「がはっ!」
フレイムアックスをモロに食らってしまい、ブライは思わずつんのめりそうになる。
ロックマンがそれを見逃すわけもなく、ウォーロックアタックからのトルネードダンスを繰り出してくる。電波障壁で一撃は防げたものの、連続攻撃で一気に削られてしまった。
「とどめだ!」
気合一閃のソードファイターの斬撃。とうとう耐えきれずに、大きく吹っ飛ばされてしまった。
立ち上がろうとした瞬間、追い打ちの様にキャノンの一発を顔面に受ける。
「がぁぁっ!!」
ウェーブロードから落とされ、全身を鋭い痛みが駆け巡る。電波変換解除まではいかないものの、このまま攻撃を受け続けていたら肉体の方も重傷待ったなしだ。
それでも立ち上がろうとするブライ。シェヴェトがまだ見つかっていない以上、逃げるわけにはいかない。
ちゃき、とバスターを構える音を耳が拾った。
『おいスバル! これ以上やったらブライ……ソロが死ぬかもしれないぞ!?』
あまりの容赦なさに、さすがのウォーロックがストップをかける。しかし、それに対してのスバルの答えは
「それが何? 彼はいつか誰かを傷つける、世界とキズナの敵なんだよ」
『「!」』
冷徹な答えに、ウォーロックとブライが息を呑む。ただし、前者は驚きだが、後者は絶望のそれだ。
スバルは呑まれた。人々の望む『ヒーロー』の形に、完全に飲み込まれてしまっている。悪を許さず、キズナと世界を愛するヒーロー。
こうなってしまった以上、自分のような孤高……孤独な者たちを決して許すことはない。例え相手にどのような事情があったとしても、だ。
かつては自分の事情を認め、理解するほどの心の強さはもうないのだろうか。
ブライは何とか立ち上がろうとするが、ダメージが酷くもがくのが精いっぱい。ロックマンはそんな状態のブライに対して何も感じないのか、フレイムアックスを振りかぶろうとするが。
「スバル!」
ぎりぎりのところで駆け付けたゴン太――オックス・ファイアがロックマンを羽交い絞めにした。
『ゴン太!』
「目を覚ませよスバル! そいつと戦う理由はねぇだろ!」
力任せに振りほどこうとするロックマンだが、さすがにオックス・ファイアのパワーには敵わないらしい。そもそも身長差がある故、そう簡単にはがせないはず……だった。
「ゴン太、邪魔しないで!」
相手の足元にミニグレネードをわざと落とし、同タイミングで大きく足を振って勢いをつける事でオックス・ファイアをふらつかせて拘束を解いた。
そのままもがくブライに近づこうとするロックマンだが、その足がぴたりと止まる。
ルナが、ブライを庇うように立っていた。
「「委員長!」」
スバルとゴン太が同じタイミングで叫ぶ。前者は驚き、後者は悲痛なそれだ。
さすがにルナに手を上げる事は出来ないらしく、ロックマンは一歩下がる。オックス・ファイアが庇おうとするが、ルナはそれを止めた。
「委員長どいて。そいつを」
「やらせないわ」
「そいつは敵なんだよ!」
「違う! ブライ……ソロは私たちの友達よ! 貴方が言ったんだからね、『スバル君』!」
「!?」
ルナの呼びかけに、ロックマンの目が丸くなる。
普段のルナは電波変換していない時は「スバル君」、電波変換した時は「ロックマン様」と切り替えている。そんな彼女が、ロックマンを「スバル君」と呼んだのだ。
迫力に気圧されたか、ロックマンがさらに後ずさる。みんなのキズナのヒーローであるはずの彼は、たった一人の少女に立ち向かえずにいた。
及び腰のヒーローに対し、ルナは強い視線のまま
「スバル君、貴方は前に『何の力も持たないくせに』って言ってたわね。確かに、私は戦う事もできない力のない人間よ。
だからこそ、出来る事を探すの! 力がなくても、大事なものを守れる方法を!」
そう声高々に叫んだ瞬間、ルナが取り出したのはミニエネルギー。電波体や電波人間の体力を少し回復するだけのアイテム。しかし、その程度でもブライには充分な物。
「ブライ!」
倒れ伏したままのブライに投げつけられた。倒れたままだが意識は保っていたので、ブライは立ち上がって一気に踏み込んだ。
ルナがいい感じに影になっていたため、ロックマンの反応が一瞬遅れる。ブライにとっては十分な一瞬。
「ふんっ!!」
渾身の右ストレート。
クリーンヒットしたロックマンは大きく吹っ飛ばされ、電波変換が解除された。
ルナが間髪入れずにスバルの元に走り、倒れた彼を抱き起こす。さっきのパンチのダメージがきつかったか、頭を何度も振っていた。
「スバル!」
オックス・ファイアも電波変換解除し、スバルの元に駆け寄る。
ロックマン――スバルはもう戦闘不能だ。なら、ここを離れるべきだろうとブライが立ち上がったその時。
「スバル! ソロ! 二人とも無事か!」
車が飛び込んできて、中から暁シドウが飛び出してきた。一歩遅れてクインティアが何かを持って車から出てくる。
ソロは一瞥する程度で済ませたが、スバルたちの方は口々に「大丈夫」と反応していた。シドウは全員見まわしてから、安堵の顔になる。
「とりあえず全員影響がなさそうで良かった。それに、問題のブツも何とか回収できたようだしな」
「そうなのか?」
ソロの反応に答えるかのように、遠くから「おーい」と呼ぶ声が聞こえた。
そっちに視線を向ければ、キザマロともう一人が自分たちの方に駆け寄ってきている。なおキザマロの手には、シェヴェトが握られていた。
「間違いないようだな」
シドウがソロの表情を覗き込み、にやりと笑う。ソロはその笑みを一睨みしてから、キザマロからシェヴェトを受け取った。
ほぼ同じタイミングで、スバルもようやく意識がはっきりしてきたらしい。ソロの方を向いて首をかしげている。そんなスバルに、ジャックが何かを渡していた。
会話はよく聞き取れないが、どうもシェヴェトの干渉をシャットアウトするツールのようだ。短時間でそのような物を作った辺り、既に彼らも事情を知っているのだろう。
「スバル、大丈夫か?」
「う、うん」
「良かった!」
感極まったルナに抱き着かれ、目を白黒させているスバル。それを笑って見ているゴン太やキザマロ、ジャックの3人。
やっと戻って来たいつもの光景。
そんな光景を一歩離れたところで見ていたソロの背中を、誰かが叩いた。
「お疲れ、ヒーローさん」
「誰がヒーローだ」
シドウの軽口をつっけんどんに返す。
こうなったのは偶然で、元々誰かのため世界のために戦っているつもりは毛頭ない。そう言うのはロックマンに丸投げだ。
だいたい、今回に限りその言葉はロックマンにも相応しくない。あれだけキズナの力だと言っておいて、シェヴェトごときに振り回されているのだから、あの男はまだまだだ。
そして何より。
「その言葉は、あの女……白金ルナに言ってやれ」
そう言いつつ軽く指した先には、今もスバルに説教をし続けるルナの姿。
シドウは一瞬目を丸くするが、すぐにふっと笑って「そりゃ確かに」と返した。
その後、ソロはすぐにその場を立ち去ろうとしたが、すぐにルナたちに見とがめられた。
「メアドぐらい交換しなさい」やら「牛丼奢ってやる」やら「次はオレと勝負だ」やら、色々あーだこーだ言われてうんざりしつつも、引きはがせない自分がいるのもまた事実だった。
コダマタウンに据えられたシェヴェトは、無事にソロの手に戻った。
このまま遺跡に戻すか、一旦サテラポリスが預かるかで少し揉めたが、最終的にはソロの一睨みで遺跡に戻す事になった。
ルナたちは事件が落ち着くまではヘッドセット……ウェーブキャンセラーを装備して、普通の生活に戻るらしい。シェヴェトが回収された今、思考ジャックはなくなると思われるが、何があるかは解らない。そのための防衛策だ。
ただしスバルのみ、一時サテラポリス預かりになった。
「申し訳ないが、体調にも悪影響があるかも知れないからな」
「……はい」
シェヴェトの影響を一番受けていたのはスバルだ。それに「今後」の事を考えると、今もスバルは狙われていると言っていい。検査は表向きで、実際は保護である。
シドウはそうソロに耳打ちした。
コダマタウンが落ち着いただけで、戦いはまだ続いているのだ。