METEOS・15

 ステーション格納庫は蜂の巣をつついたような、否、それ以上の騒ぎとなっていた。
「な、何なんだあのガキは!?」
「だ、ダメだッ! 突破される!」
「メテオが全部あのチビに……!」
 何人もの兵士が十六、七の少年によって倒され、保管されていたメテオは全てその少年についていた四、五歳の幼児に「食べられて」いるのである。
 修理されて万全の体制だったはずのメタモアークは、二人の少年の襲撃によってステーションに入る前と同じぐらいの損傷状態にされていた。
 その兵士を倒した少年が、メタモアークから顔を出した幼児に向かって声をかけた。
「ヨグ! メテオは全部回収したのかよ!?」
「うん、さっきのでぜんぶ。へるもーず、はやくにげよう」
 幼児――ヨグ=ソトースは、ぽんぽんと自分の腹を叩いた。
 どういうマジックなのかは知らないが、ヨグ=ソトースが深呼吸するように空気を吸うと、その空気に流されて全てのメテオが吸い込まれたのだ。
 阻止しようとした兵士は、その吸い取られたメテオの一部をぶつけられて全員倒れている。死者が出ていないのが唯一の救いだが。
 彼の言葉を聞いた少年――ヘルモーズは、ヨグ=ソトースの近くに降り立ってその小さい身体をひょいっと抱き上げた。
 逃げ出そうとしているのに気づいた兵が、持っていた銃を撃ちまくる。ドラムロールを思わせる銃音が鳴り響き、全て二人に命中するかに思えたが。
「当たるかよっ!」
 ヘルモーズの一喝で、弾は全て霧散した。障壁か何かで防いだのではなく、弾がなかったように全て消されたのだ。
 ――まるで、GEL-GELがやったイレイザーのように。
 呆然となる兵士たち。ヘルモーズたちはそれに見向きすることなくどこかへと消えようとするが、その時ラキたちが到着した。
「こ、これは……!?」
「GEL-GEL、上だ!!」
 ラキに指差され、ようやくGEL-GELが視線をそっちに向ける。

 メタモアークの甲板で、ヘルモーズたちとGEL-GELの視線がぶつかり合った。

「じぇねしすさーてぃーつー」
「あいつが最後の一体ってわけかよ……」
 研究室でアリアンロッドやヤルダバオトが言っていた言葉をまた聞き、ラキは首をかしげる。「ジェネシス」はあの廃棄カプセルにあった言葉だが、32とは?
 GEL-GELの方に視線を向けるが、彼はヘルモーズたちの方を見ているだけでこっちに視線を向けようともしなかった。
 研究室では結局ロクな事を調べられなかった。彼はひたすら過去を閉ざし、誰にもそれを語らない。何故捨てられたのか、あの力はどこから来たのか。
 アンドロイドとして開発された事は間違いないはずなのだが、彼のプログラムは高等すぎてただの戦闘用とは思えなかった。
 一体何者なのか。そして自分たちの味方なのか。GEL-GELはそれすら語ってくれなかった。
(たった一つ解った事は……)
 腹の中にあった物だけ。一瞬だけちらりと映った程度なので確信は出来ないが、あれは確かにメテオ――しかもその核――だった。
 ラキがそんな事を考えていると、ヘルモーズはヨグ=ソトースを抱えたままはーっと息をついた。
「ちっ、アリアンロッドたちは捕獲に失敗したってわけかよ」
「アリアンロッド!? お前ら、あいつらの仲間かよ!」
 ジェネシス32という言葉から予想はしていたが、どうやら彼らとアリアンロッドたちは目的が二つあったようだ。
「……お前たちが何者かは、僕のデータにはない。だけどそのナンバーを知っているのなら、ある程度予想はつく」
 GEL-GELが口を開いた。
「ヘブンズドアにいる、七賢」
 その誰何に、ヘルモーズが「おうよ」とうなずいた。
 ラキがヘブンズドア星の終わりを思い出して、はっと息を飲む。仕方ないとは言え、自分たちはヘブンズドア星を見捨てたのだ。復讐、と言う事もありうる。
「あんしんして。へぶんずどあせいのことはうらんでないから」
 ヘルモーズに抱っこされたままのヨグ=ソトースが、ラキの心中を察したように付け加える。その事に一時はほっとするが、すぐに顔を引き締めた。
 しかし、復讐ではないのなら一体何のために?
 今生まれた謎に対して考える間もなく、ヘルモーズが一歩動いた。来るか、とラキやGEL-GELが身構えるが。
「こっちの用は終わったかんな。さっさと帰らせてもらうぜ」
 ヨグ=ソトースがばいばい、と手を振る。同じように手を振って、ヘルモーズは姿を消した。
 後に残るのはぼろぼろになった兵士たちと、ラキにGEL-GEL。その内、兵士たちは互いに支えあって立ち上がろうとしている。
 少しずつ騒がしくなっていく中、ラキはGEL-GELの方を向いた。
「『GEnesis Light Guard Earth Last』……。『ジェネシス32』。お前のナンバーなのか?」
 GEL-GELはその言葉を無視するように、メタモアークに入ろうとする。
「おい!」
「僕は……」
 振り向いて見せた顔は、どこか疲れた笑顔だった。

「GEL-GELです。ラキさん」

 オペレーターたちから襲撃とメテオ強奪の話を聞いたラキは、話もそこそこにヴォルドンの研究室へと急いだ。
 メテオ強奪は気になったが、それ以上に気になる事があったのだ。
 幸い、研究所にあったメテオは全部無事だった。こっちも全部捕られていたら研究もお手上げだったが、ヘルモーズたちはここまで目が行かなかったのだろう。
「おう、帰ってきたか」
「見せたデータ、解析できたか?」
 開口一番ラキがそう聞くと、ヴォルドンは「焦るでないわい」と手を上げてなだめた。
 スタンバイ状態だったコンピュータを立ち上げ、ラキが送った映像データを呼び出す。ぼやけてはいるが、確かにメテオの核が中に収められていた。
 それにしても、一体これは何の元素が詰まったメテオなのだろうか。
 現在確認されているメテオは空気、大地、炎、水、生物、植物、鋼鉄、植物の八つだ。他に光と闇のメテオがあるらしいが、正確な確認は取れていない。
「爺さん、あんたはこれは何のメテオだと思う?」
 メテオ専門であるヴォルドンに聞くと、彼はしかめ面のままで答えない。……というより、ぶつぶつと何かをつぶやいていて聞こえていないようだ。
 不審に思って耳を寄せると、どうもGEL-GELの中にあるメテオがあまり判別できないようだ。専門家にしては珍しい。
 しばしの沈黙の後、ヴォルドンはようやく口を開いた。
「……これはあくまでワシの推論じゃ。根拠もないし、証拠もそうそう出せん……というより証拠品がなさ過ぎる」
「一体なんなんだよ」
 思わせぶりな言葉にイラついて、ラキが先を促す。ヴォルドンは一つうなずいてから、ぼそりといった。

「おそらく、ソウルとタイムのレアメタルじゃ」