まった。
「それじゃ、また後で」
「行ってきまーす♪」
「お土産期待しててくれよ」
「後は任せるからな」
それぞれ挨拶を交わし、彼らはそれぞれ進むべき方向へと向かっていった。
……行ったのだが。
元々飛んでいけるビュウブームや、エアライドフレームを装備したアナサジはともかく、GEL-GELは空を飛べない。しかも武器が武器なので隠れてテストするのが難しすぎた。
一応ラスタルがナビゲートしてくれているが、元来の性格もあってどうしてもテストしづらい。
「どうしよう……」
遠距離移動用の加速装置を使いながら、GEL-GELはテストしやすそうな場所を探して回る。敵地ではない場所というのは、かえって行動しづらい場所だとは思わなかった。
メタモアークから大分離れたかな、と思い、加速装置のスイッチを切ったその時。
「お主、別惑星の者か?」
唐突に声をかけられた。
まさかいきなり声をかけられるとは思っていなかったので、思わず銃口を向けそうになるが、ぎりぎりの所でとどめる。
声をかけてきたのは一人の少女だった。
――その少女が歌を謡っていた少女だということを、GEL-GELは知らない。