「で、何でついて来たのさ」
まるで一緒に買い物にしに行くかのノリで、リバルがピアスに問う。問われた方も野暮用と言わんばかりの軽いノリで「思い出したんですよ」と答える。
「『ガオナの女王』が私の予想通りなら、彼女はかつての教え子です。教え子が間違った道を歩むなら、正すのが教育者の務めでしょう?」
「ふ~ん」
自分から問うたくせにあっという間に興味を失くすリバル。ピアスもそんな彼の飽き性は重々承知済みなので、何も言わず歩みを進める。
と、ピアスの歩みがぴたりと止まる。その視線の先にいる連中――ライダーに気づいたリバルも、歩みを止めた。
「ほんとご苦労な事」
相手の数は少ない。さっさと片付けて中に入ろう。
リバル――リバラールはあくびをかみ殺しつつ、一歩踏み出した。
「ゲーム、始めんぞ」
仮面ライダーRUIの号令を受け、ライダーたちが駆け出す。鉄砲玉よろしく一番に飛び込んだのは、当然仮面ライダー荒鬼だ。
「行くぜ行くぜ行くぜェー!」
景気のいい掛け声とともに、カオスイズム戦闘員の群れに突っ込んでいく。「先走るな!」とツッコミながらも、仮面ライダー慈玄と仮面ライダー塔竜がカバーに入り出した。
「若いっていいねえ」
暢気に言いつつもバックアップに回る仮面ライダー浄。ライズを伴った煙が漂い始め、戦闘員の持つ銃の照準が狂い始める。かく乱から逃げきれたとしても。
「はい、ざーんねん」
「解り易くて助かるぜ」
仮面ライダーSIZと仮面ライダーケルカが確実に倒していく。
あっという間に倒されていく戦闘員。しかしライダーたちの表情に緩みはない。何故なら、大幹部2人は一歩も動いていないからだ。焦りも慌てもない、これだけで彼らの底の知れなさが解る。
「雑魚をあらかた片付けても引く気配なし……。目的はやっぱ、中か」
「おいおい。とてもじゃないけど、レディをエスコートするには相応しくないだろうが」
浄のぼやきを聞きとがめたか、ピアシャールの攻撃が飛んでくる。慌てて飛び退る浄に、追撃と言わんばかりに数少ない戦闘員が銃撃してくる。当然、それらも交わしてミスティカルヴェイパーでまとめて黙らせた。
RUIは自分たちを見ているであろうドローンに視線だけ向ける。大幹部2人相手な以上援護は欲しいが、おそらくあっちも手一杯だろう。そもそも、メインは「ガオナの女王」の保護であって、大幹部をしとめる事ではない。
「やるしかねーか」
あとでアジト改良工事代金、しこたまたかってやる。
そう心の中で呟き、RUIはライズの触手をリバラールに向けて伸ばした。リバラールは飛んでかわし、ピアシャールはうざったいと言わんばかりに片手ではたく。
「スカした面してんじゃねェぞ!!」
ピアシャールの態度に腹を立てた荒鬼が、全力のストレートをピアシャールに向けて放つ。当然それも片手で受け止めるピアシャールだが、その固まったところを狙って、慈玄が義勇の大連弾を撃った。即席の連携だが、ダメージは与えられるはず。
しかし相手はつい最近まで荒鬼や慈玄を「教育」していた男。片手で荒鬼の動きを抑えると同時に、寸分の狂いなく慈玄の攻撃位置を探り当ててカウンターを決める。
「動きが単調だと何度も教えたはずですがね……。やはり落第生か」
「んだとォ!?」
「貴様ァ!」
「じゃあ俺はどうかな? 教育者さんよ」
激昂する二人の声に混じる、虹顔市のトリックスターことケルカ。ミスディレクションでピアシャールの視線を固定させていたケルカのジャックポットトライアタックが、彼の身体をやや浅めにえぐる。ダメージの少なさに、ピアシャールの顔が驚愕から少し緩むが、それこそがケルカの狙い通り。
「秘書!」
「はいっ!」
ケルカの呼び声に応じて、塔竜が槍を手に一気に飛び込む。竜を伴った乾坤一擲の一撃が、ピアシャールの脇を大きく貫いた。
それを見ていたRUI、SIZ、浄がリバラールに向き直す。
「おーおー、若手は若手でよくやるねぇ」
「それじゃ、ベテランはベテランできっちり仕事しないとね」
普段はそりが合わないと言い切る2人だが、戦いになれば話は別。リバラールを飛ばせないようにかく乱を始める。
地面を蹴って飛び込むSIZを見ながら、浄が煙を撒く。当然だがリバラールにその程度のかく乱は通用せず、迷う事無く飛び込むSIZに狙いを定めた。
攻撃が飛んでくる、と思った瞬間鋭い棘付きの触手が地面をえぐる。RUIのヘルチェインバイト。
「ちぇっ」
ぼやくリバラールに、もう一つの触手が飛ぶ。当たらないのは承知の上。だが、浄やSIZの攻撃のきっかけは作れた。
備え付けられたライズの爪をナイフのように投げるSIZ。浅く斬られたのを一瞬で確認し、スライディングでその背後を取る。
「取った!」
鋭く叫ぶと、SIZは投げていなかった方の爪で切り裂いた。しかし。
「調子に乗るなよ!」
リバラールが吠え、羽がSIZを切り裂く。ギリギリのところで浄が煙で再度かく乱したため、傷は浅く済んだ。
舌打ちするRUI。旨く行けば片翼を切り落とせると踏んでいたのだが、そこまで行かない辺り、やはり大幹部の名は伊達ではないようだ。
ピアシャールの方も奇襲はうまく行ったものの、それ以上の一手が打てないらしい。
膠着状態か、とRUIが改めて思った時、颯からの通信が入った。
『防衛班とカオスイズムが戦闘を始めたわ』
「マジかよ! こっちも急がないとな!」
凛花からの通信に、陽真がガオナを殴りながら答える。その隣でライズを飛ばしていた颯が、「あ」と上を見上げた。後ろに飛び退るとほぼ同時に、ガオナの女王のライズもどきが飛んできた。
「おれのライズよりも長いよなあ、あの髪ライズ」
「羨ましい?」
「いや、手入れ大変そうだしいいです」
そんな軽い会話を交わしたのち、2人はガオナクスの懐に飛び込む。
一方、突入班Aは自在に飛び回るガオナの女王を抑えきれず、混戦を強いられていた。
「家畜風情がァッ!」
短気な皇紀の毒がとうとうガオナの女王のローブにかかる。女王は水をかけられたかのように払うが、毒がそう簡単に落ちるわけもなく、白いローブが徐々に毒の紫色に染まっていく。しかし。
「じゃま」
そう言葉と共に毒に染まった部分を切り捨てる女王。そこから見える足は……黒い。
「身体がガオナ化してるのか?」
才悟が不思議そうに首をかしげた。確かにその黒は、腐りかけたそれよりもガオナのそれに近い気がする。
「人間とガオナが融合していると言うなら、さっきのアポカリプティックツインも解るな~」
つい先ほど変わったLOQ――Qが呟く。ガオナの女王の攻撃で入れ替わったのと同タイミングでアポカリプティックツインを放ったのだが、奪い取ったエネルギーが微妙に人間のそれとは違っていたのだ。
だとしたら。
「……みんな、少しの間だけ俺に時間をくれ」
宗雲がぼそりと呟く。
「俺が彼女の元に飛び込む。その間、全力で足止めしろ」
その言葉に、全員が頷く。突入班Aがガオナの女王を足止めし、突入班Bはなるべく多くのガオナたちを減らす。そうして出来た「隙」を見計らって、宗雲が彼女を抑える。そう言う作戦にまとまった瞬間だった。
「行動開始」
宗雲の合図に合わせ、全員が動き出した。
才悟が持ち前の瞬発力で飛び込み、ガオナの女王に拳を突き出す。そこから始まる肉弾戦。しかし五期生の中でもトップクラスだった才悟の攻撃は、ほとんどがいなされていた。LOQが尻尾を伸ばして足元をすくおうとするものの、その隙すら見いだせない。
「魅上くん!」
それでも同じクラスの紫苑はぎりぎり援護する。ひねられたライズが鞭のようにしなることで、女王は少し下がる。その隙に、宗雲が剣を手に一気に突っ込んだ。
4歩、3歩、2歩。切っ先が触れるまで、約1歩。その瞬間。
「……むらくも?」
――宗雲の動きが、完全に止まった。
叢雲。高塔叢雲。雨の中でタワーエンブレムの誓いと共に捨てた名を、彼女が口にした。知っている人間が少ないはずの、その名を。
「おい、何してんだ!? 攻撃していいのか!?」
ラリオフが声をかけるが、それを止めたのは意外にも塔天だった。
「各員、女王への攻撃は中止。ガオナに集中を」
「わ、解った……」
ラリオフは頬をかきつつも、阿形や神威と共にガオナの掃討に回る。その間も、宗雲と女王は動かない。
「……お前は、誰だ」
わずかな、本当にわずかな思いを込めて、目の前の女に問う。
女……ガオナの女王は小首をかしげながら、宗雲に応えた。
「みかな、ももこ」
からん……!
剣が、落ちた。