40代のおばちゃんエージェントと30歳のドリンク担当が酒を飲み交わすお話

「一人で飲むなんて寂しくないのかな?」
「そういうあんたはこっちに来ていいのかい? 女たちに刺されるのはごめんだよ」
「ははは、これは手厳しい。でも今日は珍しく長居しないレディだらけでね」
「それで人寂しくてこっちに来たってか」
「たまには見知った相手と飲むのも悪くないだろう?」
「……煙草、いるかい?」
「遠慮するよ。というか、スイーツの方が好きでね」
「味覚が歪むか。そう言う事なら進めないよ」

「それにしても今日の君は特にらしくないね」
「そうかい?」
「いつもの元気さが見当たらない」
「筋肉痛だからね」
「それはまた……」
「年を取るってのは色んなハンデを背負うって事だ。あんたもちょっとは感じてきてるんじゃないか?」
「……悲しいけど、確かに感じるね」
「時間ってのは非情だよ、まったく」
「それはよく解る」

「……車に、轢かれそうになったんだよ」
「それはそれは……大丈夫だったのか?」
「ちょっと打った程度だったよ。病院に行くまでもない」
「それでよく解放されたもんだね」
「……本当は、まだ寝てた方がいいとか言われた」
「だろうね。あの執事なら心配して言いかねない」
「違うよ」
「……?」
「乗り越えたと思ってても、こびりついてるもんだね」
「……まさか」
「動けなかったよ。思い出してさ」
「……当時、君は現場にいなかったんだろう?」
「いなかった。でも話を聞けばイメージはできるし、浮かんじまう」
「……」
「失ったもんが、後ろからのしかかってくるようなあの感じ。思い出しちゃったんだよ」
「だから動けなかったわけか……」
「あんたにもあるだろ?」
「……そうだな」
「忘れたくても忘れられないし、乗り越えたと思っても足を引っ張られる」
「気づいたら囚われている。まったく厄介なもんだよ」
「多分、死ぬまで引きずっていくんだろうね」
「ああ。むしろ、引きずっていけることを本望だと思うだろうさ」
「クソ厄介な感情だね」
「本当だよ。どれだけ経ってもそう思ってしまう」
「……一杯飲むかい?」
「いいね、頂こう」

「君は忘れようと思ったことはあるかい?」
「ないね。それと引き換えに得られるもんが少なすぎる」
「俺もさ。どれだけ辛いだろうが、これだけは譲れない」
「むしろ失ってから得られたものの方が多い。そう思わないかい?」
「ああ思うね」
「だったら忘れないし、しがみつかれたまま生きていくさ」
「全くだ。ところで……」
「ところで?」
「もう一杯どうだい?」
「いいねぇ。今日はもうちょっと飲んでいくわ」
「そうだね。これを肴に飲むのも悪くない」
「酒の力でちょっとは茶化せるようにはなったもんだし」
「そのぐらいの年にはなったことを喜ぼうか」
「だね。それじゃ」
「「乾杯」」

 

「ねえ宗雲~……」
「何だ」
「そろそろ閉店時間なんだけど……あの二人……」
「言ってくればいい」
「無理だよ~! あんな中に入れないって!」