寂しい気持ち・9日目 - 1/2

 はらり。
 10枚目のカレンダーは、知らないうちに落ちた。

 剣が閃くたび、グールが消える。
「数が多い……!」
 ジャンゴは何回目だか分からない愚痴をつぶやいて、また剣を振った。

 グールの進行を止めるため、ジャンゴとおてんこさまはサン・ミゲルに急いでいたが、その数の多さに逆に足止めを喰らっていた。

 おてんこさまも太陽の光を召喚してグールを吹き散らすが、消滅するたびに土から生まれ来るグールに辟易していた。
「いったいどこからこんなに大量に……」
 おてんこさまの独り言は、グールの叫び声の中に消えた。

 サン・ミゲル。

 サバタの予言通り、町の中にもグールが現れ始めた。
 ザジが太陽結界の補強に走り回る中、リタたちは街に現れたグールを退治して回っていた。
「何でこんなにたくさん!?」
「そんな事俺が知るか!」
 サバタとコンビを組んでいたリタは、あまりの多さについ泣き言を漏らしそうになるが、慌てて首を振ってそれを追い出す。
 今はジャンゴがいないのだ。自分たちで何とかするしかない。
(私から、あの人を拒絶してしまった以上……!)
 敵陣に飛び込み、中心からグールを殲滅していく。今は、彼のことばかり考えて入られない。そのことが、逆にリタを安心させていた。

 剣を振るいながら、ジャンゴはおかしいなと思い始めた。
(普通、グールとかは日の光を拒むはずなのに)
 一応今の天気は曇りだが、グールが昼間から外にいるというのはおかしい。
(無理やり外に出させている?)

 一体ずつ片付けていきながら、リタはグールの動きに不振を感じていた。
(太陽結界と太陽樹さまがあるこの街に、どうして来たのかしら?)
 確かに結界はまだ不安定だし、太陽樹とて万能ではない。だが、下級のアンデッドがここに来るのは自殺行為に等しい。
(無理やりここに来させられてる?)

 まるで僕を

 まるで私を

(――会わせたくないみたいに)

 

 もう何百のグールを斬っただろうか。ジャンゴはそれすら分からなくなってきた。
 気が遠くなるほどの数を斬り、意識がふらふらしてくる。眼がかすみ、剣を握る手が震える。
(……嫌だ……)
 ここで死にたくない。
 ここでやられたくない。
(まだ、壁は壊しきれてない……)
 最後の答えの欠片。それを手に入れなければ、一生後悔する。
(……がんばれ…、後もう少し……)
 グールの数は減ってきているが、疲れは溜まる一方で、ダメージも馬鹿にはならなくなってきた。そんな時。

 きつい痛みが、ジャンゴを襲った。

「うぁぁぁっ!」
 長い戦いで、鎧もぼろぼろだったらしい。グールの一撃は鎧を砕き、わき腹をえぐっていた。傷は深くないが、無視できるほど浅くもなかった。
 流れる血が、ジャンゴの服や脚を赤く染めていく。
「ジャンゴ!」
 おてんこさまが太陽の光で、ジャンゴを攻撃したグールを灼く。最後のグールを何とか切り伏せたジャンゴは、がくりとひざをついた。
「傷の手当を……」
「大丈夫」
 おてんこさまの手を振り払い、ジャンゴはふらりと立ち上がる。大地の実と太陽の実をかじると、少しは身体が軽くなった。
「おい!」
「サン・ミゲルへ、行かなきゃ……!」
 簡単に止血して、ジャンゴは歩き始めた。

 今はただ、会いたい。
 あの娘に会いたい。

 サン・ミゲルまで、後もう少しだ。