「一人で飲むなんて寂しくないのかな?」
「そういうあんたはこっちに来ていいのかい? 女たちに刺されるのはごめんだよ」
「ははは、これは手厳しい。でも今日は珍しく長居しないレディだらけでね」
「それで人寂しくてこっちに来たってか」
「たまには見知った相手と飲むのも悪くないだろう?」
「……煙草、いるかい?」
「遠慮するよ。というか、スイーツの方が好きでね」
「味覚が歪むか。そう言う事なら進めないよ」
「それにしても今日の君は特にらしくないね」
「そうかい?」
「いつもの元気さが見当たらない」
「筋肉痛だからね」
「それはまた……」
「年を取るってのは色んなハンデを背負うって事だ。あんたもちょっとは感じてきてるんじゃないか?」
「……悲しいけど、確かに感じるね」
「時間ってのは非情だよ、まったく」
「それはよく解る」
「……車に、轢かれそうになったんだよ」
「それはそれは……大丈夫だったのか?」
「ちょっと打った程度だったよ。病院に行くまでもない」
「それでよく解放されたもんだね」
「……本当は、まだ寝てた方がいいとか言われた」
「だろうね。あの執事なら心配して言いかねない」
「違うよ」
「……?」
「乗り越えたと思ってても、こびりついてるもんだね」
「……まさか」
「動けなかったよ。思い出してさ」
「……当時、君は現場にいなかったんだろう?」
「いなかった。でも話を聞けばイメージはできるし、浮かんじまう」
「……」
「失ったもんが、後ろからのしかかってくるようなあの感じ。思い出しちゃったんだよ」
「だから動けなかったわけか……」
「あんたにもあるだろ?」
「……そうだな」
「忘れたくても忘れられないし、乗り越えたと思っても足を引っ張られる」
「気づいたら囚われている。まったく厄介なもんだよ」
「多分、死ぬまで引きずっていくんだろうね」
「ああ。むしろ、引きずっていけることを本望だと思うだろうさ」
「クソ厄介な感情だね」
「本当だよ。どれだけ経ってもそう思ってしまう」
「……一杯飲むかい?」
「いいね、頂こう」
「君は忘れようと思ったことはあるかい?」
「ないね。それと引き換えに得られるもんが少なすぎる」
「俺もさ。どれだけ辛いだろうが、これだけは譲れない」
「むしろ失ってから得られたものの方が多い。そう思わないかい?」
「ああ思うね」
「だったら忘れないし、しがみつかれたまま生きていくさ」
「全くだ。ところで……」
「ところで?」
「もう一杯どうだい?」
「いいねぇ。今日はもうちょっと飲んでいくわ」
「そうだね。これを肴に飲むのも悪くない」
「酒の力でちょっとは茶化せるようにはなったもんだし」
「そのぐらいの年にはなったことを喜ぼうか」
「だね。それじゃ」
「「乾杯」」
「ねえ宗雲~……」
「何だ」
「そろそろ閉店時間なんだけど……あの二人……」
「言ってくればいい」
「無理だよ~! あんな中に入れないって!」