シンデレラを捕まえた日

 正直、まるっきりその子の事は眼中になかった。
 と言うより、女性を好きになると言う事がないのだろうと思った。……無論、男性に恋をするわけでもない。
 ただ、僕は流されて誰かと結婚し、子供にそれを伝えていくのだろうと思っていた。
 何もかもが流される中で生きていくのだろうと。

 シンデレラの王子様も、実はそうだったんではないかと思う。

 僕があの子と改めて会ったのは、ちょっとした偶然からだった。
 足を軽くひねってしまった状態で物を運んでいたら、彼女とぶつかってしまったのだ。
 幸い、彼女には怪我はなかったけど、足をひねっていた僕にはかなりきつかった。
「大変!」
 ぶつかった僕よりも彼女の方が大騒ぎで、急いで保健室へ、と言ってきた。
「別にいいから」
「でも、怪我なされてるようですし」
 そんな感じの押し問答の末、根負けした僕は保健室で手当てを受ける事になった。
 大丈夫だから、と言った時の悲しそうな顔と、手当てを受けると言った時のほっとしたような嬉しい顔は、今でも覚えている。
 そう、忘れるわけがない。
 僕の心に、ほっとした暖かさと切ないまでの思いを与えたのだから。
 何故その顔を見て惚れたのかは解らない。
 でも僕は確かに、その顔をいつまでも見ていたいと思った。綺麗だからとかではなく、強く印象に残ったんだと思う。
 彼女の目にも、僕と同じもの――互いに惹かれあった感覚があったから。

 それからしばらく。
 僕は学園でも人気者で、ちょっとしたことでもすぐパーティーとかが用意されたりする。今回は確か、中間テスト終了記念だったか。
 見知った顔が揃って着飾って回りに集まる中、僕はこっそりため息をついた。本心から付き合ってくれる友と、自分の地位を狙う者。
 あまりにもぐだぐだに感じられるここは、ちょっと辛かった。
(あの子は、どうなんだろう)
 彼女は、前者なのか。それとも後者なのか。たった一言二言しか会話していないので、どうとも言えなかった。
 ――でも、どっちであろうとも気持ちが変わらないのは、確かな事だった。
 何度目か解らないため息をついていると、視界の端に何か綺麗なものが横切った。何の気なしにそっちの方を向き……目を丸くしてしまう。
 そこにいたのは、彼女――リタだった。白いドレスに身を包み、うっすらながらも化粧をしている彼女は、まるでシンデレラを思わせた。
 リタの方も僕に気づいたらしいけど、周りに人がいるのを見てすぐに視線をそらした。
 会いたい。二人きりでもっと色々話したい。
 でも今はこの状態で、近づく事すらできない。なら……。

 夜も更け、理由のないパーティーもお開きになる頃。
 取り巻きも帰っていったので、僕は会場を離れて個室の方へと向かった。部屋に関しての許可は取ってある。まあ、顔パスというやつで。
 周りに誰もいないことを確認してから、ドアを開けると……いた。
 広めのベッドに腰掛け、リタがぼんやりとしていた。
「……待った?」
 声をかけると、彼女はこっちの方を向き「いえ、そんなに」と答えてくれた。
 二人きりになるために、僕が裏で手を回してここに来させたのだ。結構強引な方法だったから、怒ったかもと思ったからちょっと安心。
「あの、それで……何の用でしょうか?」
 リタが首をかしげて聞いてきた。そりゃそうだ。突然呼ばれたんだし。僕だったら逃げるかもしれない。
 言うべきか、言わざるべきか。
 その問題は後回しにして、僕はとりあえず「色々お礼とか言いたくて」とごまかした。
 それからしばらくは他愛のない話が、ぽつぽつ続く。その会話の中で、僕はリタについて色々と知った。
 ……同時に、覚悟も何もかも飲み込んだ。
「あのさ」
 身体ごと、大きく近づく。
「僕は……君の事が好きだ」
 逃がさないように、手を彼女の身体へと回す。

「君は僕のことが好き?」

 捕まえた。
 一番最初に思ったのは、それだった。
 かすかにリタがうなずいたのを見て、僕はそのまま勢いで彼女をベッドへ押し倒す。ぽかんとしたリタの唇に、自分のそれを押し付けた。
「んっ……」
「……ん、ふぅ……」
 舌を差し込むのは簡単だった。ぴちゃぴちゃと絡み合う水音は、僕たちの神経をどんどん溶かしていきそうな気がする。
 そんな深い口付けをずっと続け、ようやく口を離した時、リタの顔はもう真っ赤だった。照れてるんじゃなくて、性的に興奮している顔。
 後ろに手を回すと、あっさりとドレスが脱げた。ちょっと悪いけど床に投げ捨て、まだ着けたままの下着すら手にかける。
「え……あ、だめ……」
 半裸になってようやくリタが焦った声を上げるが、もうお構いなし。下着まで脱がすと、柔らかそうな乳房がこぼれ出た。
「見ないでください……」
 恥ずかしさからか視線をそらすリタを余所に、僕も全部の服を脱ぎ捨てる。自分の胸と彼女の胸が触れた時、ちょっと甘くぴりっとした。
 豊満というわけではないけど、程よく大きくて柔らかそうな彼女の胸に、僕はそっと指を這わせてみた。
 ついっと撫でたり、軽く突っついてみたり、形が歪むほど揉んでみたり。手が動くたびに、リタはぴくりと動き、口から甘い声が漏れてくる。
「ここ、もう硬くて熱いよ……?」
「あああっ!」
 ぷっくりとした桜色の先端をつまむと、リタの喘ぎ声はいっそう大きくなった。硬くしこったそれに、軽くキスをしてから舌を這わせた。
 初めてのはずなのに、リタはちょっとしたことですぐに快感を感じ、ますます可愛らしくなっていく。喘ぎ声に切なそうな顔、何もかもが愛おしい。
 このままイカせてあげたい。一緒に高みに上り詰めたい。そんな気持ちで、まだ隠されたままのリタの秘所に触れてみた。
 しとしとと濡れたそこは、まだ誰も入っていない聖域。僕の勝手で、踏みにじってはいけない場所だ。
 リタもそこに手を触れたのが解ったらしく、視線をこっちに向けた。潤んだ目で、何かを伝えたいようだけど、僕にはわからない。
「……いいね?」
 静かに聞いてみると、やはり彼女はかすかにうなずいた。

「……挿入て……お願い……」

 その言葉に誘われ、僕はとうとう自分自身を彼女の聖域へと押し込んだ。
「んっ!」
「あうっ!」
 僕は締め付けてきたそれに意識を一瞬失い、リタは破られた痛みで大きく顔をゆがめる。接合した場所から、ぽたぽたと血がにじみ始めた。
 辛いと思う。だけど、ここでやめるわけにはいかない。
「……このまま、行くからね……っ」
 一つ断ってから、どんどん奥まで進めていく。リタの苦しそうな顔が深くなっていき、同時に僕はその締め付けに心が破裂しそうになる。
 自分だけ気持ちよくなるなんて、辛い。
 それでも何とか全部挿入すると、リタの顔が少し苦痛から和らいだ顔になった。
「……痛かった……?」
「だいじょうぶ……です」
 気丈に耐えているのか、気持ちよくなっているのか、それは僕には解らなかった。
 考えられるほど、心の余裕がなかった。
「じゃ、動かすよ……」
 ぐちゅ、と濡れた音と共に、僕は腰を動かして高みへと上り詰め始めた。雌の匂いと雄の匂いが入り混じり、濡れた音と喘ぎ声が重なる。
 汗や精液、蜜を撒き散らすほどの激しい動きが、快楽だけを提供し、僕たちを狂わせる。何を言ったのか、何を聞いたのかすらもう解らない。
 僕は一心不乱に腰を動かし、リタはそんな僕の動きを身体全体で受け止める。互いのキスが、身体全体に落ち、どんどん熱くさせていった。
「あうっ、ああんっ、ジャンゴさまっ、ジャンゴさまぁぁっ!」
「リタ……、好きだ……全部好きだ!」
 そして、限界は来た。
「あっ、ああぁああああああ!!」
 僕はリタの膣内に全てを吐き出し、その勢いで意識を失った。

 ……僕は目を開けた。
 時間からするに、達してからそんなに経っていないようだ。ベッドやシーツの乱れから、何となくそれがわかる。
 でも、隣にリタはいなかった。
 脱ぎ散らかしたはずの服は丁寧にたたまれていて、人がいた形跡を残していない。ちょっと前まで、僕とリタがここにいたのが嘘のようだ。
 シンデレラは、12時の鐘の音が鳴る前に帰ってしまった。
 だけど。

「……きちんとガラスの靴は、置いていってくれたんだ」

 唯一の忘れ物である髪留めを手に、僕は嬉しそうにつぶやいていた。