流星のロックマン・希釈「星河スバルの傲慢・7」

 スバルはメールで「すぐに帰る」と言っていた。つまり、まだ時間の余裕はある。
 その間にシェヴェトを探し出し、コダマタウンから離れるか簡易的な封印を施す。そうすれば、スバルが元に戻る可能性は高い。
 とはいえ、ルナたちは自由の利かない小学生。そこで4人は一旦「生徒会の仕事」と称してルナの家に行き、時間を見計らってゴン太とキザマロだけ学校に戻ってシェヴェトを探し出すことになった。
 ソロとルナは家に留まり、スバルの帰りを待つ。スバルが帰る前にシェヴェトが見つかれば良し、もし先に帰ってきたらソロが足止めをするのだ。
 そして午後6時。
 ゴン太とキザマロは「学校に忘れ物をした」と言い訳して、学校へと急いだ。人が少なくなった今、残る教室を全部調べる事が出来る。
 残ったソロは、ルナの部屋から外をひたすら見張っていた。ここの窓からは、ある程度コダマタウン全体を見渡せるからだ。
 外を黙って見張っていると、横からにょきっと牛乳とあんパンが出て来た。その先を追うと、真剣な顔をしたルナがいた。
「何だこれは」
「張り込みと言ったら牛乳とあんパンだからよ」
「……」
 何なんだその理屈。
 思わず心の中で突っ込んでしまった故、受け取り拒否できずに牛乳とあんパンを受け取ってしまった。
 仕方ないので、おとなしくあんパンの袋を開けて一口かじる。コンビニで買ってきたらしく、食べ慣れた味が口の中で広がった。
「まだ帰ってこないみたいね」
「そうだな」
 2人揃って同じ方向に視線を向ける。そう、2人揃ってだ。
 ソロは虚空――ウェーブロードを見ているが、ルナの方は。

「……貴様、見えているのか?」

 外に視線を向けたまま、隣のルナに聞くソロ。
 何が見えているのかとは詳しく聞かなかったが、聡い彼女はすぐに何を指して言っているのか解ったらしく、「ええ」と手短に答えた。
「どうしてそうなった」
 内心の驚きを隠しつつ、まだルナの方を向かないまま聞く。
 この地球上、肉眼で電波が見えるのはムー人のみだ。そして今ムー人の血を引いているのはソロしかいない。
 しかしルナは先日、明らかに電波が見えるような素振りをした。自分が剣で切る前にウィルスを察知し、回避しようと動いたのだ。
 明らかに電波が見えていたからこその動きだった。
 問われたルナは、ソロの方を見ながらぽつりぽつりと語り出す。
「貴方は知らないと思うけど、私、前にデータとしてバラバラになったのよ」
 初耳だった。
 ただ、電波的にバラバラにするという技術はムーでも利用されていた。それを考えると、どういう奴にやられたのかは何となく想像がつく。
「それからは、ぼんやりとした感じで見えるようになってきたの。だから、多分原因はそれね」
「生活に支障はないようだが」
「事件が終わった後、ヨイリー博士が電波が見えないコンタクトレンズを作ってくれたのよ。普段はそれを付けてるわ」
 ことり、と何かを置く音。恐らくそのコンタクトレンズのケースを置いたのだろう。
 サテラポリスの一部で普及されている電波を見る事が出来るツール、ビジライザー。それを応用して、逆に電波が見えなくなるコンタクトレンズを作ったという事か。
 そして会話が途切れる。ソロはもう会話のネタもないので黙っていたが、ルナの方はまだ何かあるらしい。
「あのね」
 声に釣られて視線を向けると、ルナはコンタクトレンズを付けていた。どうやら自分でスバルを見つけるのは諦めたらしい。ふう、とため息をついていた。
「私も、やろうと思えば電波変換できるらしいの。私に一度取りついたオヒュカスを再構成すれば、暁さんみたいな負担のない電波人間になれるだろうって」
 ソロはオヒュカスが何なのかは知らないが、恐らくスバルやミソラが連れている異星人と同じなのだろうと判断した。
 そんな電波体が宿っているなら、電波人間として戦うのも一つの手だろう。彼女は無力なのを嘆いていた。しかし戦う力が手に入るのなら……。

「でも、私は断った」

 その一言に、ソロはルナの顔をまじまじと見てしまった。
 彼女は力がない事に傷ついていたのに、その力が手に入るチャンスをあえてフイにした。真意は、いったいどこにあるのだろう。
「貴方にとって、ムーってどういう存在?」
 内心不思議がっていると、ルナが真剣な顔で聞いて来た。唐突かつ、あまり考えた事のなかった問いに対し、ソロは思わず黙り込んでしまう。
 自分にとってムーは、呪いであり誇りだ。傷つけられたことの方が多いが、自分にとって縋れる物、誇れる物はこれしかなかった。
 ルナに素直にそれを告げると、「でしょうね」と頷く。
「一緒に戦えなくても、実際の力になってなくても、共にいて支えになる。間違っているなら、体を張ってでも止める。私はそんな存在でありたいのよ」
 ……なるほど。
 彼女の言う事は正しい。しかし理想論だ。
 実際スバルの無意識は無力な彼女を責めていたし、何の力もない故にこうして力のある自分に頼らざるを得ない。
 しかし、それでもルナはその理想論を曲げるつもりはなさそうだった。力を手に入れる方法があっても、それを選ぶことなく、あえて非力なまま自らの道を探す事を選んだのだ。

 いくら厳しい現実を叩き付けても、決してひるまず妥協もしない、そんな芯の強さ。
 白金ルナという少女は、そんな強さを持っていた。

「それに、私まで電波人間になっちゃったら、キザマロが一人になっちゃうしね」
 そう言ってころころと笑うルナを、ソロは改めてじっくりと見た。
 今までスバルの取り巻きその1という認識だったが、その認識を改める必要がある。心の底からそう思った。
 スバルとは違うが、スバルと同じぐらいの強さを感じる女。そんな彼女がもし電波変換と言う力を手に入れていたら、どうなっていたのだろうか。
 そう考えたが、すぐに馬鹿馬鹿しいと切り捨てた。彼女は力を得ずとも、強くあろうとしている。問題は、スバルがそれに気づいていない事だ。
 絆の力をあれだけ信じているはずの彼は、今目の前にいる彼女の強さに全く気付いていない。だからこそ、シェヴェトに飲み込まれたのだろう。
 そんな事を考えていると、
「……! 来たか」
 視線の端に青い影が入り込む。
 どうやらロックマンがコダマタウンに戻ってきたようだ。ゴン太の方にメールが来ればルナの方にも送ると言っていたが、連絡がない辺り気づいていないか連絡を入れなかったか。
 ともかく、ハンターVGからラプラスを呼び出し、勢いで電波変換する。
「気を付けて! スバル君を頼んだわよ!」
 先にルナが開けた窓から飛び出すと、スバル――ロックマンがいるであろうウェーブロードを走り始めた。

 

 遠くから黒い影が見える。
 それが人影だと察した瞬間、カメラアイはそれをブライだと認識した。敵だ。
『おいスバル。やるのか?』
 何故かウォーロックが戸惑った声を上げる。いつもなら「腕が鳴るぜ!」と好戦的なのに。
「やるも何も、あっちが敵としてくるならやるしかないでしょ?」
『そりゃそうだが……』
 そう。今のブライは敵だ。キズナを憎む、孤高の戦士。みんなにとっての敵なのだ。なら自分はヒーローとして、ブライを倒さないといけない。

 ――ほんとうに、そうなのかな?

「……?」
 脳内にぽつんと浮かぶ「自分」の声。
 心の片隅で、今の自分を疑問視している自分がいる。例えるなら、流れる川から離れた場所で何かを叫ぶような……。
「ああもう!」
 首を何度も振って、その幻想を振り払う。よく解らない感覚よりも、今は目の前の敵だ。
 ブライは強い。しかし、自分はそのブライに何度も勝ってきた。油断さえしなければ、今度こそあの男を黙らせることができるはずだ。
『委員長たちに連絡しなくていいのか?』
 ウォーロックが訊ねてくるが、スバルは「そんな暇はないよ」と一言で切り捨てた。
 確かに連絡を入れれば状況を有利に出来るかもしれないが、この間委員長と喧嘩してから残りの2人ともややぎくしゃくしている。一応ブライが来る事は伝えているが、反応はいまいちだった。
 となると……。
「ミソラちゃんを連れてくればよかったな」
 無理だと解っていても、ついそう愚痴ってしまう。
 自分の最大の味方のミソラ。自分と同じ存在のミソラ。自分のヒロインであるミソラ。
 彼女が来れば百人力ではあるが、最近彼女は色んな仕事で忙しいと聞いた。まあ、自分に繋がる仕事なのだから仕方がない。

 ――ほんとうに、そうなのかな?

 もう一度、あの声が頭に浮かぶ。
 さっきとは違い、今回はその声が少し正しい気がした。例え自分の為なら何でもしてくれる子と言えど、無理に自分の事情につき合わせるのも悪い。
 色々考えていたら、黒い影……ブライはもう肉眼ではっきり見えるくらいに近づいてきていた。
 スバルはバトルカードの中からキャノンを選び、ブライの足元を狙って撃った。

 

 夜のコダマタウンに、1台の車が止まる。
「……間に合った、か?」
「おそらく」
 車から降りずに、1組の男女が空中――ウェーブロードを見やる。ただし、男の肉眼では電波は見えないので、ほとんど適当であるが。
 一方女は男から無断で借りたビジライザーをかけて、戦いを始めようとしている男たち――ロックマンとブライを捉えていた。
「スバルだけか? 他の奴らは?」
 後部座席に座っていた少年が、積んである荷物をいじりながら聞く。ここで言う「他の奴ら」は、白金ルナたちの事を指していた。
 女は再度ウェーブロードを見て「スバルとソロだけね」と答える。
「あいつらの事だ。どうにかしてシェヴェトの事を知って、探しているのかもな」
 どういう流れで知ったのかは知らないが、恐らくルナたちはソロと接触したのだろう。気の強い彼女の事だ。半ば強引に話を聞きだしたに違いない。
 ……となると、スバルはシェヴェトに飲み込まれているのだろうか。心臓を刺すような寒気に、思わず体を震わせてしまった。
「止まってる暇はないわ」
 こっちの弱気を悟ったか、女がビジライザーを返しつつ発破をかけてくれた。全く、このパートナーは自分の事に関しては何でも分かってしまうようだ。
 震えそうになる足を叩いて、男はカーナビで目的地までの最短ルートを出す。本当は2人の戦いに乱入してやめさせたいところだが、それよりも優先しておきたい事がある。
「スバルとソロは後回しだ。まずはルナたちを見つけるぞ」
 男――シドウは一緒に来たクインティアとジャックに一声かけて、車を走らせた。

 目指すは、シェヴェトが保管されているコダマ小学校。