三賢人の聖衣、トライブキング、ブラックエース。
今のロックマンの姿は、かつてのロックマン最終形態のどれとも違う。重装甲の点だけならトライブキングにやや似ている、と言った感じか。
かつてトライブキング、ブラックエースと戦った事があるブライとしては、感じる力はそれと同じかそれ以上だと瞬時に悟る。
……しかし。
今のロックマン、スバルはその力を使いこなせるようには見えない。むしろ、力に振り回されそうな素人っぽさを感じるまでもある。
ムー事件で、最初に戦った時がそうだった。明らかにオーパーツの力に翻弄されており、とてもではないが使いこなせるようには見えなかった。
(ああ、そうか)
バイザー越しの目がややうつろなのに気づき、ブライは納得する。
今のロックマンにはご自慢の「絆の力」がない。強いて言うなら「キズナの力」を無理やり背負わされている状態だ。
スバルの戦闘センスは天性のそれだが、彼をヒーローたらしめているのはそれだけではない。彼を勝利に導くのは、鋭い観察眼と強大な力だけに頼り切らない落ち着いた戦術だ。当人は絆の力だ何だと言い張るだろうが、ブライはそれも侮れないと思っている。
ロックマンが本来の意思で戦っているならともかく、神具の力で抑え込まれている今、まともに戦えるとは思えない。楽勝、とは行かないが、負ける事はないとブライは判断した。
「行くぞ」
ヒーローの余裕かそれとも出方を待っているのか。ロックマンが動かないので、ブライが先に動くことにした。
大きく踏み込み、ストレートを放つ。全力を込めたパンチだが、ロックマンはあっさりとかわす。これに関しては小手調べみたいなもの故、それほど驚かない。
足を軸にして半回転。空気をえぐるように裏拳を決めた。
「わ……!」
ロックマンがかすかな悲鳴を上げて後ろに下がる。攻撃そのものは鎧に弾かれたが、相手の動揺を引き寄せる事は出来た。
このまま小技で翻弄して……と思っていたが。
ぶぉんっ!!
重い音と共に、何かが自分の近くの空気を斬った。
音の方に視線を向けると、ロックマンの右腕にビームセイバーが握られている。どうやらあの剣で大きく薙ぎ払ったようだ。
「エクスカリバー・バースト!」
ロックマンが技名を呼び、剣を地面に叩きつける。
攻撃エネルギーが波打ちながらこっちに迫る。飛んで避ける事が出来ないと瞬時に悟ったブライは、ブライバーストで相殺を図る……がそれもまた無理だと悟ってしまった。
「ちっ!」
ラプラスブレードを構えて、相殺しきれなかったエネルギーを耐える。電波障壁もあったので大きなダメージではないが、少し揺らいでしまった。
当然それを見逃すロックマンではない。マントのようなウィングが大きく開き、ばらばらになってロックマンの周りを飛び回る。
――裏面が反射鏡になっているのを見た瞬間、次の攻撃を悟った。
「コメット・ミラー!」
予想を裏付けるかのように、ロックマンがレーザーを撃つ。
反射鏡にて跳ね返されたレーザーは、狙いすましたかのように全部がブライの方に飛んできた。
一発なら耐えきれる電波障壁だが、連続攻撃には弱い。先ほどと同じようにラプラスブレードで弾いて行くが、それでも限界は来る。
「ぐあっ!」
とうとう避けきれなかった一発がクリーンヒットした。
当たった左腕がじんじん痛む。瞬時に利き腕を庇ったのだが、それでも左腕で殴るのは難しくなってしまった。負傷している場所ではないのが、不幸中の幸いだ。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!
エア・ディスプレイから歓声が上がる。
『いいぞー! ロックマーン!』
『とどめ刺しちまえー!』
事情を知らない観客たちがロックマンに声援を送ってくる。さすがにそれに反応しないものの、口元がにやりと歪んだのをブライは見逃さなかった。
「気楽な奴らだ」
目の前の男含め、周りの連中に向かって毒舌を吐く。
本当に自分の意思かどうかも解らないのに、これが自分の意思だと思い込み、目の前の弱者を虐げる。
群れる事で粋がり、群れる事で強くなったと勘違いし、群れる事で正義だと思い込む。
結局のところ、自分が許せないのはそういう人間たちなのだ。
ブライはわざと大げさに唾を吐く。
そのアクションで観客やロックマンの表情に怒りが混じるが、勘違いした愚か者どもの怒りなど自分には通用しない。
何もできない弱者を嘲笑い、踏みにじるためだけに「キズナ」を掲げるのなら、自分はそんな理不尽な暴力に立ち向かうために「孤高」を掲げよう。
たとえ自分が人に危害をなすがん細胞だとしても、胸を張ってそうだと言おう。
それが、自分の誇りなのだから。
「ラプラス!」
『……ダ……!』
自分のウィザードの名を呼ぶと、無口な相棒はすぐにブライの意図を悟って、ロックマン目掛けて飛んで行った。
歌うのは好き。大好き。
心地よく歌い続けているうち、気づけば自分の衣装が白いドレスに変わっていた。
白は無垢の証。幸せの象徴。……花嫁のシンボル。
そして目の前にいるのは、歌と同じぐらいに大好きな少年。彼もまた、自分と併せて白のタキシードを着ている。
白は無垢の証。幸せの象徴。花婿のシンボル。
歌うのは好き。大好き。
でもスバルはもっともっと大好き。
なぜなら、自分が歌う理由には、スバルに想いを届けるのもあるから。
スバルのために歌い、スバルにだけ歌う。これが私のレゾンデートル。