「ふーん、そういう糞厄介なぼんくら息子がねぇ」
「息子がねぇ」
ストレートな言い方とおうむ返しな言い回しはギャンビッツインの二人。
何も知らない彼らはいつも通り見つけたカオストーンを換金しに来たので、昨日の事を話してこれからの事を手短に話した。
「そう言う事なので、しばらくは仮面カフェを出られないんです。その分カオストーン探しを他の人たちに任せることになるんで、よろしくお願いします」
「ああ、解ったぜ」
「解ったぜ」
しばらくは彼らからタカられそうだなと思うが、これも一種の防衛策のようなものだから仕方がない。そもそも彼らがカオストーン買い取りを願うのも野望のためなのだから。
そんな事を考えてると、駆の方が「お前さんは動かないのか?」と聞いてきた。
「動かない、とは?」
「相手はある意味過去の因縁そのものだろ? 動かずにいたら、またしつこく付きまとってくるんじゃねぇのか?」
「……」
一理ある。
自分が母子家庭の貧困層だった頃から狙っていた男だ。財閥令嬢になったからと言って、狙うのを止めるとは思えない。何しろ相手は「自分が欲しいと思ったモノは必ず手に入る、手に入れる」と常に豪語している男だからだ。だが今は。
「私自身が動かなくても、みんながそれぞれ動いてくれる。そう信じてますから」
前回もそうだったように、今回もそうする。自身は下手に動かなければ、困るであろう人々が焦って動いてくれる。そう信じているからだ。
「レオンが言うには、親の吉阪幸一郎が戴天さんの所にアプローチをかけてるらしいし、ウィズダムシンクスも放置しないと思ってますので」
「なるほどねぇ。そんな状態で迂闊に動けば、『コスモス財閥のお嬢さんは、若い男をたくさん囲っている』とか噂されかねないもんな」
頭の回転が速い駆はすぐに真意を察してくれた。なお隣のフラリオはいまいちつかめてないようで首をかしげている。
若い男を囲っている、の言葉に凜花は思わず苦笑してしまう。ライダー全員が若い男だから仕方ないのだが、何も知らない周りはそう見てしまうのだろう。
その若い男の一人である駆が残った生ビールを飲み干していると、ドアベルを鳴らして人――才悟が入って来た。
「魅上くん」
「おー才悟、いったいどうしたんだ?」
ドアに近いフラリオが手を振って才悟を招き寄せる。招かれた才悟はフラリオの隣に座った。
「いらっしゃい、水でいい?」
「ああ」
いつも通りの注文なので、さっと水を出す。それを受け取り飲む、いつも通りの才悟。
……だが、何か様子がおかしい。水を飲んでいる間も目はあちこち動き、何かを警戒しているようだ。駆たちも何か察したか、「つまみとフライドポテトな」とだけ言って凜花に話しかけることはなかった。
「魅上くん、どうしたの?」
つい声を潜めて聞くと、才悟は「何かなかったか?」と同じぐらいの音量で聞いてきた。
「……どういう事?」
「……昨日、仮面カフェを出た時に写真を撮られた」
「え?」
才悟曰く、誰に撮られたのかは解らないが、間違いなくシャッターのターゲットは自分だったらしい。尾けられている可能性も考えて、遠回りで返ったが、最初のシャッター以外の気配は何も感じなかったらしい。
「お前の隠れファンとかじゃねぇの?」
フラリオが頓珍漢な事を言い、才悟がそれに対して首をかしげる(なお後で聞いた話だが、仮面ライダー屋の隠し撮り写真は高値で出回っているらしい)。そんなフラリオの頭を「んなわけねぇだろ」と駆が軽くはたいた。
と。
ドアベルがまた鳴る。音と共に入って来たのは、吉阪幸太郎だった。事態を瞬時に察したか、駆たちギャンビッツインは何も知らないかのように出されたつまみをかじり出す。そのため、彼の視線は必然的に凜花と才悟の二人になった。
「昨日ぶりだね」
「ご注文は?」
気障ったらしい言葉に対し、淡々といつもの注文を取る凜花。幸太郎がつれないねと笑うが、元々凜花はそう言うのにつられるような女性ではなかった。しかも最近はウィズダムシンクスという女慣れしたクラスとも付き合っているため、幸太郎の態度を見て(浄さんだったらもっと気障だろうな)と心の中で笑ってしまう。
相変わらずの態度なのを見て幸太郎は逆ににやにやと笑う。その視線の先には自分だけでなく才悟も入っている。
「なるほど、そこの男がいるから気を張っているわけか。何も知らなさそうな顔で、ねぇ……」
「……ですからご注文を」
もったいぶるような言い方にイラつきを感じたので、つい注文を急かす。いらだちを感じた幸太郎は紅茶を注文した。厨房のレオンに紅茶を頼むと、彼はさっとダージリンを淹れて手渡すので、それを幸太郎に差し出した。受け取った幸太郎は一口飲むと「これも悪くないな」と告げた。さすがに旨い物に対して悪口を言うほどねじれた性格ではないようだ。
紅茶を飲み干した幸太郎は、すっと何枚かの紙――写真を出してきた。凜花はその写真を覗き込み……息をのむ。
先程才悟が言ってたであろう写真だけでなく、ジャスティスライドやマッドガイ、スラムデイズの写真がずらりと並んでいる。それも凜花と一緒に調査している写真も混じっていた。
「金を持って調子に乗ったのかな。こんなに男を侍らせているとはね」
「彼らはあくまで協力者よ」
「建前にしては随分とちゃちいな」
「建前も何も事実だから」
ふん、と鼻を鳴らす幸太郎。その様子だと、先ほど駆が言っていた「コスモス財閥の令嬢は若い男を囲っている」という話を、普通に信じているような感じだった。
どちらにしても自分たちにはやるべきことがある。周りが余計な詮索をしたとしても、知った事ではないのだ。
こっちの真摯な目に気圧されたか、幸太郎はちっと舌打ちをする。
「まあいい。お前がそう言ったところで、周りの視線は変わりはしないんだ。ロクでもない噂を広げられるなら、大人しく僕の物になった方が無難だぞ」
やっぱりそれが本音か、と凜花は内心冷めた心で思う。相変わらず自分の思う通りに事が進むと信じている男だ。数年前、そうやって自分を手に入れようとして返り討ちにあったのをすっかり忘れたのか。それともその時の恨みを含めて自分の「モノ」にしようとしているのか。
馬鹿馬鹿しい。
入学した時の頃を思い出す。唐突に姿を現して壁際に追い詰めてきたと思ったら、「今日からお前は僕の女だ。有難く思えよ」と言い放ったのだ。おそらく彼なりのナンパなのだろうが、明らかに人を舐め切った目を見て、付き合いたくないと本気で思った。そしてその目は今も変わっていない。
「あの時は生意気な態度だったが、僕と同じように金と権力を持てばこんなもんか。所詮は高校も卒業できなかった中卒のクズ……」
だんっ!
大きな音が鳴った。
何かと思って視線を向けると、そこには歯を食いしばった顔の才悟がいた。
「お前に凜花の何が解る……!」
「!」
ぼそりと、地の底から震わせるような声に、全員が――他人のふりをしていた駆とフラリオも――息をのむ。
才悟を知っている全員が震えたのだから、何も知らない幸太郎は震えを超えて恐怖を感じた事だろう。だが自分のプライドにかけて泣き言は言えないらしく、逆にへらりと哂う。
「は、ははっ、随分と凶暴な忠犬じゃないか。しつけもなってないようだけどね」
「皇凜花を馬鹿にするな!」
幸太郎のあおりにさらに才悟が声を張り上げる。とうとうそれに恐れを感じたか、幸太郎はまだ残っていた紅茶を才悟にぶっかけた。
「!」
さすがの才悟もいきなりなので回避できなかったらしく、白いトレーナーが赤茶色に染まっていく。凜花が視線を向けると、幸太郎は紅茶のカップを大げさに置いてがたりと席を立った。
「いいか、覚えておけ。お前がどれだけ否定しようと、所詮偶然金が手に入っただけの貧相な女だ。いずれは僕に土下座するようになるさ!」
そう吐き捨てると、荒々しくドアを閉めて店を出ていく。三流悪役か、とフラリオがぼそりと呟いたのを、凜花は聞き逃さなかった。
後に残されるのは、凜花と才悟、そしてギャンビッツインの四人だけ。
「……予想以上にぼんくらだったな」
駆が二杯目のビールジョッキを置きつつ、ぽつんと呟く。その隣で、氷をがりがりとかじっていたフラリオが頷く。
凜花もそう思う。生まれから金持ちな彼にも苦労や事情はあるのかも知れないが、それ以上に呆れが勝る。自分に非がある可能性を考えず、相手を嘲笑えるその精神、ある意味尊敬ものではあるが。
才悟の方はと言うと、さっきまで怒っていたのが別人のようにしょぼんと落ち込んでいる。自分のやった事が子供っぽいと思ったのだろうか。凜花はそんな才悟の頭をそっと撫でた。
「私の代わりに怒ってくれてありがとう」
「……そうなのか?」
「ええ」
凜花本人に慰められたからか、才悟の表情がようやくいつものそれになった。