流星のロックマン・希釈「女王様のご命令・2」

 ソロが王冠――ケテルの場所を突き止めたのは、ミソラが新曲を書き始めた翌日だった。
 場所はテレビ局が抱えているスタジオの一つ。ソロが苦手とする人の多い場所だ。ただ逆に電波はあちこち飛び交っているため、忍び込んであれこれするにはちょうどいい場所ではあるのだが。
「……ふん」
 スタジオの予定を調べていると、利用者の欄に「響ミソラ」の名前を見つけた。
 アイドルだから顔を出しててもおかしくはない。ただ、彼女が自分の存在に気づいたら厄介だとは思った。
 ルナはこっちに友好的に接してきたが、彼女はそうとは限らない。一度戦った身だし、何よりスバルへの想いも大きい女だからだ。
 自分がいる→スバルの危機とシンプルに考えられたらたまったものではない。
 なるべく彼女に会わないようにルートを考えた方が良さげだろう、とソロは一旦夜にスタジオに潜入することを決めた。

 ……決めたのだが。

「おーい、あれまだか?」
「ヨネタロウさーん、そろそろ出番ですー」
「馬鹿野郎! 何でBのやつ持ってきてねえんだよ!!」

 深夜11時。今も収録やら撮影やらで、人があちこち走り回っていた。
 さすがに子供はいない分人は少ないが、大の大人がたくさん残っている事実は変わらない。当然、デンパくんやウィザードもたくさん残って作業している。この状態では、ケテルの探索どころか下見すら難しい気がした。
 もうちょっと待つか、見つかる覚悟でもっと深くまで潜り込むか。
 しばらく考えた末、もう数時間待つ事にした。

 今回の読みは当たったようで、日をまたぐとさすがに目に見えて人が減った。合わせて、ウィザードも数を減らしている。
 デンパくんは相変わらず仕事しているが、自分を見かけても何も言わない。基本彼らは声をかけない限りは反応しないのだ。
 ソロ――ブライはそんなデンパくんを無視して、スタジオの廊下を警戒しつつ歩く。電波が見えないなら自分も見えないはずだが、例外がいないとは限らないからだ。
 廊下は暗いがバイザーをかけているので前が見えないという事はない。そのためか、つい「それ」に目が行った。

 ――ヒーローの戦いに、刮目せよ。
 あのロックマンの戦いを元に作り出されたアクション映画! ニホンが感動の渦に巻き込まれる!!

「……」
 どうやらロックマンをモデルにした映画のようだ。本人は目立ちたくないのに、こうして周りが無理やり神輿に乗せて祭り上げてしまうのだから、さぞ胃が痛い事だろう。
 まあ、それは自分には関係のない話だ。ブライはすぐに廊下の先に目を向けた。
 そのまま警戒したまま廊下を歩く。ケテルは見つからないとしても、ある程度の目星はつけておきたかった。

 ウェーブステーションのニュース欄が更新される。
『映画「ブルー・ミーティア」、ヒロイン役に響ミソラが抜擢? 国民的アイドルとヒーローとのロマンスが噂の中で。』

 まずいことになった。 
 ソロがそのニュースを見た時、ケテルは既に発動している事を悟った。
 ケテルのターゲットは響ミソラ。彼女の願い……スバルへの想いを、周りが叶えようと動き始めているのだ。
 あのスバルですらシェヴェトに吞まれてしまった以上、ミソラがケテルの影響を全く受けないとは到底思えなかった。急ぎ回収しなければならない。
 下見ではケテルの居場所は全然つかめなかった。前回のシェヴェトと同じく、難解な場所に保管されているのは間違いない。
「……ああ、くそっ」
 そこまで考えて、ソロは何故スタジオなのかを悟ってしまった。
 TVドラマのバリエーションは豊富だ。中にはファンタジーや中世ヨーロッパを舞台にした物もあるから、ケテル(王冠)も違和感なく隠せるだろう。
 女王に相応しい人物に、隠す場所に困らない建物。これを考えた奴は相当頭がいいのだろう。
 ソロは頭を抱えそうになってしまうが、ギリギリのところでその頭を振って回避する。諦めたらそこで終わりなのだ。
「しばらくは、スタジオに留まるしかないな」
 出した結論はそれだった。
 問題点は色々あれど、とりあえず一番手っ取り早く解りやすいのはこれだ。下見である程度の地理と隠れ場所は把握したので、後は泊まり込みに必要な物を買うぐらいである。

 

 ソロがスタジオに潜伏する数日前。
 サテラポリスでは、暁シドウにお使いを頼まれたクインティアがディーラーの資料をPCで確認していた。
「フォルゲン・グリムテルム……」
 目的の相手の名前をつぶやく。
 ジョーカーと並んでキングの腹心として動いていたが、あいにくそのような人間の名前は一度も聞いた事はなかった。ただ……。
「キングが目を付けていなかったとは、思えない」
 自分の考えを、口に出す。
 電波変換の仕組みには疎かったが、それ以外の技術に関しては貪欲に吸収していた男。そんな男が、シェヴェトやケテルに目を付けていなかったとは思えなかった。
 何故、放置していたのだろうか。
 クインティアはマウスを操作して、ムーのテクノロジー関連のフォルダを開いた。
 ずらずらと出てくるムー発の技術の数々。自分が世話になったものから、初めて見るものまで様々だ。キングは予想以上にムーのアーティファクトを盗んでいたようだ。
「……ん?」
 とある記述が目に入った。

『剣・杖・冠の神具。
 発動条件に色々と条件有。最終的にはキングの理想とかけ離れていると判断、意図的に放置する。』

 グリムテルム自身には目を付けていなかったものの、神具そのものは存在を掴んでいたらしい。ただ、自分の目的……世界征服に向いてないからあえて無視した。
 クインティアは別のタブで神具の情報を出す。
 オリヒメから提出された情報には、キングが手を引くほどの情報があるとは思えなかった。ように見えた。しかし。
「……ん?」
 再度同じ言葉を発してしまうクインティア。そしてまた、同じようにある記述に目を奪われた。

「やっぱりね」
 クインティアがまとめた報告書を見ながら、ヨイリーがぽつりとつぶやいた。
「やっぱり、とは?」
 シドウがヨイリーの言葉を拾って問えば、「まあ落ち着きなさい」とヨイリーはころころと笑う。
「キングがこれを無視するのは当然よ。この神具が本領発揮するのは、王と女王……特別な男女一組が必要なんだもの」
「……そりゃ使いませんね」
 ただの男女一組ならともかく、王や女王のように人を引き付ける事が出来るという条件は難しい。条件に見合った男女を探すより、別のアーティファクトを使う方が早いだろう。

 だが、その条件に見合った男女が見つかったなら?

 キングはミソラはともかく、ロックマンの存在を軽く見ていた。しかし今、ロックマンの知名度はニホンどころか世界でも通じるほどのものになってしまっている。
 グリムテルムはそこを突いたのだろう。
「じゃあグリムテルムはディーラーとは全く関係ないんでしょうか?」
「おそらくね」
 ヨイリーは紅茶を一口飲み、シドウはうまい棒を口に放り込んだ。
 しばらくは、お互い報告書を睨むように読みふける時間が続く。情報はあればあるほどいいが、まだ足りない。
「だからこそ、情報がもう少し欲しいわ」
「はーい」
 言葉の外に出動要請を感じたシドウは、がたりと立ち上がった。スタンバイモードのアシッドを呼び、心当たりのある場所へのルート検索を指示する。
 ドアに手をかけた時、ふと思いついてヨイリーに聞く。
「ティア……クインティアも呼んでいいですか?」
「いいわよ。けどね……」
「けど?」

「ホテルの宿泊料は自腹よ」

 ……シドウは派手にずっこけた。

 

 潜伏2日目。
 栄養バーの袋をゴミ箱に捨てながら、ソロは今日もケテルの保管場所を探していた。
 ケテルのサイズは実際にかぶれるぐらいのものなので、よくあるロッカーとかには到底入らない。そのため、ソロは物置などを徹底的に調べていた。
 しかし、スタジオ全部の物置や資料室などをざっと調べても、それらしいアイテムは見当たらない。ならば外かと思って軽く回ってみても、やはりケテルは見つからなかった。
 それにしても。
 妙にぴりぴりした感じのスタッフ、彼らに戸惑いを感じる電波体。そしてとある部屋に、荷物が絶えることなく運ばれていく。
 気になって見てみれば、表札にはっきりと「響ミソラ様控室」とあった。
「ちっ……」
 ケテルの影響下にある事を思い知らされ、ソロは思わず舌打ちしてしまう。

 国民的アイドルという女王に、かしずく人々。女王の機嫌を損なわないようにと、誰もが気を使いながら生きている状態。
 ここは既に、響ミソラを中心とした王国と成り果てていたのだ。

「ラプラス」
『ル……』
 自分のウィザードに呼び掛けると、察しのいい相棒はすぐに控室の中に飛び込んで行った。
 戻ってくるまでその場で待っていると、耳があまり聞きたくない声を拾った。拾ってしまった。

「あーもう、仕事多すぎ~!」

 響ミソラの声だった。