寂しい気持ち・8日目

 カレンダーを捲る。また捲る。

 8枚目のカレンダーを捲る時、リタはなぜか悪い予感がした。

「お久しぶりね。太陽少年」
「……やっぱり、復活したんだ」

 2週間前に浄化したイモータル。

『彼女』は薄い笑みを浮かべる。
「貴方は、相変わらずそうね…」
「違うよ」
 2週間前と同じく、ジャンゴは『彼女』の言葉を否定する。2週間前と違うのは、今のジャンゴはちゃんとした答えを返せるということだ。
 ソル・デ・バイスにレンズを投入して、武器をソル属性にする。
 剣が白い軌跡を描く。

 一歩。『彼女』に詰め寄る。

「僕は、寂しいけど、寂しくない」

 また一歩。『彼女』に詰め寄る。
『彼女』が動揺するのが、手に取るように分かる。

「あの娘にも、寂しい思いをさせるけど、寂しい思いはさせない」

 また一歩。『彼女』との距離がどんどん狭まる。
『彼女』の顔が、よく分かる。
 あの顔は、2週間前の僕の顔。

「僕はあの娘を信じるのが好き。あの娘のことを思うのが好き」

 最後の一歩。剣を構える。

「僕は、僕を好きでいてくれるリタが好きだから」

 剣を振り下ろした。
『彼女』の顔が、安らいだものへと変わる。ジャンゴの顔が、消滅した恋人の顔に見えたのだろうか。

「……離れても、寂しくなんかない」

『彼女』は消滅した。

「……もうあのイモータルが復活することもあるまい」
 おてんこさまがジャンゴに近寄った。ジャンゴが静かにうなずく。
『彼女』を現世にとどめ続けたものが、取り払われたのだ。今は消滅した恋人と共に、新たな転生を祈るばかりである。
「だが、同時に厄介なことになった」
「どういう事?」
 厳しい顔のままのおてんこさまに、ジャンゴが眉根を寄せた。
 おてんこさまはワープ結界を作りながら、ジャンゴにとんでもないことを告げた。
「あのイモータルは最後にグールたちに指示を出した。
 自分の同属を作れ、とな」

 同属を作る。
 すなわち、近くの町を襲うということ――。

「ここから一番近いのって、サン・ミゲルじゃないか!」
「ああ。太陽樹があるとは言え、商店街の周り以外はいまだ危険地域だ。ようやく人が戻ってきたというのに、また死の町になるぞ」
「急がなきゃ!」
 ジャンゴとおてんこさまは駆け出した。

 大切な者を守るために。

 9枚目のカレンダーが捲られた。

 サン・ミゲル。
 空気の流れが淀み始めていることに気づいたのは、サバタだった。
 果物屋で太陽の果実をいくつか品定めしていた時、急に顔を上げたのだ。
「サバタさま?」
 突然のサバタの行動にリタが声をかけるが、サバタは厳しい顔で空を見上げたまま、リタの言葉は聞いていなかった。
 リタは再度声をかけた。今度は少しきつめに。
「サバタさま!」
 サバタは空を見上げたまま、ようやく答えた。
「……グールが来る」
「え!?」
 慌ててリタも空を見てみるが、空は青く澄み渡っていて、暗雲など一つもなかった。が、サバタの表情はきつい。
「遅くても明日には来る。覚悟しておけ」
「覚悟って……!」
 リタはその時になって、ジャンゴはまだ帰って来れないことを知ってしまった。