メテオを全部破壊したGEL-GELは、初陣と同じように意識を失った。
唯一ヘブンズドア星での攻防戦で出なかったラスタルが彼を回収し、メタモアークに戻る。回収されたの同時に、メタモアークは転移した。
転移先は、ヘブンズドア領域唯一の中継ステーション。
独習室での待機命令を破ったGEL-GELは、そのまま中継ステーションの研究室に運び込まれた。修理もあるが、一番は調査だ。
本来ならスクラップ行きの可能性もあるほどの重罪を犯したのだが、メテオ撃破の功もあるので一応その事は保留となった。
「…っつーわけで、一週間は出られないことを覚悟しな」
「すいませんでした……」
わざとらしくスパナを叩くラキに向かって、GEL-GELは深々と頭を下げた。言いたい事や説明したい事はたくさんあるが、自分が悪いのは事実だ。
ラキも解っているのか、それ以上GEL-GELを叩くのはやめて、持ってきたモバイルをカプセルに繋いだ。
「その一週間のうちに、判明できる事は判明させるぜ。お前の過去も、いくらか教えてくれ」
「僕は……」
「話してくれない方が逆に困るんだよ!」
強気に攻めると、GEL-GELはまた頭を深々と下げた。よっぽど捨てられることを恐れているのだろう。
下手に突っついても、逆に怯えさせるだけだ。ラキはGEL-GELにカプセルに入るように言ってから、モバイルを起動した。
これにはGEL-GELについて今まで判明した事や、戦闘データなどを全てまとめてある。これらと検討して、彼の情報を得ようと言うわけだ。
「んじゃ、お前のデータ少し調べるから、スリープモードになってくれや」
「はい」
スリープモードはその名の通り、睡眠状態に入ることである。修理やエネルギーを満タンにしたい場合は、大抵子のモードになる。
今回GEL-GELに睡眠状態となってもらったのは、その口からは語られることのない彼の過去を追求するためだ。一種のサイコダイブである。
どのような過去が見れるのか、ラキには解らない。また、GEL-GELが見てほしくないと思うモノを見せられるかもしれないのだ。
それでもやるのは、ひとえにGEL-GELを仲間だと信じたいからだ。命令違反までやった彼の行動を、誰かの意志だとは思いたくなかった。
武器庫では、レグがGEL-GELが装備していった換装パックのチェックをしていた。
「多方向レーザー、オートバルカン、高出力レーザーブレード、全て問題なし……。それでいて、あの戦歴かよ」
対メテオ用に開発したとは言え、実際のテストはまだ不十分の代物だ。コメット相手なら充分すぎる武装だが、飛来するメテオに効くかは机上の理論だった。
威力重視にしてあるため制御も難しかったはずなのだが、GEL-GELはそれをあっさり使いこなし、設計通りにメテオを破壊して帰ってきた。
「蓋を返せば『GEL-GELにしか使いこなせない可能性が高い』ってことか」
実はこの換装パックは、GEL-GELには装備させないつもりでいた。暴走した彼を抑えるために必要な力として、密かに改造していたのだ。
だがそのGEL-GELにしか装備できないのでは、意味がない。後でビュウブーム辺りにテストさせる予定だが、彼ではおそらくメテオを破壊できない。
もう少し調整が必要なのだろうが、ビュウブームたちになくてGEL-GELにあるもの。それを判明しない限り、これは使いこなせない。
パワーアップさせたり、状況に応じた換装パックを企画書として出したのだが、しばらくはお預けになるようだ。
「…れ? いないよ?」
「おかしいなぁ、確かこっちに…」
暇なのか、ラスタルとジャゴンボが武器庫へとやってきた。本来ここは危険な場所であるため、遊ぶのなら余所でやれと言い聞かせてあるのだが…。
「どうしたお前ら」
「あ、おやっさん。実は…」
ラスタルが口を開こうとしたその時、別方向からフォルテとグランネスト、ブビットがやって来た。
「こっちッスよ、絶対こっち!」
「そうかなぁ…」
「ボク、別の方向だと思うけど……」
千客万来と言うか何と言うか。メタモアークのちびっ子がほぼ全員、ここ武器庫へとやって来たのだ。
お互いここに集まるとは思っていなかったらしく、五人全員目を丸くしている。大騒ぎになる前に、「お前ら誰を探してるんだ?」と聞いた。
ラスタルとジャゴンボは顔を見合わせたが、すぐに「エデンさん!」と声を揃えて答えてくれた。どうやら、今日の監視役は彼らだったらしい。
「知りませんか?」
聞かれても今日は顔を見ていない。初顔合わせ以降、エデンはここに来ることはなかったのだ。
「賢者坊主はここには来てないぜ」
そう答えると二人はがっくりと肩を落とした。ダメ元だったのだろうが、やっぱり期待はしていたのだろう。
さて、フォルテとグランネスト、ブビットの三人はまだあれこれ話し合っている。耳を寄せると、「知らないかもよー」「でもダメ元」という声が聞こえた。
(この艦内で俺が知らねぇ奴なんていたか?)
メタモアークはスターリアが動かしているようなものなので、スタッフは少ない。レグは三日で全員の名前と特徴を覚えたくらいだ。
その自分が知らないかもしれない人物とは、一体誰なのだろう。
「おい、特徴でも言ってみろ。知ってるかもしれねぇしな」
気になったのでそう聞いてみると、三人はようやく踏ん切りがついたらしく、次々に特徴を述べていった。
「赤い髪しててー」
「額に髪と同じ色のマークみたいなのがあったッス」
「で、ボクたちと同じくらいの子!」
三人の説明を聞いて、思い当たる子は一人だけだった。
いや、自分は会った事がないのだが、同僚が会ったと話していた子だった。
(……ソーテルが会った、座敷童じゃねぇのか?)
どことも知れない宇宙空間に、二人の人間――いや、一人はアンドロイドが――いる。
「そろそろ仕掛けるわよ」
まだ幼い少女が、後ろに控えているアンドロイドに向かって声をかける。そのアンドロイドは、持っていた武器を構えて一言答えた。
了解、と。
ステーションに入って二日目。GEL-GELの調査はまだ続いていた。
休息を取ってから、ラキはまた調査に戻る。GEL-GELの方はずっとスリープモードなので微動だにしない。
「……そんなに俺たちを信用できないのかね」
手をいったん休めてそう一人ごちる。
過去を探ろうと彼の精神OSにアクセスしているのだが、どうアタックしても彼の心は開いてくれない。
それほど見せたくない過去なのか。それとも、自分たちを信じていないのか。おそらく前者ではあると思うが。
適当に手を動かしていると、カーソルが動いて内部スキャンを作動させてしまう。誤作動に慌てて、修正しなおそうとするが。
「……何だぁ?」
GEL-GELの内部――正確には腹部――に、あまり見たことのないものが見えた気がした。もう一度そこを集中的にスキャンする。
ノイズや砂嵐がひどくてよく見えないが、それは何かに良く似ていた。最近になって、よく見るような物……。
ラキは一番良く鮮明に見えた瞬間を狙って、その写真を撮る。データを急いでメタモアークに送った瞬間、研究室が大きく揺れた。
「何だ!?」