流星のロックマン・希釈「流星のロックマン・希釈・4」

 フォルゲンはキーボードを叩き、書き込み元がバレないような細工をしつつ、とある書き込みを適当なSNSと掲示板にばらまいた。

『ロックマンと響ミソラ、やっぱり付き合ってるみたいだよ。
 次の配信でロックマン出るって話聞いた。
 どうもそこでミソラちゃんに付きまとってる悪党を倒して、交際宣言するとかしないとか』

 サテラポリスが速攻で食いついて書き込みを削除するだろうが、消すまでにタイムラグがある。
 そしてそのわずかな間に見た者たちが、書き込みを保存して更に広げていくだろう。
 現に、書き込みをしたSNSや掲示板ではミソラとロックマンの交際について盛り上がっており、ロックマンの正体を突き止めようと動く者もいた。
 事務所の公式サイトに突撃する者も増え始めており、ニホントレンドどころか世界トレンドで「ミソラ」「ロックマン」が上位になっていた。そろそろネットニュースが取り扱う事だろう。
 ロックマンの正体がバレるかどうかはこの際関係ない。要はこの2人への注目度をワールドクラスまで跳ね上げられれば、それでいいのだ。
 既に自分の書き込みは消され始めているが、その書き込みに付いた反応は徐々に増えていき、注目を集めている。
 末尾に至っては「ミソラとロックマンは既に結婚の約束までしている」、「彼女が歌っていた理由はロックマンへのアプローチ」などの大げさなものになっていた。
 これでいい。
 世界中が2人を驚きと言う形で注目し、祝福と言う形で忠誠心を捧げる。世界は、ロックマンを王、響ミソラを女王として認め始めていた。

『星河スバルと響ミソラを連れてきました』

 タイミングよく、配下のウィザードが2人を運んできたことを告げる。モニターにも意識を失ったままの2人が映し出された。
「睡眠剤を打ち込んで、例の装置に入れろ」
『了解』
 次の指示を出すと、有能な配下たちはすぐに動き出す。用意されていたストレッチャーにそれぞれ乗せて、別の部屋に運んで行った。
 フォルゲンがロックマン=星河スバルだと知ったのは、サテラポリスへのハッキングが理由だった。
 ロックマンの情報を求め、ウィザードを何体も使い倒す勢いでハッキング。何とか知り得たトランスコードから、ウェーブステーションでそのアクセスがあった場所を徹底的に調べ上げた。
 ウェーブステーションは独立していたため、ニホン中を歩き回った。その甲斐もあって、ロックマンはコダマタウンに住む小学生・星河スバルだと突き止める事に成功したのだ。
 ごくごく普通の少年が、何故ロックマンなのかは知らない。知るつもりもない。
 再度モニターに視線を移そうとしたら、空気が抜ける音と共に人間の配下が入ってきた。
「フォルゲン様、両名のハンターVGを持ってきました」
「ご苦労」
 両手に持っていたハンターVGを受け取る。青とピンクのカラーリングのハンターVGのうち、ピンクのそれを先に起ち上げた。
 ずらりと出てくるミソラのプライベート情報の中に、彼女のブラザー情報が上がっていた。
「ほう」
 響ミソラのブラザーは1人だけ。しかもその1人があの星河スバルだったのだ。
 キズナリョクも見るとなかなか高いポイントを出しており、どうやらこの2人は実際に深い関係なのが解る。ロックマンと恋仲というネタはインパクトを強めるために書いた適当なものだが、もしかしたら本当にそうなのかも知れない。
「ちょうどいい。響ミソラはそういう風に調整しよう」
 ヒーローには恋人もつきもの。キズナのヒーローに寄りそうヒロイン……恋人と刷り込めば、ミソラの洗脳はだいぶ早まる事だろう。
 続いては青の……スバルのハンターVG。
 こちらはプライベート情報の中に、たくさんのメモを発見した。開いて見ると、それは簡単な日記だった。
「ふむ」
 日記の中から、ロックマンの記録らしきものだけを自分のPCに転送する。
 記録はスバルが電波体型異星人・ウォーロックと出会ったところから始まり、FM星人やムー、ディーラーとの戦いまで記されていた。
 特に目を引いたのが、ムー事件のもの。かつて袂を分かった女との戦いは、今後の事を忘れそうになるくらいに見入ってしまった。
 そんなムー事件の記録は、オリヒメ逮捕で締められていた。

『〇月×日
 新聞でオリヒメさんが逮捕されたのを知った。
 これからどうなるか解らないけど、最後の最後でヒコさんに会えたから良かったと思う。』

「……ははっ」
 自分を追い出した女の末路に、思わす声が出る。
 人類の進歩だ新たな世界だと言っておきながら、結局は死んだ男が目的ではないか。所詮あの女も、研究だけはいっちょ前の俗物だったと言うわけか。
 ひとしきり笑った後、再び記録を読み始める。ムー事件から数か月飛んで、ディーラーとの戦いに移っていた。
 ディーラー幹部との戦い、新たなヒーローである「エース」、そして父親との再会。映画にするには充分な程の内容が、短い文で書き綴られている。
 そんな見ごたえのある話の中で、また気になる記述を発見した。

『×月■日
 ブライと言うかソロと会った。
 どうやらディーラーがムーの遺産を悪用しているらしい。協力してくれれば頼もしいんだけど、ソロはそう言うの嫌がるからなぁ。』

 ソロ。ムー事件でもちょくちょく名前が出ていた男だ。
 出て行った後オリヒメが拾っていたらしく自分は知らないが、どうもムー民族の最後の末裔との事だった。
 自分もムーの遺産を使ってる故に、狙ってくるのは間違いない。しかし、こっちにはロックマンがいる。ブライごときに野望が阻止されることはないだろう。
 そう言えば、さっきの書き込みに適当に悪党と書いた。ちょうどいいので、そのブライを悪党にしよう。
「全く、私は運が良いな」
 ついそんな言葉が口に出る。
 ロックマン、響ミソラ、そして3つの神具。労せずしてこれらを手に入れる事が出来たのだ。運が良い以外に何があるだろうか。

 

 ずきり、と蹴られた痕が痛んだ。
 何回か軽く撫でることで、痛みを払う。放置できない傷ではあるが、動けるなら問題なかった。
『ダ……!』
 ラプラスがソロにだけ解る言葉でナビゲートする。それによると、研究所は人里離れた深い森の中にあるらしい。
 さもありなん、とソロは思う。目立つところで悪だくみをするにも限度がある。特にムーの遺産など大きな物を使う場合、それこそ人が多い場所では無理だろう。
 なおハンターVGは今、電源を切っている。最初は電源を入れたままにしていたのだが、ひっきりなしにサテラポリスから通信が来るので鬱陶しくなって切ってしまった。
「電波変換……!」
 いつものスターキャリアーを手に取り、ブライに変身する。思い込みではあるが、痛みが少しはマシになったような気がした。

 がさっ

 電波変換を待っていたかのように、ブライの周りはウィルスやバトルウィザードの気配に取り囲まれた。
 この程度の敵に後れを取るつもりはないが、けがをしているし何より一刻を争う事態。ちんたらと片付けている暇はない。
(包囲が薄い場所を、一点集中)
 周りをざっと見まわし、アタリを付けた。少し遠回りになってしまうが、無理やり通るよりかはだいぶマシのはずだ。
 かさり、と葉っぱか何かが軽く動いた。
(今)
 ブライは大きく振りかぶる。
 野球のボールを投げるようなモーションから、勢いよく拳型の波動――ブライナックルが放たれた。一瞬間をおいて、爆発音が耳をつんざいた。
『――!!』
 爆発音に混ざる、何かの悲鳴。それが何なのか解らないまま、ブライは手薄になった場所へ大きく飛んだ。
『やれ!』
 ウィザードの命令と共に、マシンガンの弾がブライ目掛けて大量に降り注ぐ。
「くそっ!」
 電波障壁は一発には強いが、連続攻撃には弱い。ブライはひたすら右へ左へと走り回り、隙を見てラプラスに合図を送った。
 ふっと消えるラプラス。ブライの目の前で紺青の光が閃いたかと思うと、バトルウィザードの悲鳴やウィルスが爆発する音があちこちで響いた。
 それと同時に、マシンガンの弾の数が目に見えて減る。隙と判断して、ブライは再度ラプラスに合図を送ってから前に飛んだ。
『怯むな! 撃て!』
 二度目の命令が飛ぶが、攻撃はまばらだ。そうなると、もうブライの足を止めるほどでもない。
 ブライはもう振り向くことなく、前へ走り続けた。

 走り続けて数時間。
 ブライは包囲網を抜けたと判断して電波変換を解いた。

 ずきっ

 今度はこめかみが痛む。
 歯を食いしばって耐えていると、痛みは少しずつ引いていった。
 リアルウェーブで鏡を生み出して顔や体を見直してみる。満身創痍ではないが、無視できないほどの痣があちこちに浮かんでいた。
「血が出ていないだけマシか」
 楽観的に判断する。と言うか、そう判断しないと前に進めない気がした。
 大怪我を負っても、誰も診てくれなかったし誰も心配しなかった。だから自分で判断して、前へ進んできた。そしてそれは今も変わらない。
 ただ、今回は少し違う。
 フォルゲンに連れていかれた星河スバルと響ミソラ。彼らは電波変換で戦うことができる。しかも、2人とも実力派の電波人間だ。
 大人しく囚われているならいいが、相手の事だ。恐らく洗脳させてこっちに差し向けてくることだろう。
 勝てるだろうか。さすがに不安にもなる。
「……くそっ」
 頭を何度も振り、気弱な思考を追い払った。
 どれだけキズナが強いとしても、群れなければどうしようもない力だ。そして今の奴らはまがい物をかき集めただけの雑魚に過ぎない。

 何より。
 自分がやらなければムーの遺産がいいように扱われてしまう。

 ムーの技術は、人が扱えるような代物ではない。例え今後人の精神が成熟したとしても、使われることはあってはならないのだ。
 人の手に余るような超技術は、幸せどころか災厄をもたらす。だからこそ、ムーは落ちた。

 全てのムーのテクノロジーを眠らせる。それが自分の使命だ。

 ソロは改めてそう決意して、目を閉じた。