Solar Boy meets Devil Children「二人目のメシア」(激闘編)

 メシアの角を持つ条件は「男の子」であること。

 メシアの瞳を持つ条件は「女の子」であること。

 

 ノルンの鍵を持つ条件は……。

 

 

 

 夜もすっかり更けた。
 ジャンゴと刹那は同時にあくびをする。
「そろそろ戻るか?」
「そうだね」
 ジャンゴも立ち上がり、宿屋に戻ろうとするが。

「お待ちなさい」

 引き止める男性の声に、二人は後ろを向いた。その眼はもはや穏やかなものではなく、戦闘時に敵に向ける厳しいものになっていた。
 そこにいたのは、白銀の鎧に身を包んだ天使。昼間に対峙した天使とは違い、高貴な雰囲気が漂っていた。
「お前は誰だ?」
 刹那が鎧の天使に問う。天使はすらりと剣を抜きながら答えた。
「私は、救世主でありエンジェルチルドレン・ナガヒサ様に仕える大天使ウリエル。
 ナガヒサ様の安全のため、貴方たちを排除に来ました」
 跳躍。
 月光に鋭く光る剣の閃きを、二人はかろうじて避けた。
「くそっ、ここにこいつがいるってことは、部屋も襲撃を喰らってるかもしれないぞ!!」
「でも、簡単に僕たちを行かせてくれそうにないよ。彼は」
 月光魔法でトランスしたジャンゴ――黒ジャンゴが、ウリエルを鋭く見据える。
 ウリエルの剣先が、ジャンゴのほうを向いた。
「貴方ですね。光と闇の力を持つ者は」
「……?」
 ジャンゴは眉をひそめる。半ヴァンパイアの事を指しているのか?

「天使たちの間で、貴方に救世主としての力を望む者がいる。光と闇、相反する力を持つ貴方を」

「「何だって!?」」
 ジャンゴと刹那の声がハモった。
 ウリエルは苦虫を噛み潰したような声で、語る。
「メシアの角と瞳、それらを融合させることで誕生するノルンの鍵。だが、それを起動する唯一にして絶対の条件は「光と闇を持つ」こと。
 ナガヒサ様は類まれなる光の力を持っていらっしゃる。だが、天使の血を持つあのお方はどうやっても闇の力は持てない。
 メシアとしての力を持っていながら、メシアの条件を持たないあのお方を排除しようとする勢力が現れた今、私に出来ることはメシアの条件を持つ者を消し去ることのみ…」
 ウリエルの剣がまた閃く。標的は黒ジャンゴだ。
(速い!?)
 大天使を名乗ることのことはある。その剣はジャンゴのそれを軽く超えていた。徒手空拳で応戦するジャンゴ。
「わっ、わっ、わっ!」
 一応素手のスキルはマックスまで上げたものの、達人とまでは行かないジャンゴの拳は全てかわされる。逆に、ウリエルの剣は的確にジャンゴの隙を突く。
「ジャンゴ!? コール!」
 刹那が持っていた拳銃をウリエルに向けて撃つ。五芒星の魔方陣が出たかと思うと、そこからオレンジ色の犬が飛び出した。
「オルトロス、ウリエルを狙え!」
「分かった!!」
 刹那の命を受けた犬のデビル・オルトロスは、勇猛果敢にウリエルに飛び掛る。
「小賢しい!」
 ウリエルは剣で払う。ジャンゴへの攻撃がやみ、ジャンゴは体勢を立て直した。いつもの癖で、腰に手をやってしまうが、今持っているのは太陽銃ガン・デル・ソルのみ。
「ソル属性が通用するとは思えないし……」
 とは言え、拳一つで相手にかなうとも思えない。となると、方法は一つ。
「刹那! 何とかして隙を作ってくれ!」
「おう! 頼むぜ、ジャックフロスト! ケツァルカトル!」
 今度は魔方陣から翼ある白い蛇と雪だるまが飛び出す。雪だるま・ジャックフロストは「ヒーホー!」と独特の掛け声をかけて、氷の刃を放った。
 氷の刃にひるむウリエルに、刹那とオルトロスが飛び込む。白い蛇・ケツァルカトルは一つ吼えると、癒しの魔法を発動させた。
 至近距離から炎を放つオルトロス。ふらつくウリエルに刹那は腹に勢いよく蹴りを決め込んだ。
「今だ!」
 ジャンゴが吼え、その姿が人狼へと変わる。暗黒魔法チェンジ・ウルフだ。ジャンゴは隙の出来たウリエルに噛み付いた。
 牙は鎧を砕き、肉を食い荒らし、血を啜る。ウリエルが苦悶の叫びを上げた。
 チャンスとばかりに、刹那と仲魔が攻撃を仕掛けようとするが、
「貴様らぁぁっ!!」
 激昂した剣が一閃し、全員なぎ払われる。日(ソル)属性の攻撃だったため、黒ジャンゴのダメージが一番大きかった。
「ああ~、兄ちゃんがいないとやっぱ駄目だ~!」
「泣き言言うな! クールはあっちで精一杯なんだぞ!」
 弱気になるオルトロス(後で聞いた話だが、オルトロスはクールの弟らしい)に刹那がハッパをかける。
「……貴様ら、全員滅してやる……」
 ウリエルの剣が白銀に輝く。全員にダメージを与える必殺の天中殺だ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
 剣が振り下ろされん、という時。
「喰らえ!」
 暗黒弾が、ウリエルの背中を焼いた。
「「誰だ!?」」
 刹那とウリエルが同時に暗黒弾を撃った者を見る。
「兄さん……」
 うつろな声でジャンゴが彼を呼んだ。

 暗黒弾を撃ったのは、情報を集めて戻ってきたサバタだ。後ろにさっと、ザジが杖を構えて戦闘体制をとっている。
「まだやるか? ならもっと凄まじいのをお見舞いしてやるがな」
 サバタがわざとゆっくりと暗黒銃のチャージをする。そのエネルギーが自分の弱点になる月(ルナ、またはダーク)属性だと知ったウリエルは、さっと姿を消した。
「逃げられてもうたか……」
 ザジがゆっくりと杖をおろす。ジャンゴも黒から赤に戻るが、ダメージがきついらしく、ザジに手を貸してもらってようやく立ち上がった。
「全く、無様だな」
 相変わらずの兄サバタの皮肉。今回ばかりはその通りなので、ジャンゴも笑ったり返すことが出来なかった。
「あの、君達はいったい?」
 仲魔を拳銃――デビライザーに戻しながら、刹那がたずねる。昼とは全く逆の立場になったなと思いつつ、ジャンゴは刹那に二人を紹介した。
「僕の兄さんの暗黒少年サバタ。で、こっちの子は星読みのひまわり娘のザジって言うんだ。
 兄さん、ザジ、彼はデビルチルドレンの刹那。本当はまだ紹介すべき人もいるけど、とりあえずね」
「よろしく!」
「よろしゅうに。にゃはは!」
 刹那とザジはにこにこ笑いながら挨拶を交わす。
「……」
 サバタはぷいっとそっぽを向いたが、ジャンゴとザジのダブル肘鉄砲を食らって、しぶしぶと「……よろしく頼む」と挨拶した。
「とりあえず、宿屋に戻らへん? ウチ、こんなにぎょうさん歩いて疲れたわ」
 ザジがパンパンと脚を叩く。その一言で、ジャンゴと刹那ははっと思い出した。
「そうだ!」
「リタ!」

 サバタとザジを加えたジャンゴ一行はリタたちが眠っている部屋に飛び込んだ。
「遅いわよ!」
 すぐに未来の怒声が降りかかる。どうやら彼女達も襲撃を喰らったようで、部屋が散乱していた。
 ベッドまでひっくり返っているあたり、相当の激闘があったことが想像できる。
「悪い、こっちは大天使が相手だったからさ」
「大天使!? それならこっちも来たわよ。でも探していたのは別の人みたい」
「本当か!?」
 未来曰く、やってきた大天使ラファエルはジャンゴを探していたらしく、彼がいないことを知るとすぐに消えたらしい。
「でも、リタを連れて行くことは忘れてなかったみたいで、手下の天使たちが襲ってきたの」
 それでこの有様、というわけか。
「俺はこっちに残ってて正解だったな」
 クールがひょっこりと顔を出す。隣の部屋で寝ていたクールは、天使たちの気配に目が覚めて、未来たちと一緒に戦ったらしい。
「それにしても、リタと一緒にジャンゴも連れて行こうとするなんて……」
「ウリエルだっけ? あいつが僕もメシアの候補とか言ってたなぁ。それが原因なのかも」
 ジャンゴと未来がうーんと悩んでいると、話に全然ついてけないサバタが咳払いをした。
「お前ら、俺たちを置いて話を進めるな」
「そうやで! だいたいウチははよう寝たい!」
 ザジが我慢の限界と言わんばかりにばたばたと暴れだした。リタが慌てて、ザジを抑える。
 その様子を見て、刹那とクールは顔を見合わせた。
「とりあえず、明日に回すってことで?」
「の方がいいようだ」

 というわけで、この続きはまた明日となり、ジャンゴたちは眠りにつくことにした。
 ばらばらで寝たら襲撃時に離れ離れになる可能性も考え、ベッドを片付けて全員床で雑魚寝である。
「まるで旅行みたいですね」
 というのはリタの感想である。ジャンゴもおおむね同意だった。

「ジャンゴ」
 隣で寝ていた刹那がジャンゴに話しかける。
「何、刹那?」
 ジャンゴは眼を開けて、刹那のほうを見た。刹那の方は、視線を天井に向けたままだ。
「お前の兄貴、いい兄貴だな」
 それだけを言って、眼を閉じる。すぐに聞こえてきた寝息に、ジャンゴは刹那がそれだけを言いたかったのだということに気づいた。
(いい兄貴、か)
 ジャンゴはちょっとだけ誇らしい気持ちになった。

 

 最後に余談を一つ。
 ベッドをひっくり返したのは未来とリタである。天使に止めを刺すために、二人で蹴り飛ばしたのである。
 女の子のプライドで、それはさすがに言えなかった。

 ……だが言われなくても、ジャンゴと刹那にはそれがばっちりと分かっている。
 それを言わないでおくのは、男の子のプライドなのだ。