All in One・13

「ブライ、君は一体何を考えてるの?」
「貴様たちには関係ない」
 ロックマンの問いに対し、ブライはいつも通りの答えを返す。
「まさか、KNステーションを破壊する気じゃないよね?」
「……くだらない」
 ある意味予想通りだった問いを投げかけられ、ブライは心底呆れてため息をついた。
 確かにキズナ・ネットワークなどなければいいが、その程度であんな建築物相手にするのは御免こうむる。思われても仕方ないとは思うが。
 こっちの答えに首を傾げるロックマン。無理もない、自分が来た理由が全然読めないのだから。
「じゃ、じゃあ、またムーの遺産関係?」
 この質問に対してどう答えるか少し悩んだが、素直に「……そうだ」と答えた。
 ロックマンの顔が少し真剣なものになった。
「それがKNステーションにあるって事……?」
「それこそ貴様たちには関係ない」
 これ以上余計な詮索をされると厄介なので、ブライはラプラスブレードをロックマンの方に向けた。
『来るぞ!』
 ロックマンの左腕についているウォーロックが、ロックマンをけしかける。それと同時に、ブライが先制攻撃としてブライスラッシュを放った。
 普通なら大ダメージだが、すんでの所でバリアを張っているのにブライは気づいていた。いつもながら、ロックマンはこういう時の反応が早い。
 続いて飛んでくるのはマッドバルカン。威力こそ低いが、矢次早に繰り出される銃弾は侮れないので、全て剣で弾いた。
「バトルカード、『キャノン』!」
 マッドバルカンで隙を作ったと見たか、ロックマンがまた攻撃を仕掛けてくる。今度は速度の遅いキャノンなので、難なくかわす。
 かわすついでに、大きく間合いをつめた。近接戦闘になれば、こっちに分がある。
「はぁっ!」
 ラプラスブレードで、大きく横に薙ぎ払う。剣本体と残像により、ロックマンは大きく後ろに吹っ飛んだ。
 無防備に吹っ飛んでいくロックマンを追うような形で、間合いを詰めていくブライ。剣を一旦手放し、ブライアーツで連続ダメージを狙う。
 一発目のストレートが見事に決まり、そこから流れるように最後のキックまで決める。全部食らったロックマンがよろめいた。
「うぐっ……!」
 もう一撃食らわせれば確実にダウンするだろうが、そこはロックマンも理解しているらしくロックバスターをがむしゃらに撃ってきた。
 よくロックオンしていないので避けやすいが、これでは後ろに下がらざるを得ない。大人しくブライは後ろに下がり、改めてラプラスを呼ぶ。
 ブライが剣を構えたからか、ロックマンもロングソードを呼び出して装備。そこから互いに距離を詰めあった。
「でぇぇぇいっ!!」
「おぉぉぉっ!!」
 ぶつかり合うラプラスブレードとロングソード。威力も強度もラプラスブレードの方が上だが、ロングソードはそう簡単に砕けそうになかった。
 つばぜり合いが始まるが、力量の差であっという間にブライが押した。
「ふん!」
 ロックマンの力が緩んだ一瞬をついて、ブライが一気に押し込む。ロックマンがまた大きく吹っ飛ぶが、今度は追撃しないでおく。
 普段なら余裕を出すところだが、今回はあくまで慎重に事を進めたいのでやめた。彼が起き上がったのを見計らって、ラプラスブレードを投げる。
 まっすぐ敵目掛けて飛んでいく剣だが、いきなり外に出てきたウォーロックが何と素手で受け止めた。
『へっへっへ、捕まえたぜ?』
『……!』
 ラプラスと拮抗するウォーロック。このせいで、ブライは剣を失う事になってしまった。
(ブライソードがあればな)
 ブライは内心舌打ちする。しかしわけあって失ってしまった剣の事を考えるより、今ここを切り抜ける方法を考えるべきだ。
「今だ!」
 ウォーロックのサポートを受けたロックマンが、ミニボムやヒートグレネードを投げてきた。攻撃範囲が広いので、ブライは大きく前に出る。
 ……だが、それはロックマンの狙い通りとなる。
「バトルカード、『ジェットアタック』!」
「なっ……!?」
 バリアよりも分厚い特殊フィールドを張ったロックマンが、こっち目掛けて突進してくる。前に出てしまったことで、もろ直撃コースだ。
 ムーの障壁を張り巡らせて、突撃そのものは何とか防ぐ事に成功する。しかし、生まれた風圧で弾き飛ばされそうになった。
 こっちもバトルカードを、と思ったが、あいにくいいカードがない。キャノンはあるが、射撃は苦手なのでカードを使うのはやめた。
 ロックマンの足元に着弾するようにブライナックルを撃つ。
「うわっ!」
 ブライナックルは、狙い通りに足元に着弾した。ラプラスはまだ拮抗状態なのを横目で確認して、ブライはもう一度ブライナックルを撃った。
「うわあああっ!!」
 足元を崩したおかげで、今度はクリーンヒットする。先ほどのダメージもあり、ロックマンはもうふらふらだ。
 止めを刺すか? それともここでやめてKNステーションへ行くか?
 選択肢が二つ浮かぶが、ソロは迷うことなく止めを刺すことを選択した。途中でやめたところで、また追いかけてくるだろう。
『スバル!』
 ようやくロックマンの状態に気づいたウォーロックが、ラプラスを振りほどいて相棒の元へと飛んでいく。
『大丈夫か!?』
「う、うん」
 支えられて立ち上がるロックマン。相手はまだ戦意喪失していないので、ブライもラプラスを剣に変えて構えなおす。
 この一撃で決まる。二人がそう思った時。

『スバ……ロックマン様!』

 突然の通信割り込みで、張り詰めようとしていた空気がそのまま固定される。
「い、委員長。どうしたの?」
『戻ってきて! 下の人達が、もう止められそうにないのよ!』
「ええっ!?」
 会話の内容はよく解らないが、何となく予想はつく。スピリトゥスの影響を受けて精神をジャックされた人々が、ロックマンを求めているのだろう。
 ブライもここに来る前、ウェーブステーションの緊急ニュースは見ていた。そしてそれによる影響も、予想している。
 ロックマンは一旦こっちを見るが、仲間からの要求の方が大事と取ったらしい。そのままウェーブアウトした。
 後に残るのはブライのみ。
「……決着はつかず、か」

 

 屋上に戻ったスバルを待っていたのは、異様な雰囲気になっていた仲間たちと下の喧騒だった。

「ロックマンはまだー?」
「おい、ロックマンはいつ出るんだ?」
「本当にロックマンは来るのかな?」
「ロックマーン!」
「ロックマン!」
「ロックマン!」
「ロックマン!」

 誰もがロックマンを待っていた。
 仲間たちも

「ロックマン様、早く!」
「おい、ロックマンになれよ!」
「この状態をなんとかするために、お願いしますよロックマン!」

 待っていた。
 ロックマンを待っていた。
 なら、ロックマンになればいい。
 隠れて変身するのでは意味がない。みんなの前でロックマンにならないと。
 自分こそがそのロックマンだと、アピールしないといけない。

 スバルはふらふらと、皆が見える場所へと歩く。
 さあ、変身だ。

「でんぱへんか……」