流星のロックマン・希釈「星河スバルの傲慢・3」

 ツカサがコダマタウンを去って数日が経った。
 はるか遠いナンスカの地で、ソロと会っていたことなどつゆ知らず、スバルは極めて普通の小学生の日常を過ごしていた。
 その日常に、ロックマンとして戦うという日課が加わってるぐらいの極めて普通の日常。
 普段のスバルを知る者たちには少し違和感があるものの、誰一人としてそこを指摘する者はいなかった。
 ――近しい者ですら。

「出席取るぞー」
 育田の声に、白金ルナは空の席……スバルの席を見た。
 スバルはいない。今日も遅刻か欠席だ。
 父親が行方不明になってからしばらくは引き籠っていたが、ロックマンとして戦い始めてからは学校にも通うようになっていた。
 それ以降も何回か欠席したことはあるが、その時その時の問題を解決するとちゃんと登校してきた。
 今回も同じような何か問題があるのだろうか。
「星河は……今日も休みかな。最近あいつ休んでばかりだな」
 眉を寄せる育田。休みの理由をクラスメイトに問うても、答えられる者はいない。

 ……否。答える必要がないのだ。

 スバルはいない。ロックマンはいる。
 だから自分たちは黙って見送る。そうやって、正義の味方を応援する。そうするべきなのだ。
 それが正しいのかは解らないまま。

 

「ふぃ~~~、疲れたぜぇ」
 放課後。
 牛島ゴン太は自分の部屋に着くなり、背負っていたリュックを放り投げた。がしゃと大きな音を立てるが、中の教科書やノートは多分大丈夫だろう。多分だが。
 今日の授業は大好きな体育こそあったが、その次の授業が逆に嫌いな国語という天国と地獄だった。
 それだけではなく、今日は生徒会長になったルナから半ば無理やり生徒会の仕事を手伝わされた。力仕事ならともかく、書類整理は頭が痛くなる。
 空腹も相成ってごろりと寝転がりたくなるが、そうしようとするタイミングでオックスが『ブログが更新されたようだぞ』と声をかけて来た。
「ブログってアイちゃんのか!?」
『そうだ』
 ゴン太のブラザーの一人、滑田アイ。
 彼女は今も一流選手として活躍中の身だ。そんな彼女は練習や試合の傍ら、ブログを更新している。
 ブラザーであるゴン太は更新されればすぐに見に行き、コメントを書き込む。義理ではなく応援したい気持ちで書いてるからか、今では常連として歓迎されていた。
 疲れた体に喝を入れ、パソコンの電源を入れて件のブログを開いた。

『TITLE:教えるのも大変。

 こんにちはー! アイだよ~♪
 最近は天気良くないけど、私は元気だよ。
 私の方はそろそろ試合があるから調整始めてる所(学校はちゃんと行ってるよ!)。
 絶対に1位取るから応援してね!

 それから。
 後輩が出来ました。
 〇〇ちゃんと言います。

 コーチも伸びる子だって言ってるし、私も絶対に〇〇ちゃんは伸びると思うんだ!
 デビューの試合が決まったら、このブログでも教えるから、私と同じく応援してほしいな!

 それにしても、後輩を教えるのって大変。

 私だと出来る事が、相手には出来ない。逆に私が出来ない事を、相手は出来る。
 それは頭で理解してるんだけど、どうしてもついつい口をはさんじゃう。
 難しいなぁ。

 でも、私は〇〇ちゃんには絶対に上手くなって欲しい。
 その気持ちは本物なんだ。

 そしていつか2人で並んで表彰台に立ちたい。
 それが今の私の夢です。

 そのためにも、がんばるぞ~!』

「ふーん……」
 今日のブログは後輩が出来た事と、その後輩の指導で悩んでいる事についてだった。
 一見深刻そうな悩みだが、文章の真面目さとは裏腹に、合間合間に差し込まれている写真は二人仲良く笑っていて、その関係は良好だと窺わせた。
 普段ならすぐにコメントを書くゴン太だが、今回は更新されたブログのタイトルに目が行ってしまう。

『教えるのも大変』

 今、ゴン太はスバルから戦いのレクチャーを受けていた。
 スバル――ロックマンは常に世界の平和を守るために戦わないといけない。しかし、コダマタウンを放置するわけには行かない。故に、この町にいる電波人間を鍛えたい。
 最初スバルからそれを言われた時、あまりにもらしくないなと思った。しかし言ってる事は正論だったし、何よりもう大事な仲間に何かあって欲しくないから、ゴン太はそれに乗った。
 実際、彼はロックマンとして世界の平和を守るために、世界中を飛び回っている。世界中が彼を呼ぶ以上、コダマタウンに留まる事が出来ない。
 自分はコダマタウンを任されたのだ。だから強くならないといけない。
 たとえそれが厳しい訓練だとしても、自分はそれを受け入れて更に強くなる。それがロックマンのためになるのだ。
「スバルもきっと、おれを信じて鍛えてくれてるんだもんな」
 何故かは解らないけれど、今はそう信じられる。これもアイのブログを見たからかもしれない。
 ゴン太は再度ブログの記事をじっくりと読んで、コメントを書き始めた。

『TITLE:教えられる方も大変だぜ! NAME:オックス丼
 アイちゃん、こんにちは! 学校があるから試合は見に行けないけど、アイちゃんが1位になれるよう応援するぜ!

 後輩に何を教えればいいのか分からないらしいけど、まずアイちゃんはその後輩が好きなことと上手くなれるって信じてるのを話すのがいいと思うぜ。
 っていうのも、おれは教えられる方なんだけど、相手がおれを信じてきたえてくるんだなって分かるからなんだよな。
 だから、アイちゃんもまず後輩に、自分の気持ちを伝えようぜ!
 いつかいっしょに試合に出られるといいな!』

 ゴン太はその応援コメントを書き込むと、パソコンの電源を切った。

 

 最少院キザマロにとって、その日はいつもと変わらなかった。
 いつも通りに学校に行き、授業を受け、ルナの生徒会活動を手伝う。そして家に帰って、宿題を片付けて日課のストレッチを行う。
 そんな中、気分転換にTVを付けると、「またしてもロックマン大活躍! ヒーローはやはり強い!」というテロップと共に、ロックマンの活躍がニュースで話題にされていた。
『相変わらず凄い活躍だねぇ』
 人々が一様にロックマンを褒め称えるのをぼんやりと見ていると、ペディアが含みを持たせるような言い方で口をはさんできた。
「そりゃスバル君はロックマンですから」
『でもいいのかな。学校を休んでばかりで』
「いいんじゃないですか?」
『いいの?』
「僕たちはあーだこーだ言える立場じゃないですから」
『そうかなぁ』
「そうですよ」

「僕たちはただ、スバル君を応援してればいいんですから」

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