凛花の予想通り、カオスイズムもガオナの女王の情報を掴んでいた。
「ふーん、『ガオナの女王』ね」
自分の信奉者から情報を聞いたリバルが、自身が座る椅子を揺らしながら呟く。
その手には伝手を辿って手に入れた、女王の写真がある。一応全員に見せたが、誰も記憶にないとの事だった。
「引き入れることが出来れば、カオスイズムの力はさらに増す。是非とも我らの意思を聞き入れてほしいものだな」
「ハッ、聞き分けなかろうが連れてくるんだろうが」
ドミナの言葉にマイタスが鼻で笑う。その隣でアンビスが「違ぇねぇな」とケタケタと笑った。
「それにしても、女性の怪人って珍しいわね。ガオナ化したらみんな同じだし」
首をかしげるトルスに、ボルートが無言で頷く。カオスライダー候補探しは一応男女関係なく行われるが、女性の大半はカオスを打ち破ることなくガオナ化するし、例え耐えきれたとしてもアカデミーの「教育」に根負けしてガオナやガオナクスへの「供物」になる。数少ない例外は、今のところここにいるトルスのみだ。
そして何より。
一期生の際に起こった「事故」を踏まえると、どうしてもカオスイズムは女性の雇用を避けたいと思っていた。使えるまで鍛えても、最後の最後で事故が起きてはどうしようもないのだ。
「私としては興味がありますね。珍しいサンプルとして、是非とも教育してみたい」
「じゃあ、行くの?」
「ええ。もちろん」
ピアスがにやりと笑う。これは相当な数を出さないとなぁ、とリバルは面倒くさそうに椅子を揺らした。
作戦実行日、当日。
「作戦内容を確認します」
凛花の隣でファイルをめくるレオンが、今回の作戦の説明を始める。
「突入班AとBはカオスワールドに突入。以降は二手に分かれて、『ガオナの女王』を探してもらいます。A班が発見した場合、そのまま『ガオナの女王』と接触、説得をしてもらいます。B班が発見した場合はA班に通達、彼らが『女王』にたどり着けるよう援護をしてください」
要はAが直接接触担当、Bが露払い担当である。本当は役割担当はさせるべきではないのだが、説得の切り札でもある紫苑は1人しかいないのでこうせざるを得なかった。
さてそのA班担当は宗雲(リーダー)、紫苑、才悟、皇紀、ランス(Q)。B班担当は戴天(リーダー)、陽真、為士、松之助、颯、フラリオ。颯とフラリオには各班への連絡と通達も担当してもらうことになった。
「防衛班はルーイさまを筆頭に、カオスワールドへの扉を守ってもらいます。突入班の様子次第では、何名かはそちらのカバーにも回ってください」
担当はルーイ(リーダー)、慈玄、狂介、静流、浄、雨竜、駆。この班の人数が一番多いのは、来るかもしれないカオスイズム警戒のためだ。
「カオスイズムが来なけりゃ即帰るぞ」
相変わらずの面倒くさがりのルーイ。それをたしなめる慈玄に、まあまあと静流が笑って肩を叩いた。
確かにカオスイズムが来なければ一番要らない班だ。だが、カオスイズムは間違いなく動く。誰もがそう確信していた。
ライダー、ガオナ、そしてカオスイズム。三つ巴の戦いになるであろう事態に対し、凛花たちが選んだ作戦は部隊を3つに分けるというシンプルなものだった。
我ながら単純だとは思うが、戴天の言葉を借りれば一騎当千の強者揃い。何とかなる、と判断した。
「私たちはドローンとみんなの通信で、なるべく戦況を把握するわ。それでも戦地にいる貴方たちの方が状況把握は早いだろうし、撤退などはそちらのリーダーに任せるわね。……それじゃあ、みんな、頑張って」
凛花がその場を離れようとすると、陽真が笑って才悟の背中を押す。つんのめるように一歩前に出た才悟は、凛花の目をまっすぐ見つめた。
「必ずキミの望む結果を出してくる。オレを……オレ達仮面ライダーを、信じてくれ」
言われた方は最初目を丸くしたが、すぐにその顔が柔和な微笑みに変わった。
「もちろん、信じるわ」
凛花たちがその場を去ったのを見計らって、宗雲がカオストーンでカオスワールドへの扉を開ける。
「皆さん、お気をつけて!」
雨竜の言葉を背に、突入班が飛び込んだ。
……そして、目の前の光景に絶句する。
「とんでもねぇな……」
誰かのつぶやきを否定できないほどのガオナやガオナクスがひしめいていた。
カオスワールド次第では大量のガオナと戦うことはあるが、ここまでの数は誰もが初めて見る。まさにガオナの巣と言ったところだろうか。
「問題ない。俺の美しさで活路を開き、『ガオナの女王』とやらもひれ伏せさせればいい」
「気楽に言うなよ為士。大体俺達は女王担当じゃないだろ?」
「全く、そっちが間違えて倒さないようにしないとね」
「え? それダメなの?」
「いや駄目というか……」
颯たちが会話する中、おとり役も兼ねて松之助と陽真が一歩踏み出す。その音で、ガオナたちが招かれざる客――ライダーたちの存在に気づいたらしく、一斉にこちらを見た。
引き下がることはできない。それを察した全員は、それぞれカオスリングを取り出す。
「クラスの垣根を越えて戦うことになるとは思わなかったが……」
「呉越同舟。そうでもしないと勝てない相手、と思う事にしましょう」
何かといがみ合う事の多い二人だが、こういう時は一時休戦。そうでないと命を取られるのがよく解っているからだ。
と。
「皇紀、解ったか?」
「ああ……“いる”な」
才悟の獣じみた視力と、皇紀の野生のカン。その2つが「彼女」を捉えた。相手はまだこちらに気づいていないようだ。しかけるなら今の内だろう。
「みんな、行こう!」
「おっしゃ! みんな、行こう!」
陽真の言葉にフラリオがおうむ返しで応じた。
一方防衛班。
「待つだけなんて退屈だぜ」
「まったくだ」
早速緊張の糸が切れてしまった狂介がぼやく。同じく緊張の糸が切れたルーイがあくびをするが、当然それを慈玄が見咎める。
「ごめんねー、うちのリーダーがこんなんで」
「ふん」
また苦笑の静流がとりなすことで、何とか堪忍袋の緒を結び直す慈玄。とはいえ、慈玄もこのまま待つというのには多少なりとも不安と焦りを抱えていた。本当にこのまま待ってるだけでいいのだろうか……。
「ん?」
そんな慈玄の不安を遮るように、駆が何かを見つけたようなアクションを取る。続いて狂介が、ルーイがそれぞれ反応する。当然、慈玄もそれ……カオスイズムを見出した。
普段なら滅多に見れない大部隊。その先頭にいるのは、大幹部のリバルとピアスだ。
「やれやれ。ゆっくりさせてもらえないどころか、本気でかからないといけないようだね」
眼鏡を外しながら浄が軽くぼやく。既にその視線はいつもの柔和なものではなく、敵を陥れるためのそれだ。
「ですが、それだけこの先のもの……ガオナの女王が欲しいのでしょう」
珍しく雨竜が浄の言葉に同意するような口を開く。担当地区の大幹部ではないが、その実力は既によく知っているつもりだ。
相手の方もこっちに気づいたらしく、戦闘員が前に出る。まずは露払いと言ったところか。
「何、あんたらもこの先の女王に用があるの?」
「彼女の力は、我々カオスイズムが有効に使わせていただきますよ」
既に勝ちを確信したようなリバルとピアスの笑いに、全員の怒りに火が付く。特にルーイは「舐めた口叩いてんじゃねーよ」とやる気満々だ。
戦闘開始だ。
「「変身!!」」