「あ……」
意識が暗転する。
「ひまわり!?」
最後に聞こえたのは、憎たらしいあいつの声。
ザジが目を覚ますと、そこは宿屋の二階だった。
「……?」
自分で移動した覚えはない。不思議に思って視線を動かすと
サバタが寝ていた。
椅子に腰掛け、腕を組みながら、こっくりこっくりと舟をこいでいる。
(…悔しいけど、寝顔は可愛い)
いつもの皮肉屋で憎たらしい顔がはがれ、素直な少年の顔がそこにあった。こうして見ると、かなりジャンゴにそっくりである。
何となくいつまでも見ていたい衝動に駆られたが、ザジは大声を出してたたき起こすことにした。
「こらぁサバタ! いつまで寝とるか!」
「…うわっ!」
近くで大声を出されて、ようやくサバタは目を覚ました。一瞬、どこにいるのか分からないらしく、あたふたと回りを確認した。
「……ああ、やっと起きたのか」
「何が『やっと起きたのか』や! お前は看病しにきたんか!?それとも寝にきたんか!?」
「寝に来た」
「うにゃーーー! 可愛くない!!」
看病、と言ってくれればザジも素直になれたが、そこはそこ。ひねくれ者のサバタは素直になるのを拒んだようだ。
ザジはしばらく頭をかきむしっていたが、よっこいしょ、と身体を起こす。喧嘩ばかりしていられないことをやっと思い出したようだ。
「いったい何があった?」
サバタも本題に入る。喧嘩が多いこの二人だが、真面目になればいいコンビなのだ。
「星読みや。未来を視た」
「本当か!?」
ひまわり娘の名を継承する彼女は、星読みの力も継承していたようだ。そんなところが、ますますサバタに『彼女』を思い出させた。
ザジはそんなサバタの心中を知ることなく、さっき視たヴィジョンを話す。
町に天使来たりし時 光祓われ 光堕ちる。
それは選択。それは始まりと終わりの境。
天と魔 それは太陽と暗黒。
太陽と暗黒 それは光と闇。
救世の名の下に、ヒト選ばれる時
世界は新たな姿を見出さん。
「……もっと詳しいこと言うてたかも知れへんが、ウチが今思い出せるのはこれだけや」
「天使か……」
神の使い。白い翼を持つ者。聖なる存在。ヘルの元にいた時、それは害悪だとサバタは教えられた。実際にいるとは信じていなかったが……。
「始まりと終わりっつーのもよう分からへん。この世紀末世界、終わりはともかく始まりは……」
「始まりは終わりの始まり、というのはよく聞くがな」
だが今回の星読みで、それが当てはまるとは思えない。
「情報が少なすぎるんや。エターナル騒動でも、リンゴさまが生きてた噂とかが広まってたのに……」
「情報はあるかもしれないが、俺達の回りにはなさ過ぎる、という事か」
サバタはそう言うとおもむろに立ち上がった。
「ウチらも動きますか」
ザジもベッドから起き上がる。サバタの前に立つと、にやりと笑った。
「ところでサバタ、よだれのあとがついとるから拭いたほうがええで」
「何!?」
サバタは慌てて口を拭う。その隙に、ザジは部屋から出た。
「嘘に決まってんやーん! にゃはははは!!」
「……ちっ」
サバタは赤面して、後を追った。
*
さて、こっちは果物屋。
太陽樹での戦いの後、ジャンゴ・リタ・刹那・クールの4人(正確には3人と1匹)は落ち着ける場所としてここにやってきた。
もちろん、客が来ないように「本日休業」の看板をかけてある。
「さっきの戦い、見てたぜ。お前、デビルになれるんだな」
「デビル?」
刹那の言葉にジャンゴは首をかしげる。クールが説明した。
「デビル、というのは大雑把に言えば人間や動物とは全く違った生き物だ。例えば、俺はケルベロスという狼のデビル」
「でもこの格好じゃどう見ても犬だよなー」
「犬じゃねぇっつってんだろ!!」
刹那の余計な突っ込みにクールがかじりついた。そのほほえましい光景に、リタがくすくす笑う。
いつまでも終わりそうにないじゃれあいを続ける二人に、ジャンゴが話の続きを促した。
「あの、もっと詳しく…」
「…ああ、すまん。お前達の言うイモータルと違う点は、俺達は純粋にこの大地で生まれた存在だってことだ」
「ダークマターは持っていないって事?」
「そういう事だ。デビルがもつ闇の力は、誰かから与えられたわけじゃなくて、最初から持ってる力って事だ」
「なるほど……」
初耳だった。
どうやらこの地球、予想以上に色々な生き物が存在しているようだ。
「…でも、僕のトランスはデビルとかの力じゃないよ。吸血変異で手に入れた能力なんだ」
「ふーん……」
刹那が興味深そうにジャンゴをしげしげと見る。ジャンゴは何となくばつの悪そうな顔になった。
「で、今何が起きているんでしょうか? さっきの天使は私を救世主のパートナーとか言ってましたけど……」
リタの質問に、刹那とクールは顔を見合わせた。
「オレ達も調査始めたばっかりだからなぁ……。何を起こそうとしているのかぐらいしか」
「それに少しぐらいしか話せんぞ」
ジャンゴとリタは二人に詰め寄った。
「それでもいいです」
「僕たちも、何か関係ありそうだし」
二人の真剣な顔に、刹那はそれじゃあと切り出した。
「オレの予想だと、たぶん天使たちはハルマゲドンを起こそうとしてると思うんだ」
「「ハルマゲドン?」」
新しい単語に、ジャンゴとリタは声をハモらせる。刹那は一つうなずいて、話を続けた。
「デビルたちの間の伝説なんだけど、世紀末世界でノルンの鍵と言われる物を手にした者は、二つの選択が出来るらしいんだ。
一つは全てをやり直すハルマゲドン。
もう一つは世界を新しい段階に進めるラグナロク。
……天使たちは全てをやり直すハルマゲドンを望んでる」
「ノルンの鍵だと!?」
唐突に声がしたかと思うと、ジャンゴの前におてんこさまが具現した。
「おてんこ!」
「うわぁびっくりしたぁ!」
いきなり出現したおてんこさまに、刹那とクールの目が丸くなる。
「ま、まさか太陽の使者おてんこさま!?」
おてんこさまも、刹那とクールのほうを見て目を丸くした。
「魔界の門番ケルベロス……。もしや、お主、デビルチルドレンか!?」
「おてんこさま、デビルチルドレンって?」
ジャンゴの質問に、おてんこさまは難しい顔をして答える。
「デビルチルドレンとは、デビルと人間の力を持ち、デビルたちを従えられる少年少女のことだ。
太陽少年であるお前は血筋によって力を受け継いだが、デビルチルドレンは、赤子の頃に何らかの方法でデビルの力を受け継ぐ。
変異による悪影響はないが、常に世界の運命に左右される存在でもあるのだ」
「良く知ってるな」
クールが感心するが、おてんこさまは
「それより、お主らが私のことを知っているほうが驚きだ」
と返した。刹那がにやりと笑って、パソコンを取り出した。
「デビダスに、あんたの情報があったんだ」
「なるほど。お前達の認識では私もデビルの一種なのか」
感心したように、刹那のパソコン――ヴィネコンを覗くおてんこさま。……が、いきなりショックを受けてひるひると落ちた。
おてんこさまが何故いきなり落ちたのかは気になるが、もっと気になることがあった。
「ハルマゲドンを起こそうとしているのは分かったけど、それとリタにどういう関係があるんだ?」
リタもこくこくうなずく。
答えは刹那でもクールでもない、第3者からだった。
「エンジェルチルドレンよ」
……ところで、なぜおてんこさまがショックを受けたのか。
その答えはデビダスにある。
『 おてんこさま 種族 レイ 属性 日(光) クラス キング
LV1 HP30 MP10 アタック5 ガード4 マジック3 Mガード3 スピード2 ラック4
技・魔法 なし
(地上に住まう全ての生き物を守るために降臨した太陽の精霊。パイルドライバー召喚など、太陽の技を使うが、戦いには全く使えない) 』