ガオナの女王・2

 『彼女』と凛花が出会ったのは、娯楽地区の端だった。
 カオストーンの情報を元に調査をしていると、少し街道から外れた場所にたどり着いてしまったのだ。
 工業地区や下町地区ほどではないが、ここもやや治安が不安定な方。凛花もそれを十分知っているので、少し速足で抜け出そうとするが。
「なぁなぁ、ちょっとだけでもいいからさぁ」
「……」
 少しガラの悪い男性に絡まれている女性を見つけてしまった。整った顔立ちの儚げな美女だが、何より目立つのは白い服……と言うよりローブ一枚の姿と、何より足首までありそうな長い髪。

「「!?」」
 凛花の説明に戴天と宗雲が大きく反応する。
 それまでは腕を組むなり顔に手をやるなりといつもの聞いてる素振りでしかなかった2人だが、あからさまにその素振りを崩してのめりこむような姿勢になる。
 普段冷静な2人のその態度に凛花は思わず椅子からずり落ちそうになり、その他の面子も視線を彼らに向ける。
「お、おい、社長も前髪もその女、何か知ってんのか?」
 全員を代表して駆が問う。その言葉で全員を驚かしたことに気づいた2人は、一旦顔を見合わせてから首を横に振る。
「……存じ上げませんね」
「知らないな」
 明らかに何かあるのを、その場にいる全員が悟ってしまう。しかしそれを詰め寄るよりも先に、「……話を戻しましょう」と凛花が口を開いた。

 ナンパを止めるかどうか、凛花は少しだけ躊躇った。
 ライダーが誰か一人ついていれば声をかけることが出来ただろうが、今の自分は一人。男にとっては上質の鴨が2匹に増えたと思う事だろう。
 少し悩み……凛花は声をかけようと動いた。ここで我が身可愛さに女性を見捨てるのは、自分の性格に反する行為だから。
 しかし。
「あ」
 の、と言葉が完成する前に、女性の方が動いた。
 ひゅっ、という風を切るような音が聞こえたかと思うと、男が急にうずくまったのだ。腹を抑えている辺り、腹に重い一撃を食らったのが解る。そんな男に一瞥もくれず、女性はすたすたとその横を通っていった。
 うずくまる男とその場を去って行く女性、どっちを構うかの二択に対し、凛花は後者を選んだ。男には悪いと思うが、これもいい薬だと思ってもらうしかない。我ながら身勝手だと思うが。
 それはさておき。
 凛花があえて女性を追う事を決めたのは、女性の護身術に加え、ちらりと見えた黒い「ナニカ」が気になったからである。
「あの!」
 すたすたと歩いて行く女性に声をかけると、彼女は不思議そうな顔をして振り向いた。小首をかしげるそのしぐさは、自分より幼く見えた。
 ……しかし、そんな思いは一瞬で消えてしまう。

 彼女の影にいた黒い「ナニカ」。それはガオナだった。

「……!」
 普段なら襲ってくるはずのそれは、女性に撫でられて嬉しそう(に見えた)にしている。ガオナが現実世界にいるのもだが、そのガオナに懐かれているこの女性は一体何なのだろう。
「貴女は、誰ですか?」
 彼女に懐いているガオナを見据えつつ、女性に問いかける。襲われれば一発アウトだが、凛花はその時何故か彼女とガオナは襲ってこないと言う確信があった。その確信通り、彼女はにっこり微笑んだ。

「わたしは、『ガオナの女王』」

「ガオナの女王……」
 その言葉を繰り返す凛花。だが女性はそれ以上の説明をすることなく、ぺこりと頭を下げていつの間にか持っていたカオストーンをかざす。きらりと輝いたそれは、すぐにカオスワールドへの道を開いた。
「わたし、ふだん、ここにいる。いつでもあそびにきて」
 放り投げられるカオストーン。投げられたカオストーンを受け取ると、その色は普段のカオストーンより色の薄い黄色だった。

「その石は、まだ持っているのか?」
 松之助の問いに、凛花は実物を見せることで答える。いつでも、とは言われているが、今のところ1度も使ったことはない。
「ならとっととそいつを使って、その女倒しちまえばいいじゃねーか」
 興味なさげに言うルーイ。彼は「遊びに来て」を宣戦布告の一つとして捉えたらしい。確かに、ガオナのボス格からの招待となると、そう考えるのも妥当だろう。だが。
「もしガオアルだとしたら、戻せる可能性があるかもしれないのに……?」
 陽真がぽつりとつぶやく。かつて陽真たちジャスティスライドは、ガオアル化したレオンを元に戻した実績がある。それを考えると、どうしても放っておけないのだろう。甘い、とそしられてもそれを貫く。それがジャスティスライドなのだ。
「……油断大敵。気持ちは解らなくもないですが、相手は怪人であることだけはお忘れなく」
 戴天がそんな陽真にしっかりと釘を刺す。先輩たち3人がかりで責められたことを思い出したか、陽真が見る見るうちに小さくなった。申し訳ないがそんな陽真が少し可愛いなと思いつつ、凛花は石を仕舞った。

「……私は、この『お誘い』を受けようと思うの」

「「!?」」
 6人全員に緊張が走る。誘いに乗って行くと言う事は、ガオナの巣に飛び込むことになる。そこで凛花が選ぶ選択は……。
 全員が固唾をのんで見守る中、彼女が口を開く。
「ただし、行くのは私ではなくライダーのみんな。そこで、彼女を保護してもらうわ」
「――!」
 陽真の顔が見る見るうちに明るくなる。ルーイは少しだけ苦い顔をしたが、こちらの決定に文句を言うつもりはないらしく何も返さなかった。
「ガオアルだから救いたいってのか?」
 駆が問うと、凛花は首を横に振った。
「あくまで私のカンなんだけど……彼女、ただのガオアルじゃないと思うのよ」
「と言うと?」
 凛花の言葉に、戴天が食いついた。
「彼女は人間の姿を保ちすぎてる。レオン……カメレオンガオアルの時は、ほぼ怪人だったのに」
「……確かに」
 少ないながらも戴天たち先輩ライダーもガオアルとの戦闘経験はある。その時のガオアルは人間との共通点は人型であることぐらいしかなかった。凛花の疑問も納得できた。
「なりかけているだけ……と言う可能性は?」
 宗雲がぼそりと聞くと、凛花は「可能性はあるわね」と答える。
「でも、なら『ガオナの女王』なんて呼ばれる意味が解らないわ」
「なるほど」
「本当は私直々にそれを聞きたいんだけど、何が起こるか解らない。だから、早めにケリを付けましょう」
「……カオスイズムか」
 松之助の静かだが、怒りを秘めた言葉に、凛花は静かに頷いた。
 確かに。ガオナに慕われている存在を知れば、奴らも無理やり戦力にしようと動き出す可能性は高い。そうなると、保護しようとするライダー、無理やりにでも奪おうとするカオスイズム、彼女を守ろうとするガオナとの三つ巴の戦いは避けられない。
 最高なのはカオスイズムが動く前に彼女を保護する事。だからこそ、早めに動くのだ。
「作戦実行日は3日後。全員、その日は絶対に予定を開けておいてちょうだい」
 凛花の言葉――命令に、ライダー全員が頷いた。

「戴天」
 ライダーステーションを出ようとした戴天を、宗雲が呼び留めた。
「何なんです? 私には時間が」
 ないのですが、と言おうとした口は、宗雲の次の言葉で固められてしまった。

「長い髪の女……覚えているな?」

「っ!」
 戴天の脳内で今日見た夢が蘇る。ぼやけた顔の旧友の中で、たった一人だけはっきりとしていた存在……長い髪の女。
 宗雲が聞く辺り、彼にも心当たりがあるらしい。ということは……。
「……何の話でしょう」
 だが戴天はあえてしらばっくれた。私情で認めたくないのではない。彼が言いたいであろう事は「有り得ない」からだ。
「俺も気持ちは解る」
 言葉を続ける宗雲。
「彼女が生きているはずはない……。だが、凛花の上げた特徴は、あまりにも似すぎていると思わないか?」
「それは……」
「俺は知りたい。何故彼女が生きているのか、何故ガオナの女王などと呼ばれているのか」
「……」
「戴天!」
 自分も知りたい。
 そう叫びたかった。だが、彼女を思い出すのと同時に思い出してしまうのだ。
 彼女が、自分と宗雲――叢雲の目の前で死んだ事を。