戦いは泥沼に陥った。
魔法が、剣が、お互いを傷つけていく。
ファイアーランド軍はデビルチルドレンや暗黒少年、魔王の娘と言う強い力でサンドランド軍を殲滅していく。
対するサンドランド軍は太陽将軍ジャンゴを先陣として、見事な布陣でファイアーランド軍を押さえていく。
不毛の荒野はあっと言う間に血に染め上げられ、持ち主が分からない武具がごろごろ転がり始めた。
ジャンゴはラセツ兵を袈裟懸けにすると、一回立ち止まって辺りを見回す。戦況確認と同時に、近くに知っている顔がいるかどうかを確認したのだ。
今のところ、周りには誰もいない。ほっとするのと同時に、昨夜の寂しさが迫ってきてジャンゴは慌てて思考を現実に戻す。
「ジャンゴ殿!」
銃を構えたスケルトンが近づいてくる。後方援護の役である彼がここに来たと言う事は、弾切れか。それとも何か起きたのか。
「どうした!?」
「支援部隊が救援を求めています! 何しろあちらには、とんでもない後方援護攻撃がありますから…うわっ!」
会話の最中に、頭上を見覚えのある弾が飛んでいった。色からするに、エレジーの放った炎。慌てて伏せてやり過ごすが、避けきれなかった者達がごっそりと消える。
「大丈夫?」
ジャンゴが声をかけると、スケルトンも「ええ」とうなずいた。
「スカアハは!? あいつには言ったのか?」
「そっちには別の者を送ってます」
「そうか……」
ジャンゴは改めて周りを見回す。ここは荒野。地形によって有利不利が大きく決まる。
オンセンタウンは谷に囲まれている場所だった。
(……使える!)
そう思ったジャンゴは、スケルトンに耳打ちをする。ジャンゴの案を聞いたスケルトンは、スカアハに報告するために戦場を走り始めた。
……そして、敵の攻撃を受けてばらばらになった。
「!?」
近づいて診るが、完全にばらばらになっていて復活は不可能だった。視線を追ってみると、魔法兵のオキツネが近くにいた。どうやら殺ったのは彼ららしい。
「くそぉぉぉぉっ!」
二人まとめて横に薙ぐ。大量の血が放出し、そのオキツネは倒れた。
知っている。これが戦争だ。
さっきまで話していた相手が、次の瞬間に死んでいると言う事は珍しくないことなのだ。自分一人ですべては守れない。
だが、理性で納得できても心が納得できなかった。
ジャンゴは剣を振りかぶり、敵を切り続けた。
こちらはファイアーランド軍。
刹那たちデビルチルドレンは先陣をで敵を叩き、サバタとエレジー、ドヴァリンは一歩離れた所で敵をしとめている。アルニカ、ドゥネイル、ドゥラスロールは本陣にて待機だ。
ドゥネイルとドゥラスロールは敵が来た時の迎撃に残っているのだが、アルニカはジャンゴと戦わせないための処置だった。未だに彼女は、心の整理がついていない。
ジャンゴにあそこまで拒絶され、そのジャンゴに連れられてここまで来た。何故彼は自分をいらないと言いながら、あそこまでしてくれたのか。それが分からなかった。
魔剣クラドホルグを閃かせながら、将来はジャンゴやリタの姿を探す。が、いるのは敵と味方の兵だけで、見覚えのある姿は全然ない。
「クレイ、そっちはどうだ!?」
将来が叫ぶと、キングキマイラにランクアップしたクレイが敵を黒焦げにして振り向いた。
「悪いな! ジャンゴたちの姿は全然見えねぇ!」
「ベール!」
クレイの近くで戦っていた未来が、空中のキンググリフォン――ベールを呼ぶ。が、彼女も首を横に振った。遠くまで見通せるのはいいが、よく見極められないようだ。
舌打ちをする将来。その後ろに敵兵のトウシンが立った。
「!?」
慌てて振り向くが、時すでに遅し。剣を振りかぶるトウシンに、将来は身構えた。……が、いつまでも痛みはこない。
恐る恐る目を開けてみると、いつの間にこっちに来ていたのかフェンリルの相棒であるガルムがトウシンを倒していた。
「ガルム!」
「お前達、一固まりになるな! デビルチルドレンは一番狙われやすいんだぞ!!」
ガルムの忠告に、将来と未来ははっとなって別々の敵を狙いに走った。
後方支援役のサバタは、ガン・デル・ヘルを何度も撃っている。が、月下美人になったとは言えまだ日の光に対して強くなったわけではない。
日焼け止めが切れ、日傘もさせないこの状態。いつ倒れてもおかしくなかった。
一応そんな彼のサポートが何人か用意されたが、魔法応戦の間にもうほとんど残っていない。
「……ぐっ!」
夏の炎天下には程遠いが、きつい日差しにサバタは一瞬めまいを起こした。その隙を狙われ、魔法が矢のように降ってくる。
「マハブフダイン!!」
凄まじい豪雪が吹き荒れ、サバタを狙っていた魔法がすべてかき消された。放ったのは、ドヴァリン。
「お前……」
頭を振って意識を回復させながら、サバタはドヴァリンの方を向いた。視線を向けられた彼女は肩をすくめる。
「まあ、今は味方ですもの」
刹那は手近な所で拾った槍を振り回しながら、クールと共に戦場を駆け回っていた。
と、ある一点で足を止める。
「どうした、刹那!」
クールが声をかけるが、刹那は無言だ。
足を止めたのはジャンゴも同じだった。
「刹那!」
「ジャンゴ!」
互いの名前を呼ぶ。
……次の瞬間、武器がぶつかりあった。
ばきり、とジャンゴの剣が刹那の槍の柄を折る。
大分手入れをしていなかったとは言え、ジャンゴの剣は“全き剣”グラムである。一般兵が持つ槍では到底勝ち目はない。
折った勢いでそのままジャンゴの剣が刹那を狙うが、一瞬早く刹那がバックステップで避けた為真っ二つにされることはなかった。
「行くよっ!」
ジャンゴの剣がまた閃く。今度は下からの切り上げだ。その剣の太刀筋をぎりぎりでかわす刹那。
切り上げが避けられ、また頭上から剣を振りかぶる。
「くそっ!」
槍が折れた今、刹那を守るものは何一つないかと思われたが。
全てを切ることが出来るはずのグラムが、刹那のデビライザーに阻まれた。
そのまま剣と銃ががっきりとつばぜり合う。
引き金を引く所に剣が挟まっているのでグラムを引き抜けないし、デビライザーもここで引き金を引いたら確実に暴発する。
そのことに気がついたジャンゴはさっと剣から手を離し、刹那の足元をすくおうとする。同時に気づいた刹那はジャンプして足払いをかわした。
グラムとデビライザーが手から離れる。
(強い!)
偶然にも、二人は同時に同じことを思った。
ジャンゴも刹那もこの事件で知り合う前の事は知らない。ただ彼が一体何者なのかを知っているだけ。
ただ何回か打ち合わせただけで、お互いがどの位の戦いを潜り抜け、その分強くなってきたことを知ったのだ。
これじゃ、いつまで経っても決着なんてつかないな。
どっちが強いかで決着をつけようとする気が、この瞬間消えうせた。お互い、同じくらい強いと思ったのだ。
そうなる事を待っていたかのように、グラムとデビライザーが落ち、くっついていた部分が外れる。
「「っ!」」
同じタイミングで自分の武器を拾うジャンゴと刹那。そして武器を構えて向き合うが、すぐに背後の敵に気づいてすれ違った。
刹那たちには悪いが、今の自分はサンドランド軍の将軍。形だけの将軍とは言え、ファイアーランド軍の兵を相手にしないわけにはいかない。
ジャンゴはフェンリル軍のラセツ兵やファイアーランド軍のロボットを斬って回る。
その姿を見て、サンドランド軍も盛り返し始める。メシアである彼が先陣を切って敵を倒すその姿は、イシスの予想以上に兵の士気を高めたようだ。
ファイアーランド軍を抑え、少しずつ前進する中で、ジャンゴはまた知った姿を見つけた。後姿なのでよく分からないが、どうも女の子のようだ。
「ねえ!」
ジャンゴが声をかけると、少女はすぐにこっちの方を見た。
その顔はリタだった。
「ジャンゴさま! ご無事で!」
「うん! リタの方も!」
死角を埋め合わせるように、ジャンゴとリタは背中合わせになる。顔は見えなくなるが、きっと嬉しそうな顔をしているに違いないとジャンゴは思った。
「ジャンゴさまは、刹那さんたちに会いましたか?」
「え? ああ、さっき会った」
びゅっと拳を振るう音にまぎれて、リタがジャンゴに尋ねた。こっちも剣を振りながら答える。
「戦ったんですか?」
「…まあね……。でもやっぱり仲間は倒せないよ…」
「そうですか。
…………ではごきげんよう、ジャンゴさま。死んでも愛してますわ」
「えっ?」
言葉の真意を測りかねて、リタの方を向こうとすると。
わき腹に鋭い痛みが走った。
拳銃で撃たれたんだ、と気づいたのは痛みが激しくなった時。
痛みをこらえて後ろを振り向くと、リタがにっこりと笑っていた。……何故か拳銃を片手に。
「……嘘……でしょ?」
視界が大きくゆがみ、戦いの音すら遠ざかる中、ジャンゴはリタの言葉を聞いた。
「ジャンゴさま、死にたくなければ早く覚醒なさってくださいね。イシス様もそれをお望みですから」
イタイ
タスケテ
――ごきげんよう、ジャンゴさま。
ヤメテ
――死んでも愛してますわ。
ウタナイデ
――死にたくなければ早く覚醒なさってくださいね。イシス様もそれをお望みですから。
……
………裏切り者!
ジャンゴの意識は、そこで途切れた。