ガオナの女王・6 - 2/2

 校庭に、教官の声が響く。
「B組2番、美哉百子! 前に出ろ!」
「はい!」
 教官の野太い声に負けないぐらいの声で返事する女性――美哉百子。アカデミーで唯一の女性である彼女は、厳しいを超えた苛烈なカリキュラムを乗り越え、叢雲と戴天と並んで卒業試験まで残った実力者だ。
 性格は明るく前向きで、男たちに囲まれても決してひるまないぐらいの気の強い女性でもあった。だからこそ、こうして最後まで残ることが出来たとも言えるのだが。
 ……ただ、女性特有の「周期」には常に悩まされていたらしく、その時は薬をがぶ飲みしつつも気持ち悪そうな表情は隠しきれなかった。戴天や叢雲はその度に百子に休養を勧めたが、「敵はそんな事で待ってくれない」といつもの気の強さで乗り越えてきたのだ。そんな彼女の卒業試験。いったいどうなるのだろう。
 百子はカオスリングを左中指に嵌めると、高らかに「変身!」と叫んだ。

 ――そして、惨劇が始まった。

 彼女は徐々に姿を変えていくが、やがて腹――今でいうカオスドライバーの部分が赤く染まり始めた。
 最初はそれをただの赤だと思った。が、急に立ち込める鉄錆めいた匂い……血の匂いで、それが血の赤だと解った。解ってしまった。
「がッ!! ……ごぶ……ッ――っっ゛ッッげぼォォ……ッ゛!」
 口を開けば開くほど零れるのは赤い血と、悲鳴にもならない苦しみの声。
「な、何が起きて……!?」
 呆然自失の戴天が呟くのを聞いて、叢雲はようやく現実だと悟る。
 もはや変わっていた部分は消え、腹の血が目に見えてあふれ出してきている。このままいけば、出血死しかねない。何とか動いて止血処置をするべきだが、足は動かなかった。
「み、美哉! しっかりしろ!」
「そそそそうだ、B組2番! 変身を解除しろ!」
 叢雲と教官が声をかけるが、彼女の耳に届いていないのか、それとも止められないのか、とうとうみぢみぢみぢぃという肉が破ける音が響く。次の瞬間、腹を抑えていたはずの百子は大きく仰け反った。
「げぶぅぅぐぅばあ゛あああっ゛っ゛!!」
 百子の口から噴水のように大量の血が吐き出される。
 もはや止めても彼女が無事でいられると言う確証は……ない。
 そして。

 ぶぢゅりゅっ!!

 とうとう百子の腹が、裂かれた。
「ひっ!」
 教官の口から悲鳴がこぼれ、とうとう失神する。戴天の方は口を開いたまま、言葉にならない何かをずっと発し続けていた。
 自分も失神したい。全部夢だと思いたい。だが目の前の惨状はどれだけ目を擦っても変わることなく、目の前で同期がナニカに中から腹を裂かれて殺されているという現実があるのみだ。
「産まれる……?」
 戴天がぽつりとつぶやく。
 そうだ、正式なプロセスではないが、今百子は何かを産み出そうとしている。それこそ、腹の中にずっといたナニカが、この世に生まれ出でようとしているのだ。
 だとしたら、いったい何を?
 叢雲がそう思った瞬間、百子の腹からナニカが飛び出した。