流星のロックマン・希釈「女王様のご命令・5」

 更新されたネットニュースはソロも確認した。
「まずいな」
 スバルと結ばれたいというミソラの内なる欲求をケテルが受け、周りの人間がその願いを叶えようとしているのだろう。
 3つの神具はどれも同じ効果だと思っていたが、どうやらそれぞれに個性があるようだ。ケテルは王冠の見た目通り、王と定めた人間の願いを「叶える」ことに特化しているのだろう。
 しかし、何でも願いを叶えるという事は、それだけ王の強欲を引っ張り出す。そして王もそれが当然だと思うようになり、神具に飲み込まれるのだ。
 こっちはケテルの居場所を掴めていないのに、ケテルは既にミソラを王と定めて発動している。これは相当まずい事だ。
 急ぎ見つけて回収したいところだが、手掛かりは何一つない。そろそろ聞き込みも考える必要があった。
 聞き込みするにしても誰にすべきか。
 真っ先に頭に浮かんだのは響ミソラだが、王となってしまった彼女に向ってケテルは何処だと聞いても無駄だろうし、知っていても正直に答える事はないと思われた。
 となると、彼女のウィザードか。
 シェヴェトの時と同じなら、ウィザードなどの電波体は人間と比べると神具の影響を受けない。情報を手に入れやすいだろう。
 そう考えをまとめたソロは、一旦オクダマスタジオの外に出るが。

「『あ』」

 探していたミソラのウィザード……ハープと遭遇した。

『なるほどね……』
 ハープに簡潔に事情を話すと、彼女は納得したような顔になった。
 逆にソロもミソラやその周りの状況を聞いて、更に自分の推理が間違っていないことを確信する。
「星河スバルも同じような状態になっていた。最も、あいつは振り回される方だったがな」
『彼らしいこと』
 全くだ、と内心で同意する。大人しい性格故、常に振り回されている印象だった(特に女子に)。
 ソロはもう一度件のニュースが載っているページを出した。
 記事の内容は極秘の取材でロックマンの動向を掴んだという、適当に適当を重ねた記事とも言えないお粗末な代物。それをニュースとして載せられるくらい、今の芸能界はミソラへのご機嫌取りが中心となっている。
 芸能界と言う大きな社会が一人の少女に媚びへつらっている異常な状態だが、それだけ響ミソラと言う少女の影響は大きいとも言えた。
『早い所そのケテルという物を見つけないと、ホントにスバル君が映画出演しかねないって事ね』
「一応サテラポリスが保護しているが、ニュースを見て飛び出しかねないからな」
 いっそ会わせればとも考えたが、そうすると更に彼女の欲望が膨れ上がり、最悪スバルを巻き込んでの大事件になりかねない。
 そして何より。
 何故か二人を会わせるという策を取りたくなかった。歴戦のカンと言うべきか、虫の知らせと言うべきか。とにかく2人を会わせたくなかったのだ。
 できればスバルが飛び出す前に、問題を片付けたい。そのためにも、情報は出来る限り欲しかった。
「貴様はそれらしい物を見ていないのか」
 ソロが問うと、ハープはぱたぱたと手を振って「ないわ」と答えた。
『だいたい、貴方の話を聞いて初めて知ったくらいだもの』
「ちっ……」
 思わず舌打ちしてしまう。
 ハープを責めたくないが、これではほとんど相手に情報を与えたようなものだ。他の相手を探すべきだったと反省していると。
『良かったら、一緒に探しましょうか』
「は?」
『ミソラの関係者として、大手を振ってスタジオを探し回れるはずよ? 悪くないと思うけど』
「……」
 ハープの提案はなかなか魅力的なものだった。
 このスタジオ関係者にバレないように探し回るのにも限界がある。ハープが嘘でも自分の身分を証明してくれるのなら、もっと詳しく調べる事が出来そうだ。
 ただ、問題がないわけではない。自分の正体に感づかれてしまえばそこで終わりだし、何より……。
「貴様はあの女についてなくていいのか?」
 否が応でも響ミソラと出くわす可能性が上がるという問題だ。今は別行動だが、マネージャーな以上彼女についていないといけないはず。誤魔化すにも限界があるのではないだろうか。
 ソロの問いに対し、ハープは肩をすくめる仕草をした。
『ここ最近はアルバム宣伝の番組収録とかで、別行動が多いのよ。あと事務所の人が代わりについてる事が多いし。
 何より、今のミソラは如何にスバル君と一緒になるかを考えるのに夢中だから、私の行動に注意を向けないわ』
「利用する気満々と言うわけか」
『2か月は会ってないもの。もし気づいたら利用するでしょう』
 なるほど。
 想い人に会いたいという気持ちが、ケテル発動のキーとなったようだ。しかし、今の状況でその願い叶えさせるわけには行かない。
 ともあれ、ミソラとかち合う可能性は割と低いようだ。大手を振って歩き回れるとはいかなくても、調べやすくなったのは変わりない。
 ソロはオクダマスタジオの方を視線を向けた。

 

 サテラポリスの隔離部屋の一つに、スバルは保護されていた。
 何故か、はまだ知らされていない。最初に聞いたものの、シドウもヨイリーも苦笑いを浮かべるだけで何も答えてくれないので、仕方なくスバルはそれを受け入れている。
 最低限の生活は出来るものの、他人との会話や通信はなるべく控えてくれときつく言われている。
 ただでさえ電波があまり通らない部屋故に、最新の情報はほとんど手に入らない。ウォーロックがあれこれ教えてくれるものの、内容が大げさなのでどこまでが本当なのか解らない。
 そんな中に、映画の主役に抜擢されるかもしれないというものがあった。
「あのさぁ、いくら何でもそれは有り得ないって。僕、お芝居とか全然できないし」
『いやいやいや、本当にそう言うニュース出てたんだぜ? しかもヒロイン役がミソラと来たもんだ』
「ミソラちゃんも女優じゃなくて歌手だよ? 有り得ないって」
『だーかーらー……』
 幸か不幸か。
 ウォーロックの性格と話し方のおかげで、スバルは外のニュースを信じずに済んでいたのだった。

 

『ハープ!』
 オクダマスタジオに入り直したソロとハープに、アイスが声をかけて来た。
 アイスは初対面のソロに首をかしげるが、ハープが『私の関係者よ』と簡単に紹介しつつ目配せを送る。頭のいいアイスは、それで何となく察してくれたようだ。
 お互い挨拶を済ませ(ソロは意地でも挨拶しなかったが)、すぐに本題に入った。

『そのケテルの見た目は解らないの?』
「正確な形は解らん。だが、王冠のような形のはずだ」
『それじゃあ解りにくいわよ』
 アイスの鋭いツッコミに、ソロは思わず口をつぐんでしまう。
 これが最新のアイテムなら画像を見せるだけでいいのだが、相手は古代のアーティファクト。全ての情報が伝承頼りなのだ。
『ここ最近はファンタジードラマとかはないから、テンプレのような王冠だったら解ると思うけど』
 ハープが助け船を出すが、それにはソロが首を横に振った。宝石がごてごてついたような王冠だったら、まず財宝目当ての盗掘者が盗んでいた事だろう。
 やはり、自分が確認するしかないだろうか。しかし、倉庫は何度も確認したが、ケテルらしいものは見つからなかった。
『そうなると、誰かが持ってるのかしら』
 ハープの推理に対し、ソロがふむ、と首をかしげる。
「持ち帰ってたなら、スタジオから離れたら影響を受けなくなるはずだ」
『毎日来ている人ならどうかしら。もしくは、ここに泊まり込みの人とか』
「……その場合なら、有り得るな」
 アイスの付け加えは、ソロに考えさせるには充分なものだった。
 確かに、建物内をいくら探しても見当たらないなら、人の手の中にある可能性だってある。カメラなどの裏方、警備員、清掃員など、候補もたくさんだ。
 ただその場合、回収が更に厳しくなるという事でもある。女王がそれを手放すなと命じてしまったら、持ち主は何が何でも自分に渡すことはないだろう。
 最悪、手にかける事も考えるべきか。ソロの拳が自然と握りこぶしになる。
 と。

「あれ、アイスとハープ?」

 ソロにとっては聞き覚えのない声が、後ろからかけられた。
 振り向いてみると、長い茶髪をサイドポニーにした少女が目を丸くして立っている。ソロは初対面の少女だが、ハープとアイスは知り合いのようだ。
『『スズカ!』』
 ウィザードたちが少女の名前(だと思われる)を呼ぶ。
 スズカと呼ばれた少女は、初対面のソロに少し怯えつつも「初めまして」と挨拶した。対するソロはいつも通りの仏頂面で返すが、ハープがアイスの時と同じように「自分の関係者だ」と説明した。
 あいまいな説明にスズカは首を傾げるが、それ以上問い詰めるつもりはないようだ。自分のマネージャーであるアイスの方を向いた。
「それで、アイスたちは何やってるの?」

「王冠っぽい物? 知らないなぁ……」
 スズカにもケテルの場所を聞いてみたが、当然と言うべきか知らないという反応だった。
 彼女自身からは電波人間特有の気配もないので、恐らくケテルの支配下にあるはずだ。実際、アイスから聞いた話では、彼女はミソラの映画出演に疑いもしていないようだった。
 じっくりと様子をうかがってみるものの、嘘をついている気配もない。本当に知らないようだ。
 ソロはスズカに事情を話すべきではないだろうと思っていたのだが、それより先にアイスが色々と話してしまった。
『スズカは告げ口とかしない子よ。そこだけは信頼していいわ』
 とはアイスの評価だが、神具の影響が大きくなればどうなるかは解らない。2人には悪いが、これ以上の情報は離さない方が良いだろう。

(……『2人には悪いが』?)

 自分の思考に思わず呆れてしまう。
 少し前までは誰かとこうして相談し合う事すら嫌だったのに、今は普通に受け入れている。思いやりすら見せてしまっていた。
 コダマタウンの時もそうだ。ルナたちのペースに巻き込まれていたとしても、無視することはできたはずだ。なのに、それをしないどころか、差し入れすらしてしまった。
 事が事なので、自分1人で全部片付くとは到底思ってはいない。それでも誰かの力は借りたくないし、協力体制などもってのほかのはずだった。
 色々言い訳は出来るが、結局のところ誰かとつるんでしまっているという事実は変わらない。

 キズナなどいらないと言っているのに、自分の中ではまだ未練がましくキズナを求めてしまっているのだろうか。

 ソロはみじめな自分に泣きたくなってしまった。