一番最初に目に飛び込んだ場所に入る。
太陽スタンドを見て、ジャンゴはそこで初めて自分が入ったのが血錆の館だと気がついた。
エンチャント・フレイムをかけた剣を突き立てて、焚き火の代わりにする。
剣の側にリタを寝かせ、ジャンゴはグレネードのライジングサンを撃った。出来る限り部屋を暖め、体温を元に戻さなければいけない。リタも、自分も。
ライジングサンを3発ほど撃つと、部屋の中は暖かいというより暑くなった。冷え切ったリタの身体に、毛布の代わりに部屋の熱で暖かくなったマントをかける。
彼女の体温を測ってみると、さっきよりかは暖かくなっていた。とは言え、このままでは風邪どころか命にかかわるかもしれない。
濡れた服を着続けていると体力を消耗するという。だが、意識を失っている彼女の服を脱がせるなど出来ない。というよりやりたくない。
考えに考えた末、ジャンゴはリタにかけていたマントを外し、自分とリタを覆うようにかけなおした。
暖かい
ずぐん
誰かの心臓の音?
ずぐん
おかあさん?
ずぐん
おとうさん?
ずぐん
何でもいいわ。いつまでもここにいるから
ずぐん
……ダメなの?
ずぐん
……待っている人がいる?
ずぐん
誰?
ずぐん
私を待っているのは誰?
ずぐん
……私を待っているのは、誰?
――僕だよ!
激しい頭痛で目が覚めた。
「……?」
うつろな目で辺りを見る。なぜか体が不自由だがこのさい気にしない。ぎこちなく首を動かすと、見慣れない部屋が飛び込んできた。
「どこ……?」
自分は確か太陽樹の根元にいたはずだった。そこで祈ることで、太陽樹に全てを捧げるはずだった。
だとしたらここは来世? それとも意識だけがここに飛んできた?
現実に引き戻すかのように、激しい頭痛が再度襲ってきた。頭を抑えると、近くで声がした。
「気がついた!?」
声の大きさにびくっとした。同時に体の不自由さの理由が分かる。抱きしめられてる。それも強く。
「良かった……。本当に良かった……!」
今度は優しく抱きしめられる。それによって、彼のぬくもりが逆に強く感じられた。頬に何か違和感を感じるが、もしかして泣いているのだろうか。
優しくて、暖かい、この人は。
「ジャンゴさま……?」
リタはうつろな声で愛しい少年の名前を呼んだ。
名前を呼ばれたことで、ジャンゴはようやくリタを離した。可愛いくしゃみが一つ出る。
「服濡れたままだから着替えて。とりあえず換えの服持ってきたから」
そう言ってジャンゴがバッグから出したのは、リタもよく見覚えのある大地の衣だった。確か太陽樹の贈り物としてもらった物のはずだった。
これって嫌がらせ?とぼやいたジャンゴについ吹き出したのを思い出す。これがこんな所で役に立つのだから、妙なものである。
ジャンゴに部屋を出て行ってもらって、借り物の大地の衣に袖を通す。ほかほかに暖まっている服は、リタの心の中に一筋の光を射しこませた。
自分のためにここまでしてくれるジャンゴの優しさと、ジャンゴにここまで心配をかけさせたことでリタの目から涙がこぼれる。
(馬鹿だ、私って)
何でジャンゴの気持ちを分かってあげられなかったのだろう。ジャンゴと喧嘩して仲直りする時、彼の気持ちを一番に考えようと心に決めたのに。
結局自分は成長していない。あの時から、ちっとも変わっていない。
だがあの時、自分はジャンゴの側にいてはいけないと強く思ったのは事実だった。
いつヴァンパイア化するかもしれない人間が側にいたら、ジャンゴに迷惑をかけてしまう。彼の側にいること自体、大きな罪に思えた。
だが、それはジャンゴが決めることで、自分が決めることではないのではないか?
(私がジャンゴさまの側にいたいと思ったから側にいた。ジャンゴさまも私と一緒にいたいと思ったから側にいた、そう思ってもいいの?)