頭が痛い。
目が覚めてまず思ったのがその事だった。
どこかにぶつけたか、それとも風邪でも引いたか。薬でも飲んだ方が良いだろうか。
起き上がる。体の節々も痛むが、これは寝心地が悪いベッドで寝たからだろう。ストレッチをすればすぐに引く痛みだ。
ぴーっ、ぴーっ
どこかから音が聞こえて来た。
何の音だろう。よく解らないが、その音に導かれて立ってそっちに向かう。暗いが、目を凝らせば周りは何となく解る。
ドアがあった。音はドアの近くから鳴っているようだ。
『おはよう』
聞き覚えのない声が挨拶してきた。思わず条件反射で挨拶を返す。おはよう、と言うから朝なのだろうか。
『そろそろ出番だよ。準備して』
出番?
ああ、そう言えば配信もやっているんだった。となると、この声はマネージャーか。
手元を確認する。愛用のギターは……ある。よく見えないが、何故かあると確信できた。なら、問題ない。
もう体の痛みはない。頭の方はまだ残っているが、歌っていればいつかは消えるだろう。何故なら、いつもそうだから。
行こう、と呟く。しかし、返事は来ない。ここにいるのは自分一人のようだ。
何故か心のどこかでおかしいぞと叫んでいる気がする。確か、自分の傍には誰かいた気がする。ちょっとツンとした、有能で頼れる誰かが。
足が止まる。そんな時。
『さあ、ドアを開けて』
誰か……恐らくマネージャーであろう声が、自分をいざなう。
ドアの向こう側。そこに行けば、湧き上がる何かが解るのだろうか。自分が今、ここにいるのも解るのだろうか。
……いや、そんな事はどうでもいい。
さあ、行こう。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!
大歓声。
自分の登場を喜ぶファンの声。自分を愛してくれる、人々。それぞれがサイリウムや応援うちわを振り、自分を応援してくれる。
ああ、これだ。
この歓声の中、歌うのが好きだ。
想いを乗せた歌を歌い、時には聞いてくれる彼らのコールに答える。そんな流れの中、自分たちは一つになる。
自分の想いを、自分の願いを、自分の欲望を聞いてくれる。
ここでは自分は女王であり、歌姫(ヒロイン)だ。そして英雄(ヒーロー)は……。
「みんな、いっくよー! まず初めは……『ハートウェーブ』!」
夢か現か幻か。
響ミソラは笑顔で歌い始めた。
『侵入者発見! 迎撃します!』
「……遅い」
グリムテルム研究所の地下。
ブライはそこで防衛ウィザードの歓迎を受けた。
手に持っていたラプラスブレードを横に薙ぎ、まだ構えている途中のウィザードを斬り捨てる。
勢いで剣を手放すと、元に戻ったラプラスが大きく回転しながら奥のプロテクトにぶつかっていった。
『隔壁が!』
『食い止めろ!』
泡を食う防衛隊目掛けて、ブライが一気に飛ぶ。ウェーブライド・ブーストシステムによる跳躍は、たった一歩で目的の場所……防衛隊の中心へと飛び込ませた。
「はぁっ!」
ブライバーストのエネルギーを地面に叩きつけ、粉塵爆発を起こす。
『『ぐああああああっ!!』』
ラプラスの援護もあり、防衛隊ごと隔壁を粉砕することに成功した。わざとらしくぱんぱんと手の埃を払うと、ピーという電子音と共にドアが開いた。
「!」
第二陣か、と警戒して飛び退る。しかし、いつまで経っても敵の攻撃どころか、敵が来る様子はなかった。
どうやら、誘いのようだ。
ステルスボディを使い切っているので、もう既に侵入はバレているはず。となると、この先には強力な何かが待ち受けているのだろう。そしてそれは、すぐに想像がついた。
「……」
今だ痣の残る場所に触れると、鈍い痛みがそれに応えた。楽観視は出来ないが、一撃で追い払われることはないだろう。
覚悟を決めて一歩踏み出そうとすると。
『どうした』
聞き覚えのない声が、どこからか聞こえて来た。恐らく、フォルゲン・グリムテルム。
『来ないのか』
挑発するような声。
ためらう事はない。ソロは一回深呼吸をして、開かれたドアの向こう側へと歩いて行った。
頭が痛い。
目が覚めてまず思ったのがその事だった。
真っ先に頭に浮かぶのは、相棒や責任感の強い委員長に頭をはたかれた事。自分はトロいから、どうしても押しの強い彼らに振り回されてしまう。顔も思い出せないけれど。
とりあえず、起き上がってみた。
体の節々が痛む。だがまあ、この程度の痛みならたまにある事だ。休日に散々寝た後起きると、大抵こんな感じだ。
ぴーっ、ぴーっ
どこかから機械音が聞こえてくる。目覚ましのアラームを思い出すが、アラームはもっと激しい音にしている。
では何の音だろう。辺りを見回してみるが、暗くてどこに何があるかよく解らない。完全に真っ暗と言うわけではないが、不安になってしまう。
『おはよう』
聞き覚えのない声が挨拶してきた。思わず挨拶を返してしまうが、すぐに身も心も引き締めた。
そう言えば、ここがどこかすら解らない。何故ここにいるのか、挨拶してきた声の主が何者なのか、何もかもが解らない。
『大丈夫だよ。警戒しないで。私は味方だ』
自分の心の中を読んだのか、声の主がそう優しく語りかけて来た。
味方。なら大丈夫なのだろうか。姿を見せないのところに少しの不安を抱かせるが、本人が言い切る以上疑うのは悪いだろう。今は信じようと思った。
そうだ。信じないと始まらない。自分はそうやって、世界中の善良な人間たちとキズナを築いてきたのだ。
『今、ここは狙われている。キズナを信じない悪党にだ』
声の主の語りかけは続く。
自分の握りこぶしが固くなっていくのが解る。このキズナ満ち溢れる世界で、キズナを信じないなんてとんだ悪党だ。倒さないといけない。
しかもその悪党は、この場所を狙っていると言う。狙っているのは自分かこの場所かまでは解らないが、その悪党を倒してここを守る必要があるだろう。
悪を倒す正義のヒーロー、それが自分なのだ。
もう暗闇を恐れる事はない。自分はやる事がある。正義のヒーローとして、戦わなければならない。
じっくりと目を凝らせば、目の前にはドアがある。どうやら、このドアを開ければ、悪党を待ち構える事が出来るだろう。
右腕にはハンターVGがある。ならば、変身してから行こう。
「電波変換! 星河スバル、オン・エア!」
星河スバルは電波変換して、勢いよくドアを開けた。
いつもの相棒……ウォーロックが一言もしゃべらない違和感に気づくことなく。
そして何より。
その姿がいつものそれとは大きく違う事に気づくことはなかった。
ブライが飛び込んだのは、広い部屋だった。
ざっと辺りを見回すが、壁らしきものが見当たらない。かなり広く作られているようだ。
……否。広いのではなく、360度エア・ディスプレイに囲まれているのだ。今は何も映していないので、部屋の広さと勘違いしてしまっていた。
一歩踏み出すと、そのエア・ディスプレイが一斉に灯る。
『ロックマンだ!』
『やれーっ!』
『悪い奴をやっつけろ!!』
映し出されたのは、自室やら外やらどこかの建物やらから応援する人々。それら全員がロックマンを呼び、悪い奴――恐らく自分だろう――を倒すのを望んでいた。
そして。
「勝負だよ、ブライ」
今まで一度も見た事のない、黄金の鎧をまとったロックマンがそこにいた。