ウェーブステーションのニュースが更新される。
『KNステーション、第三の候補地発表。場所はコダマタウン』
「で、よ」
コダマ小学校生徒会室で、最近生徒会長へと就任した白金ルナが毎度お馴染みのメンバーに対して、自分の考えを披露していた。
「せっかくグリューテルム博士がKNステーション建設地としてここを選んだんですもの、私達も何かイベントをすべきだと思うのよ!」
「はぁ」
威勢のいいルナの言葉に、星河スバルがどこか気の抜けた相槌を打つ。隣では、勝手にウィザード・オンしたウォーロックがあくびをしていた。
「でも委員長。イベントとか言っても、文化祭とかはもう終わりましたよ? 今の時期、誰がついてくるか……」
スバルの左に座るのは、最小院キザマロ。彼のウィザードのペディアも、コダマ小のスケジュールを見て「人や予算を動かせる可能性は低いよ」と言った。
「俺は旨いモン食えればそれでいいなぁ」
スバルの右に座っていた牛島ゴン太は、相変わらずである。ついでに彼のウィザードのオックスも、相変わらず牛のような唸り声を上げていた。
いまいち乗り気じゃない3人を見て、怒りがふつふつと湧き上がりそうになるルナだが、ウィザードのモードになだめられて少しだけ落ち着きを取り戻す。
「さすがに学校全体でイベントは無理だと思うの。でも、ルナルナ団としてイベントを立ち上げるなら、誰の許可もいらないでしょ?
開催式典に合わせて、どこか一室を借りて発表会でもいいわ」
「あのロケット打ち上げみたいにですか?」
キザマロの質問にルナはうなずく。
過去に科学部がロケット打ち上げをイベントにしたように、ルナルナ団も何かの発表をイベントにするという事らしい。それなら大丈夫だろう。
ちなみに開催式典は10日後。既にKNステーションは形となって建っており、その完成を待たれるところだ。
「で、どんなイベントを立ち上げるつもりなの?」
説明を聞いて少しはやる気になったらしく、スバルが姿勢を正して聞いてくる。その質問を待っていたルナは、ここぞとばかりに胸を張った。
「よく聞いてくれたわね。今回は一種の発表会で、テーマは……ロックマン様よ!」
「「……は?」」
その場にいるルナ以外全員が、あっけに取られた声を上げた。
その当のルナは、完全に自分の妄想に飛び込んでいて、周りの視線などに全く気づいていない。
「そうよ、ロックマン様なのよ! キズナを力にし、困ってる人や弱い人を助けて回る素敵な王子様! まさに正義の味方!
あのお方に助けてもらった人は私以外にもたくさん……」
『ルナちゃんルナちゃん! みんな呆れてますよ!』
「それはもう……はっ!」
モードに止められて、ようやく正気に戻るルナ。はっとなって周りを見回すが、みんなもう慣れましたという顔だった。
「あ、あんたたち! 見てるなら止めなさいよ!」
「「いや、その……」」
『面白いからいいじゃねーか』
「うぐぐ……」
茶化すウォーロックにビンタしたくなるが、反撃が怖いのでやめた。とりあえず冷静さを取り戻すために、咳払いを一つ。
「つまり、ロックマン様の色々なエピソードをまとめて発表するの。最初のFM星事件からメテオG事件まで、色々なエピソードをね」
なるほど、と皆がうなずく。この中でロックマンに助けられてない者は誰もいないし、何よりロックマン本人もいる。
上手くまとめられれば、素晴らしいレポートが出来上がることだろう。
「発表の場所は学校屋上にして、宣伝は案内所を使うわ。だ・か・ら!」
「「はいぃ!」」
ルナの一睨みで声をハモらせるスバルたち。完全に蛇に睨まれた蛙状態だ。
そんな彼らに対し、ルナは笑顔できつい「宿題」を与えた。
「あんたたち、ちゃんとレポートを書くのよ! 一人10枚! 出来たら私がチェックするから、手を抜いたら許さないわよ!」
そして、日は過ぎて式典前日。
今回の式典は日曜に開催されるので、前日は土曜。学校は休みだが、スバルは忘れ物を取りに来るため、学校に来ていた。
人のいない学校の廊下を、スバルはてくてくと歩く。
「はぁ、ようやく明日で終わりかぁ」
『おいおい、暗い顔してんな! ま、あんなに厳しいチェックがあったから当然か』
「『ロックマン様ならもっと正確に!』とかって……」
当人なのだからレポートはかなり正確に書けるはずだが、スバルの元の性格上、目立つような書き方は出来なかった。
それでも何とかルナが望むようなレポートを書き終え、後は当日を待つのみとなった。
エレベーターに乗り込み、2Fを選択。教室はエレベーターを出てすぐなので、さほど時間をかけずに5-A教室前に到着した。
ドアを開けようとして……デジャヴを感じた。
生徒会長選挙の日、ここの扉を開けて見たのは、ゴン太、キザマロ、ミソラの姿。そして……。
「……貴様か」
「う、嘘ぉ……」
どうやって入ったのか、5-A教室にソロがいた。
前と同じように、窓側に立ってこっちを見てくる。それほど違和感を覚えないのは、やはり彼が自分と同じくらいの年齢だからだろうか。
『また誰かの待ち伏せか?』
ウィザード・オンせずにウォーロックがソロに問うが、彼は無言だ。てっきり「貴様には関係ない」と返ってくると思ったが。
それにしても、何故ソロがここに。
前はジャックが来るのを待つためにここに来ていたが、今回はそのような事件は全く起きていない。
(まさか遊びに来たなんて事は……)
一瞬そんな考えが浮かんだが、首を横に振って却下した。ソロに限って、そんな事は絶対に有り得ない。
となると、やはり。
「……KNステーション?」
「……」
スバルの言葉に、ソロは視線を窓の向こう――KNステーションに移した。
キズナの集合体であるあの建物は、孤高の戦士を自称する彼にとってどう映っているのだろう。ただの建物か、それとも憎悪の対象か。
「まさか、あれを破壊する気?」
スバルの問いに、ソロは無言だった。それどころか、視線をこっちに向けようともしない。
推理は当たったのか、それとも大ハズレだったのか。それすら解らない。
『KNステーションのマップと、当日のサテラポリスの警備配置ローテーションを転送しておくぞ。どう使うかはお前次第だ』
「警備に着くのはサテラポリスだけか?」
『いや、グリューテルム博士子飼いのバトルウィザードも配置されるらしい。これについてはローテーションを教えてもらえなかった』
「信用されてないようだな」
『面目ない』
依頼を受けてから恒例となった、シドウからの定期連絡。今日は、明日に控えた開催式典の情報が主だった。
転送されたデータを軽く流し読みして、ソロは明日の段取りを考え始める。とりあえずサテラポリスがいるルートが比較的安全だろう。
問題はグリューテルム博士の子飼い。そして……。
(星河スバル……ロックマン)
下見として入り込んだ小学校で、彼と再会した。
彼もまたミソラと同じく、自分がステーションを破壊すると思い込んでいるようだ。当日は絶対に邪魔しに来ることだろう。
(……やる事は破壊と同じだがな)
中枢であるスピリトゥスを奪還する。すなわちステーションの機能をストップさせるのだから、スバルたちの考えは間違っていない。
『……悪いな。スバルたちを止められなくて』
ソロの心の内を読んだかのように、シドウが謝ってきた。憮然としながら、ソロは一言だけ答えた。
「余計なお世話だ」
ウェーブステーションのニュースが更新される。
『サプライズ! コダマタウンの開催式典に、あのロックマンがスペシャルゲストとして来るとの情報が!?』