METEOS・1

 宇宙に星々が生まれ、その星々で生命が生まれ、文明が栄えて長い時が経った頃。
 ある惑星がある惑星と衝突、過度の融合・増殖により暴走、とんでもない悪魔と化した。
 かつて、その惑星にも名前があった。だが、防衛の時の流れにその名は忘れられ、人々は恐れをこめてこう呼ぶようになってきた。――惑星メテオス。
 圧縮された物質群・メテオにより、数々の惑星は圧殺され、銀河は形を失っていった。だが、高度な文明を誇る惑星の中で防衛作戦が展開され、一時的に難を凌ぐ事はできた。
 方法こそ違えど、パターンは同じだった。近似した物質のメテオを連結させ、逆噴射させることによりメテオを打ち上げる。これにより、メテオ自体を返すことはできたのだ。
 助かった。これでメテオの恐怖は消え去った。人々はそう思った。
 だが、それは早すぎる結論だった。

 残されたメテオは物質である。しかもあの惑星メテオスからのもの。すぐに調査団が結成され、メテオ分析が始まった。
 それにより解ったことは、メテオはありとあらゆる物質が凝固されてできたもの。それにより、合成・融合でありとあらゆる物質を作り出すことができる。それが調査結果だった。
 ありとあらゆる物質。つまり、今のテクノロジーでは解析できないモノも、メテオの中にはあったのだ。
 悲劇の再開は、メテオ防衛作戦が功を労してから五年ぐらい経った後のこと。
 どこの星からかは解らないが、突然、調査団が暴れだす事件が起こったのだ。しかもただの暴動ではない。調査団は全員、謎の生命体と化していた。
 異形の生命体となった人間が、同じ人間を襲い、自分の糧とする。そのような事件が、あちこちの惑星で起こった。
 人々が変化したその生命体は、いつしか「コメット」と呼ばれるようになり、メテオと並ぶほどの脅威となる。

 メテオによるエネルギー難などからの開放、新たな星々との交流。メテオスの恩恵ともいえる安寧に身をゆだねようとしていた矢先の出来事だった。

 

 

「う、う~ん…」
 宇宙基準時間にして午前八時。
 銀河連合軍特務部隊所属・戦闘用アンドロイド開発技師のメックス星人ラキは、ようやく自分の仕事を終えてばったりと床に倒れた。
「お疲れ様です」
 部下である開発技師見習いのサボンが、間髪いれずにコーヒーを出してくる。彼女は才媛ではあるが、のんびり屋でふわふわとした感じなのでどうもそうには思えない。
「ん、あー、悪いな」
「きゃあああああ!! ど、ドライバーをこっちに向けないでください!」
 おまけにかなりの先端恐怖症。先が丸まっているはずのプラスドライバーですら、向けられると騒ぎ出すのだからある意味才能ではある。これでよく技師を目指そうと思ったものだ。
 もちろん、形上ではあるが上司であるラキはその事を知っている。苦笑いをしてドライバーを自分の工具箱の中に入れた。
 ようやく目の前の脅威がなくなり、サボンは安堵の息をついてファイルを手渡す。それは、今まで自分がメンテしてきた「自分の子」らのデータであった。
「ここまで重傷でよく帰ってこれたもんだぜ」
「重傷、といってもここ最近はいつもじゃないですか。ビュウブームさんなんて、武器は壊してくるし、そのくせ無茶はするしで、レグさん怒ってましたよ」
「おやっさんは武器を壊して帰ってくることにキレてるんだろ」
「それにビュウブームさんだけじゃないですよ。アナサジさんは全武器使い果たして帰ってくるし、ラスタルさんも戦闘に参加する羽目になるし…。やはりもう一人ほしいですよ」
 サボンの言葉に、ラキはうーんとうなった。
 ビュウブーム、アナサジ、ラスタル。この三人はすべてラキのチームが開発した戦闘用アンドロイドである。
 メテオ分析・研究の際の障害となるコメット。人間がうかつに近づくと、まずコメットの犠牲者となり、第二のコメットになりかねない。そのコメットを排除するために、いくつもの手段が考えられた。
 遠距離からの狙撃、メテオやコメットの遺伝子操作を受け付けない合成人間の創造。戦闘用アンドロイドによる直接排除だ。
 連合軍をはじめとした主な所は、ジオライト星で作られた量産型アンドロイド「GEOLYTE」を配備しているが、ラキはそのフレームに独自のカスタマイズを施し、オリジナルのアンドロイドを作っていた。
 高速戦闘および空中戦メインのビュウブーム。
 陸地戦を主とした全身武器庫のアナサジ。
 光線を利用しての索敵や情報収集が仕事のラスタル。
 銀河連合軍特務部隊「メタモアーク」に配備されている戦闘用アンドロイドは、この三体だけである。後に新たにGEOLYTEが来るのだろうが、それを待っている余裕はない。
 新しいアンドロイドを作るべきか。そう思いながらも、ラキは「スターリア」に外の映像を見せてくれと頼んだ。
 このメタモアークはオペレーターなどがちゃんといるが、実は大型超高性能コンピューターによる自立運転も可能な艦だ。そのコンピューターが「スターリア」である。
 どうもスターリア星で祭られている女神をモチーフにデザインしたらしく、名前もそのまま拝借したとの事だ。作った人間はかなり度胸があると思う。
『メタモアークは現在、廃棄惑星を通過中。この進み具合で行くと、およそ三十分で廃棄惑星のエリアを通過します』
「廃棄惑星?」
 スターリアの報告にサボンが首をかしげた。
「メテオの影響でマグマが隆起しまくった惑星らしいぜ。ここも資源があったんだが、メテオが飛んできたからな…」
「なるほど……」
 圧殺はされなかったものの、資源は全て燃え尽きたために廃棄惑星となったらしい。メテオスの影響は、全宇宙に広がっているということだ。
 はぁ、とため息をついてその光景から視線をそらそうとする。と。
 ――視界の端に、何かがかすめた気がする。
「!?」
 外の映像に飛びつき、食い入るように眺める。マグマの赤が目に痛いが、それでも目を凝らして見た。
「主任?」
「スターリア、右の端を拡大しろ!」
 ラキの言葉に、スターリアが今見せた映像を拡大する。
 隣で同じように目を凝らしていたサボンが息を呑んだ。
「主任、これって!」
「カプセルだ!」
 二人は一つうなずくと、部屋を飛び出した。

「カプセルだと?」
 メタモアーク艦長のルナ=ルナ星人クレスはラキの説明を聞いて、眉をピクリと動かした。
 アストロノーツの名家出身であり、自身も有能なアストロノーツだったことを買われて戦艦艦長となった彼は、若いながらにも冷静な判断でここまで艦を進めてきた。
「確かに、ラキさんが言った方向にカプセルがありますね」
 クレスが言いたいことを、オペレーター三人娘の一人であるレイがもらって言う。
 ホログラム惑星といわれるレイヤーゼロで合成された合成人間のレイは、電子系に強く、センサー役を担当している少女だ。
 当然、ラキの見つけたカプセルも即効で発見し、そのカプセルの全体像全てをスキャンし終えている。
「でも、これ廃棄カプセルですよ。拾う必要は……ん?」
「どうした?」
 レイが体を乗り出したので、クレスはそっちの方に視線を向ける。当然、ラキやサボンもそっちを向いた。
「中に反応があるんですよ。少なくともただの粗大ごみとかじゃないです!」
「反応? どんなだ」
 クレスの問いに、レイはしばらくセンサーとにらめっこしていたが、やがてお手上げ状態となった。
「人間…いえ、人型のものです。それ以上はちょっと……」
「……回収してみるか」
 クレスの一言にブリッジ内がどよめいた(とはいっても十人もいないのだが)。
「回収ですか?」
 オペレーターの中で唯一の人間であるウドーが、クレスの方を向いて指示を確認する。クレスはカプセルの映像と外の様子を見ながら、その指示を改めて出した。
「ビュウブームたちは出せないな。ならジャゴンボたちに任せるしかあるまい」
「了解。直ちに出動させます」
 ウドーのアナウンスが流れると、別室で待機していた少年たち――ジャゴンボ・ブビット・グランネストの三人――が気密服に着替えて、ハッチから外に飛び出す。
 彼らはこの艦に搭乗しているグラビトール博士によって合成・調節された合成人間で、それぞれ特化している能力が違う。
 ジャゴンボは攻撃能力と回復力を強められ、ブビットは異質空気でも行動可能で大気などを調整できる能力を持ち、グランネストはどのような機械でも順応でき、優位フィールドを生み出せる。
 それぞれ得意分野は違うが、トリオで行動することでどんな空間でも対応可能な存在なのである。
『大気は随分と熱いっすね。ちょっと冷やします』
 外に出たブビットが気密服に装備してある通信装置を使って、こっちと通信してきた。
 クレスが許可を出すと、ブビットは胸元の辺りをちょいちょいと叩き、辺りの空気を常温に設定する。範囲と時間が定められており、今回はカプセルまでの空間と三十分ほどの時間にしたようだ。
 タイムリミットは三十分。だが腕力の強いジャゴンボや、機械に『慣れやすい』グランネストがいるのでそうぎりぎりではないだろう。
 今もわいわい騒ぎながら、カプセルをこっちに持ち運んできている。ラキとサボンはクレスに礼をしてから、ブリッジを出た。

 エアロックに行くと、タイミングよくジャゴンボたちがカプセルを回収して戻ってきていた。
「よくやったな、お前ら!」
 彼らの労をねぎらうと、三人はそろって笑顔を見せる。頭もなでてやると、彼らはわいわいと喜びながらカプセルを取り囲んだ。
 グランネストがカプセルを開くスイッチを入れると、鈍い音を立ててそれは開いた。中には…。

「アンドロイド?」

 桃色の髪をした青年アンドロイドが、無傷の状態でそこに眠っていた。