流星のロックマン・希釈「星河スバルの傲慢・8」

 ロックマンの先制攻撃に対し、ブライは軽く左に避ける。
 当然、ロックマンがその程度で驚くことはない。バスターとバルカンの連打による弾幕で、こっちが近寄れないようにしてきた。
 これも慣れたもので、隙を見出して一歩踏み出す。ロックマンは中~遠距離を得意としている故、踏み込んでしまえば逆にこっちのペースに持ち込みやすい。
 しかし、それは相手も承知だったようだ。
「バトルカード、ディバイドライン!」
 ロックマンに一番近づける部分を切り取られ、ブライはギリギリのところで踏みとどまる。手に持っていたラプラスブレードをいったん戻して、ブライナックルに切り替えた。
 相手が接近戦を得手としているなら、近づけさせなければいい。相変わらずスバルの戦闘センスはいいようだ。
 しかし穴を開けたという事は、こちらにも好都合だ。ムーの技術で作られたバトルカードを利用し、レーザーを放つ。
 切り取られたウェーブロードという電波を吸収したレーザーが、高速でロックマンを襲う。さすがに避けられないと判断したらしく、シールドを貼って耐え抜いていた。
 まだ飛び込めるほどの間合いはないが、ロックマンの得意な間合いからは外れている。イニシアティブはまだこっちだ。
 自分の間合いを取ろうとロックマンが一旦下がるが、それもまたブライの目論見通り。
 ……だったのだが。
「シュリシュリケ……」
「バトルカード、フラッシュスピア!」
 ブライの行動よりも先に動いたのはロックマン。輝く槍がブライの目の前に飛び込んできたため、急いで背後に飛んでかわす。残念ながら、ブライが投げた手裏剣はロックマンに当たらなかったようだ。
 後ろに飛んでしまった事で、またロックマンの得意な間合いになってしまう。しかも、ウェーブロードが切られた事で懐に飛び込むのは難しくなってしまった。
 切り取られたウェーブロードが再生する時間を脳内で計算。40秒の間、相手の得意範囲内でやり過ごすしかなさそうだ。
 思考は一瞬。だが、相手にとっては貴重な一瞬。
「!」
 目の前にアシッド・エースが現れたかと思うと、ソードで切りつけてくる。どうやらメガクラスカードで召喚したアシッド・エースのようだ。
 頭を下げる事でぎりぎり回避するが、ロックマンのラッシュは止まらない。続いてヒールウィザードが現れて、電気属性のステッキをぶん回してくる。さすがにそれはサマーソルトキックでステッキを弾き、隙を見てブライナックルを撃った。
『スバル、もうちょい距離を取れ!』
「解ってる!」
 ウォーロックのアドバイスを受けて、ロックマンが一旦下がる。それに合わせて、ブライも距離を詰めた。飛び込んだ勢いで、ロックマンの脳天めがけてかかと落としを狙う。
「くっ!」
 ロックマンはシールドを張ってかかと落としも耐え抜く。空いてる手がバスターになったのを見て、ブライは急ぎ電波障壁を張り巡らした。
 ……それが、大きな隙となってしまう。
「今だ! ライトオブセイント!!」
「なっ!?」
 ブライの目の前に幻影の女王が舞い降りたかと思うと、光の柱が荒れ狂う。
 電波障壁は1度だけあらゆるものを弾くが、再度張り直すのにタイムラグがある。つまり、連続攻撃には弱いのだ。
 ロックマンとは何度もやり合っている故、その弱点も既に知られている。そのため普段はヒット&アウェイで追い詰めるのだが、少しの焦りが大きなダメージになってしまった。
 大きく吹っ飛ばされるブライ。当然ロックマンが見逃すわけもなく、ハンマーで追い打ちをかけて来た。
「ぐはぁっ!」
 電波人間でなければ全身複雑骨折になりかねない一撃。目の前が激しくフラッシュするが、歯を食いしばって視界を元に戻した。
「ラプラス!」
「……!」
 ブライが呼ぶと、物言わぬ相棒はロックマンに襲い掛かる。
 ロックマンが大剣に変身したラプラスをあしらっている隙を見て、ブライは痛む体に喝を入れて立ち上がった。再度懐に飛び込み、ラプラスが離れた瞬間を見計らってアッパーカットを決めた。
 今度こそ見事なクリーンヒット。大きく吹っ飛ぶロックマンを見ながら、ウェーブロードに叩き付けられるタイミングを瞬時に計った。
『スバル! 急いで体勢を立て直せ!』
 ウォーロックが警告するが、時すでに遅し。
 ロックマンがウェーブロードに叩き付けられる瞬間と、先にブライが放ったブライバーストがヒットする瞬間が完全に重なった。
 もう一度吹っ飛ぶロックマン。格闘ゲームなら更にコンボを繋げるチャンスだが、これはリアルの戦闘。そして何より、ロックマンの左腕がびくりと動いたのをブライは見逃していなかった。
 追い打ちはやめ、キャノンを撃ちつつ一歩下がる。ロックマンも左腕――ウォーロックによって立て直した。
 そして振出しに戻る。お互いダメージはあるが、立てないほどではない。ブライはラプラスブレードを手に、完全回復したウェーブロードを蹴った。
 ロックマンがマッドバルカンの弾幕を張ってきた。さすがに今回は剣を盾代わりに掲げて、バルカンの弾幕を全部防ぐ。
 弾幕が終わったタイミングでブライスラッシュ、そして自身はスライディングで上下から詰めていく。電波障壁もだが、ロックマンのシールドも連続攻撃には弱い。そこを攻めたのだ。
 対するロックマンの行動はシンプル。スライディングは横に飛ぶことで避け、スラッシュはシールドで防いだ。
 また一進一退の攻防が続く。お互いの実力が拮抗している以上、一瞬の隙が全てを決めてしまう。
 そしてその隙を作ってしまったのは……ブライの方だった。

 

 学校に忍び込んだゴン太とキザマロは、昼間探せなかった場所を中心に探していた。幸い、全員下校していたので教室にも入って怪しそうな物を探す事にした。
「見つからねぇなあ」
『それらしい電波も感じられんな』
『最悪、もう一度上から調べる事になるかも知れないね』
 ペディアの一言に、キザマロがあからさまに嫌な顔をした。電波変換は出来ず、体力も低い自分がもう一度最上階から調べられるとは思えないのだ。
 そろそろ見つかって欲しい。そう心の中で祈っていると、ゴン太のハンターVGが鳴った。電話の相手は、白金ルナ。
「い、委員長、こっちはまだ……え、ロックマンとブライが戦ってるだって!?」
「え!?」
 ルナとの会話は解らないが、どうやらこっちがシェヴェトを見つける前にスバルとソロが鉢合わせしてしまったようだ。
『ゴン太、こっちに来れる? ブライが苦戦してるなら加勢してほしいのよ』
「でも、まだシェヴェトを見つけてねぇんだ……」
 ゴン太が気を利かせてスピーカーモードにしてくれたので、キザマロも会話が聞き取れるようになった。
 あっちの戦闘の様子は全く解らないが、過去の戦いでロックマンは何度もブライに勝利している。苦戦する可能性は高かった。
 どうしようかと二人で顔を見合わせていると
『……おい、怪しい電波を感じるぞ!』
 オックスがシェヴェトらしき電波を探知した。
 今まで何の反応もなかったのに、この時になって反応する辺り、本当に何かあったのだろう。キザマロはそう判断した。
「ゴン太君、今すぐスバル君の元に行ってください!」
「『キザマロ!?』」
 二人が驚きの声を上げるが、今はシェヴェトよりもスバルの援護が先なのだ。
 いや、シェヴェトも見つけ出せれば更にスバルの力になる。ブライを追い払って、コダマタウンを守る事だって出来るはずだ。
「シェヴェトは僕が探し出しますから、安心してください!」
 キザマロがきっぱり言うと、2人とも「そういう事なら」と納得したらしい。ゴン太はスバルの援護のため、電波変換して校舎を飛び出した。
 残るはキザマロとペディアのみ。
『……キザマロ?』
「ペディア、とにかくシェヴェトを探しますよ!」
 何故かペディアが疑いの目を向けてくるが、今はそれどころではない。オックスが探知した電波を元に、シェヴェトを探さなければならないのだ。
 ペディアも事の重要性は解っているらしく、渋々と言った感じで電波の元を探り始める。
『見つけた! 1年の教室!』
「えーっ!」
 思わず声を出してしまう。
 1年生の教室にそんな物を隠すとは思わなかった。もし生徒が気づいて玩具にしたらどうするつもりだったのだろう。
 まあ、そんなたらればを考えてたらキリがない。被害がないのなら問題ないと思い直し、キザマロは急ぎ1年生の教室に飛び込んだ。
 当然だが、教室には誰もいない。つまり、情報がない。
「ペディア、どこか解ります?」
『……教卓だ!』
 サーチ能力にも優れたウィザードは、ちょっとした間だけで目的のアイテムを見つけ出す。言われた通りに教卓に近づくと、裏側に何か長い物が貼り付けられていた。
 丁寧にはがすと、明らかにここらでは見かけない長い棒。間違いなく、シェヴェトだ。
「……?」
 ここでキザマロは首を傾げた。
 何故これがシェヴェトだと解ったのだろう。はっきりとしたディティールについては知らないはずなのに、見た瞬間これがシェヴェトだと解ったのか。
 そもそも回収して何をするはずだった? スバルに渡す? スバルがこれを探してくれといつ頼んだ?
 このアイテムがどのような物なのかは全然解らない。だけど、誰かが探しているはずだった。

 誰だ? スバルか? それとも別の誰かか? スバル以外の誰かに渡す必要があるのか?

 解らない。だけど、これを持っていかないといけない。
 急に何もかもが解らなくなり、キザマロはシェヴェトを持ったままうずくまってしまう。動かないといけないのに、足が動かない。
 恐怖ではない何かが、足をすくませていた。
『キザマロ?』
 自分のウィザードが声をかけてくる。名前は何だったかすら思い出せないウィザード。怖い……。

 かちゃ

 軽い音と共に、頭に何かを付けられた。
「!?」
 慌てて触れると、ヘッドホンかヘッドセットのような物が頭につけられている。ウィザード――ペディアの方を見ると、彼の視線は自分よりも後ろの方にあった。
 相棒の視線に釣られてそっちを見てみれば、懐かしい顔がそこにあった。

「キザマロ、大丈夫か?」
「じゃ、ジャック君!?」

 ディーラーにいじられた体を治療しているはずのクラスメイトが、そこにいた。その後ろには、かつて教員研修で来た彼の姉・クインティアもいる。
「な、何でここに?」
「話は後だ。今はそれをソロに渡しに行くぞ!」
「……は、はい!」
 ジャックの口からソロの名前を聞いた瞬間、頭の中を占めていたもやもやと恐怖があっという間に霧散した。
 そうだ。自分はシェヴェトを見つけ出し、ソロにそれを渡すのだった。傲慢な方向に進み始めている親友スバルを止めるために。
「今、スバル君……ロックマンはブライと戦ってるはずです。ゴン太君がブライの援護に行きました」
 キザマロがそう説明すると、クインティアはハンターVGで連絡を取る(恐らくシドウ)。
 ジャックがそれを見て、キザマロの頭につけたヘッドセットを軽くつついた。
「それ外すなよ。外したらまたシェヴェトの影響を受けちまうからな!」
「わ、解りました」
 さすがサテラポリス。事件を知ってるどころか、もう対応策まで用意していた。
 ペディアをハンターVGに戻し、キザマロはシェヴェトを抱えて走り始めた。
 大事な友達を助けるために。