風邪を引いて寝込んでから三日目。ようやくジャンゴの熱も下がった。
とは言え、風邪は引き始めと直りかけが肝心。大事を取ってまだ寝ていた。
その日は、ザジが見舞いに来た。
「大丈夫か?」
「うん。だいぶ熱も下がったし、明日には外出歩けると思う」
「ふうん…」
ザジが椅子を引き寄せて座った。
そのまましばらくは沈黙が続く。
「……なあ、あんたらいつになったら仲直りするんか?」
ザジがぼそりと聞いた。ジャンゴはしばらく考えた後、分からないと答えた。
「分からないって、それじゃ…」
それじゃリタの答えと同じやんとザジは心の中で続けた。まさか、ジャンゴもリタのために離れてしまうのだろうか。
「僕はさ」
ジャンゴが遠くを見つめながら言う。
「喧嘩したらただ謝ればいいってモノじゃないと思うんだ。その時、相手が何を求めてるのかちゃんと分からなければ、本当に仲直りできるとは思えないんだ」
隣にいるザジではなく、遠くにいる誰かに聞かせるような言い方。
「リタのことは好き。でも、好きって気持ちだけじゃきっと駄目なんだ。
今ある壁を壊さなくちゃ、本当に解決できる問題じゃない」
「壁?」
ザジがジャンゴの言葉に反応した。ジャンゴは静かにうなずいた。
「壁を壊した先の答えが、彼女と離れ離れになることなら、僕は素直にそうする。独りよがりで我侭な考えだけどさ…」
「ジャンゴ……」
何でいつも我慢の道ばかり選ぼうとする。
たまには誰かの胸の中に飛び込んで、思いっきり甘えて泣いても誰も攻めないというのに。
ザジはジャンゴの告白を聞いて、泣きたくなってしまった。誰のための、何のための涙かは分からないが。
翌日。
ジャンゴはなまっていた身体を元に戻すために、簡単なアンデッドダンジョンに潜りこんでいた。途中、アイテムバッグの中が空だと気づき、一回外に出ることに。
今まで空気が淀んでいた地下にいたから、空気が美味しく感じる。
深呼吸を一つして、ジャンゴは道具屋へ向かった。
回復薬、魔法薬、毒消し。ある程度買い込んで、外に出る。
と、最近見なかったおてんこさまが顔色を変えてジャンゴの方にやってきた。
「ジャンゴ、大変だ!」
「何かあったのか?」
相当あせった表情に、ジャンゴも表情を引き締める。おてんこさまはあせった表情のままで答えた。
「この間浄化したイモータルが、復活しかけているようなのだ!」
「ええっ!?」
ジャンゴの表情が驚きに変化する。彼女は1週間前に確かに浄化したはずなのだが……。
彼の表情から言いたいことを察したおてんこさまは、真剣な顔つきで言う。
「イストラカンでのことを忘れたか? 上級のイモータルの手か何かで、奴らは復活する可能性もあるのだぞ」
「そ、そうか…」
ジャンゴはシェードマン事件も思い出した。確かあれは伯爵が自分の体を求めて、シェードマンを召喚したらしい。復活の意思が強ければ、彼らは蘇る可能性もある。
まさしく死から逃げ出した者たちである。
「一応まだ完全復活とまではいってないが、この状態ならいつ復活してもおかしくはない。現地に行って再封印の必要がある」
ジャンゴはうなずいた。どうやら、今すぐ出発したほうがいいらしい。
道具屋の隣にある果物屋の前まで行き、手を振る。
「いってきます」
それだけ告げて、ジャンゴは走り去った。
ジャンゴが去ってからすぐに、果物屋のドアが開く。
「……いってらっしゃい」
リタが、ジャンゴが走って行った先に向かってつぶやいた。
サン・ミゲルを出て、目的地に向かう途中。
「……おてんこさま、あれ半分嘘でしょ」
ジャンゴが足を止めて言う。
おてんこさまはやれやれと肩(?)をすくめた。
「お前達には少し時間が必要かと思ってな」
「そう」
ジャンゴは苦笑した。おてんこさまにまで気遣われるとは思っていなかったのだ。
「私は忠告は出来んが、時間を与えることは出来る」
「だから嘘ついてまで、サン・ミゲルから僕を離したの?」
「まあな…」
今度はおてんこさまが苦笑したが、すぐに真剣な顔つきになる。
「とは言え、前のイモータルが復活しそうなのは真実だ。現地に向かい、どうにかして再封印を施す必要がある。急ぐぞ!」
「あ、待って!」
ジャンゴは慌てておてんこさまの後を追った。
リタはカレンダーの日付から、誕生日から半月が過ぎていることに気づいた。
(また、カレンダーをめくる日が来たのね…)
まるで2週間前と同じ、とリタはため息をついた。