合コン脱走談

「いいからあんたも来なさいよ。イイ男たくさん来るわよ」
 そう言われて、無理やり連れていかれた合コン。なるほど、確かにイケメンが揃っている。自分を誘った女――琴子が言うには、スペックもかなりのものらしい。自分には関係ないが。

 そう、私にとってこれらのイイ男たちは全く関係ない。何故なら冴えない自分が呼ばれたのは、この合コンに誘ってきた琴子の太鼓持ちのためなのだから。

 琴子は自称美人でハイスペックの女。確かに美貌に関してはかなりのものだが、問題はそれ以外。所謂DQN女で、仕事をはじめとした面倒な事は自分や後輩に押し付け、いい男には媚を売る。将来は専業主婦でセレブ生活をすると豪語している女だ。私はそんな彼女のいいところをアピールだけしていろとの事だった。
 正直、行きたくない。この女の言う「アピール」と言うのは他人を貶めて自分を上げるというやり方だ。つまり、私は踏み台になれということなのだ。やってられない。
 適当な理由を付けて逃げたいのだが、がっつりと腕を掴まれて引きずられている。彼女には似た者同士というか、同じ思考の女たちが取り囲んでいるので、私のような人間は取り囲まれて引っ張られるのだ。
 引きずられて無理やり参加させられた合コン。さすがに彼女のチョイスは凄く、男の方はイケメンかつ高そうなスーツを着ている。ラフな格好な人もいるが、つけているアクセサリーや腕時計は高そうだ。対する女子の方は、琴子や取り巻きは気合を入れたメイクをして服もパリッとしたものを着ている。引き立て役の私はメイクも服も一般的で、逆に目立って仕方がない。
 そこで、私は気づいた。男の方は一人足りない。
(ああ、なるほど)
 引き立て役の自分に与えるものはない、そう言う事か。
 なら自分は徹底的に人間観察に徹してみよう。男たちがこの女たち相手にどう動くのか見極めるためにも。

「初めまして~、それでは始めましょうかぁ」
 取り巻きの女がねっとりとした猫なで声で切り出す。その声に男の何人かは少し引いているようだったが、女は気にせず「まずは自己紹介から~」と真っ先に琴子を指した。
「初めまして。琴子です」
 指された琴子は、逆にいつもよりもしっかりとした声で挨拶する。すると引いていた男たちの視線が彼女に集中した。なるほど、さっそく琴子は一人踏み台にしてアピールして見せたようだ。
 さて互いの自己紹介も終わり、さあ歓談タイムとなった時、店のドアが開いた。そこにいたのは、オールバックの美丈夫。その姿を見て、琴子をはじめとした女たちが一斉に沈黙する。どこかで見た事あるような、と思っていたら、男の一人が美丈夫に声をかけた。
「浄、遅いぞ!」
「ごめんごめん。レディが離してくれなくてね……。でも、始まったばかりなんだろう?」
「ああ、今挨拶したところだ」
 浄、の言葉で思い出す。確かウィズダムの従業員の一人だったはずだ。しかし、何故ここに?
 さて女たちの方はと言うと、超高級ラウンジの男の登場で私以外の全員が色めき立っている。ある者はちらりと鏡を見たり、またある者は髪を撫でつける。誰もがターゲットを浄に定めたとすぐに解った。
 遅刻した浄が加わり、改めて歓談タイムが始まる。先陣を切ったのは男たちの方だ。
「みんなどういう関係で集まったの?」
 その質問に対しては、琴子の取り巻きが「会社の友達なんです~」と答える。私は友達になったつもりはないが、ここで話をややこしくするつもりはないので頷こうとするが。
「あ、この子は無理やりくっついてきたんですよ……。イイ男たくさん呼ぶなら私も呼べってしつこくって」
 琴子が困った声で私の設定を作る。とうとう私が踏み台にされる時が来たか、と内心呆れのため息を付いた。
 曰く、高収入イケメン揃いのこの合コンに無理やりくっついて、いい男を絶対に手に入れてやると息巻いている。それが琴子の中で作り上げられた「私」の設定だった。当然真実は真逆だが、リーダーシップがある優しい女性を演じている琴子に騙されている男たちは、それに気づかない。
 ……否、一人だけ雰囲気が違う男がいた。
 浄は何故か柔和な笑みを浮かべている。確か彼は全ての女性を等しく愛する紳士だ、と噂で聞いたことがある。だから琴子の話す「私」であっても、女性なら問題ないのかも知れない。
 まあそんな事はどうでもいい。私は琴子の話に苦笑いを浮かべつつ、カシスソーダのお代わりを要求した。
 食事と酒、おしゃべりが進む中、私は男たちを観察する。琴子の思惑通り、大半の男は琴子に夢中なようで、大量の質問が降り注ぐ。たまに取り巻きの方にも質問が投げかけられるが、ほぼおまけのようなものだ。そんな中、私は黙々と料理と酒を平らげ、たまに琴子の踏み台になってあげた。
 やがて、そんな歓談タイムもお開きの時が来る。このまま二次会かな、と思っていたら。
「さて、そろそろ俺は先に上がらせてもらおうかな」
 そう浄が言い出したので、男たちが驚く。女たちの方もえーと言い出した。そんな周りを意にも介さず、浄は笑って椅子にひっかけていた上着を取った。そのまますたすたと私の隣に立つ。
 私が首をかしげると、肩にそっと手を置かれた。

「じゃあ行こうか、俺のシンデレラ」

「「……は?」」
 私を含む女子全員がぽかんとした顔になる。逆に男性陣の方は浄の選択に意外性を感じていないようで、「彼女狙いかー」「結構良さげだしなぁ」と思い思いの感想を述べていた。
 手を引かれて連れて行かれそうになった時、やっと我に返った女子たち……特に琴子が浄を止める。
「じょ、浄さん、その人は金や見た目が目当てで……」
「解ってるよ。でもそれでもレディを退屈させるのは、俺のポリシーに反するからね」
 浄の言葉に女子全員が沈黙する。これではまるで、彼女たちがレディではないと言っているような感じではないだろうか。そう思っていたら、浄は懐から名刺を出して琴子たちに配る。
「だから、君たちはいつかラウンジにおいで。ここでなら、最高級のおもてなしをしてあげよう」
 配られた名刺と、その理由を知った彼女たちがきゃあきゃあと騒ぎ出す。それもそうだ。彼が働く高級ラウンジは会員制で、こういう時でもないと行けやしない。私も行ってみたいとは思っているが、その高さなどから一度も行ったことのない場所だ。
 琴子たちが騒ぐ中、私は浄に連れられて店の外に出た。

「どうして私を選んだんですか?」
 店の外に出た瞬間、開口一番にそう聞いた。
 話を聞かれた浄は最初不思議そうな顔をしていたが、やがてくすくすと笑い出す。
「そりゃ君のような魅力的なレディを放置するわけないだろう?」
「だったら他の人も魅力的じゃないですか」
 呆れたようにため息を付く。「知的でリーダーシップがあって優しい」琴子なんて、男にとって魅力的だろう。「男と金しか見ていない」自分とははるかに違う。
 そこを指摘すると、浄は苦笑を浮かべて手を広げる。
「おやおや、俺がそんな小手先の嘘に誤魔化されると思ってたのかい? あのレディが言ってた割には、君は合コン中ひたすら食事と酒、それと人間観察に熱中していたじゃないか」
「う……」
 合コン中、とりあえず踏み台ポジにはなっていたけれど、食べ物と酒が美味しくてついそっちの方ばかりに手が行っていた。プラス、琴子の言葉と態度に騙される男たちが見ていて楽しかったのも事実だ。
 だが浄は違った。琴子に騙されることなく、全体を観察して自分を選んだ。何を指して魅力的なのかは解らないが、店内で言っていた「退屈させたくなかった」と言うのは本心なのだろう。
「大方、誰かに無理やり連れてこられたんだろう? そんなつまらない合コンより、君ともっと楽しい話をしたいね」
「……それは、確かに」
 思わず笑った。
 誰かの引き立て役として連れていかれる合コンよりも、気の合う人と飲む方が断然いい。
 私は浄に手を取られて、夜の街へと歩き出した。

 ……彼のペースに乗せられて、うっかりと飲みすぎかけたのは、私の失態だ。