予想よりも早く、ソロはチャンバー入りすると連絡があった。
『行くって連絡した方が良いかしら?』
ヨイリーはそう気を使ってくれたが、ミソラは断った。先に伝えたら、当日キャンセルする可能性がある。
仕事が多忙期でないのが助かった。ソロが来る日に合わせて休みを取り、その日は仕事用のデバイスを全て電源を切る事にした。
当日。
ミソラはソロがいるであろうチャンバーにやって来た。
「ソロ、いる?」
チャイムを鳴らし、来訪を告げる。少し間をおいて許可が出たので、ミソラはためらわずに中に入った。
「貴様……!?」
ソロがベッドから立ち上がる。当然だが、何も知らなかったようだ。
「元気そうだね」
にっこりと微笑むと、ソロの方は苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「何しに来た」
「顔を見に来たの」
「ならもう帰れ」
「それは嫌」
はっきりと言うと、ソロの顔はますます渋くなる。当たり前だと思うが、ミソラはさらに踏み込んだ。
「私は貴方の顔を見に来たの」
言外にそれ以上の感情を込めて言う。聡いソロなら、何かあるとすぐに察してくれると信じているからだ。
だからこそか、ソロの表情は変わらない。それどころか、その視線が更に厳しくなった。
「あれだけやられてまだ懲りてないのか」
……むしろあれだけ返されてもまだ信じないのか。
ミソラは内心苦笑いを浮かべた。
孤高のプライドなのかも知れないが、ここまでくると逆に馬鹿な気もする。さぞかし都合のいいことだけを信じていることだろう。
「何だかなぁ」
あえて口に出す。ソロの逆鱗に触れようとも構わない。そうすることでしか伝えられないなら、真正面からぶつかってやる。
「そこまで来ると、誇りと言うより埃だよ。意味なく張り合っちゃって」
キッと睨まれたが、それに負けることなくじっと見つめ返した。
「今の貴方は他人を信じるのを怖がって、むやみやたらに喧嘩を吹っ掛けてるようなもんだよ。そんなんじゃ、ソロの気持ちを理解してもらえるわけないじゃん」
「理解してもらうつもりはない」
「その主張だって、まともに受け入れてもらえないよ。勘違いに勘違いを重ねられて、余計にストレスを溜め込むだけ」
今の貴方のように。
そう言い切ると、ソロが少したじろいだ。
「あの時はごめん」
深々と頭を下げる。ソロはそれだけでいつの事だか察したらしく、ふんと鼻白んだ。
当たり前だが頭を下げた程度で許してもらえたわけではないだろう。そもそも、許してもらえるとは思っていないのだ。
「助けてもらっておいてお礼は言わないわ、スバル君の事ばかり言ってるわで……ホント最低だよね」
「全くだ」
一言で切り捨てられたが、それでもミソラは話を続ける。
「それでも、私は貴方を大事に思ってる。人として、愛してるよ」
ぴたり、とソロの動きが完全に止まった。
彼の事だから、手放しで喜ぶと言うことはないだろう。だが、切り捨てられるとは思いにくい。ソロはそういう男だ。
「……この間ね、スバル君からのプロポーズを断ったんだ」
黙り続けるソロの隣で、ぽつりぽつりとこの間のことを話す。
「ちょっと前だったら、素直に受け入れたと思う」
ソロはまだ黙り続けている。
よく観察すると、耳はぴくりと動いている。無視してるわけではなく、黙って聞いている証拠だった。
「でも、私は貴方の事が好きだって気づいてしまった。だから、断ったよ」
「……それで良かったのか」
ぼそりとソロが口を開く。
ミソラのつぶやきへの返事にして、根本的な問い。その問いに対しての明確な答えは、まだ持ち合わせていない。
スバルへの想い。ソロへの想い。積み重なって来た思い出の数々。自分の意思。恐らく自分が生きているうちに、答えは見いだせないのだろう。
それでも、ミソラはスバルを振ったことだけは間違っていないと思っている。あのまま何も考えずにスバルを選ぶのは、間違っているのだと。
だから。
「解らないよ。だからこれからもっと、貴方を知るし、貴方と向き合っていく」
当然のごとく脱がされ、ベッドに押し倒された。
「んふ……っ」
もう何度目か解らない、深い口づけ。それだけで、身体が熱くなる。
ソロが手慣れた手つきで服を脱がしていく間、ミソラはそんな彼を観察する。
――いつもの冷徹な眼差しの奥に、獣の炎を見た気がした。
「……!」
今まで見たことのない炎に、ミソラの身体が震えた。
ソロは本気だ。何を指してそう思うか解らないが、今までのセックスとは違うと瞬時に察した。
むき出しになった乳房を、優しく揉みしだかれた。
「は……ぁっ!」
心地よさと快楽が重なり、柔らかな声が漏れる。フェザータッチの愛撫は、気持ちいいが物足りなさもある。
もっと激しく……と思っていたら、かぷ、とソロがミソラの胸に軽くかじりついた。
ぺろぺろと乳首を舐められたかと思えば、軽い甘噛み。じゅる、と音を立てて吸われれば、ぴりりと甘い快楽が身体を走った。
「や、んっ! そ、ソロぉ……」
ミソラが喘ぐと、ソロがさらに動く。舌だけでなく、腕も動いてミソラの恥丘を撫でた。
「あんっ!」
さらに指も動き、秘部に指を突っ込まれる。そのような急いた動きが、逆にミソラの頭を冷やしていく。
(……焦ってる? 何に?)
よく解らない。セックスで何かを埋めようとしている、そんな気がした。
焦っている理由、埋めようとしている何か。それを知りたい。ソロの心は、まだ闇に閉ざされている。
そこまで考えた次の瞬間、指を動かされた。指を増やされて、ぐいぐいと中をかき回される。膣内をほじくられて、一瞬頭の中が真っ白になった。
「あああっ!」
「イイ声で鳴くな」
ソロがにやりと笑う。
ぐいぐいと動かされ、口から自然に喘ぎ声が漏れてしまう。違う、言いたいことはそんなのじゃないのに。
「そ、ソロぉ……ッ! 私……あはぁぁああっ!!」
とうとう達してしまう。
ぷしゅっと潮まで吹き出してしまい、ミソラは恥ずかしさのあまり手で顔を覆ってしまった。
「今更恥じらうか」
「は、恥ずかしいのは変わらないもん」
「そうか」
「ひぁぁあああっ!」
いきなり肉竿を入れられて、ミソラは大きくのけぞった。最奥は突かれなかったが、確実に弱いところを攻められる。Gスポット、ポルチオ、それらを一気に攻められて、ミソラの目が白くフラッシュする。
ずぷ、ずちゅ、という卑猥な水音。その音が鳴る度にミソラの奥がきゅんと疼き、更に快感を引き起こしていく。
シーツを強く握りしめ、快感に耐えた。
「は、ぅんっ、あぁっ、やぁん、っっ」
ぐっぐっと奥を刺激される。
激しいピストン運動に合わせて、こっちも腰を動かす。今までのとは違う、ただただ気持ちいだけのセックスに身体が震えた。
言いたいことはあれど、今はこの快楽に身を委ねたい。ソロが自分を愛してくれているのだ、と思いたい。
「淫乱め」
「あっ、や、やだっ、言わないでぇっ! はぅっ、あっ、あぁぁ!」
抗議の声を上げたくても、それらは全て快楽の喘ぎにすり替えられた。同じように、頭の中も白く染められていく。
早く、早く出して。自分もイキたい。至上の快楽を貪りたい。
「イくっ、イッちゃう! イッちゃうよぉぉぉ」
「イけ……!」
こっちの宣言に対して、ソロの動きがさらに激しくなる。接合部分から淫蜜と精液も溢れ、シーツを容赦なく濡らしていく。
そして。
「はぁぁあああぁあぁっっ!!」
一番勢いをつけて打ち付けられた瞬間、ミソラの中が完全に真っ白になった。
「ねえ、ソロ」
「……」
全てが終わった後、ミソラは気だるげに体を起こし、隣で寝るソロに声をかける。
「また、来てもいいかな?」
きわめて普通に聞けば、ソロがまた目を見開く。先ほどの会話で少し心が伝わった気がしたが、それでもまだ隔たりはあるようだ。
それも構わないと思う。自分とソロの関係はこれから始まったようなものなのだ。
扉は開いた。だから、自分は勇気を出して一歩踏み出すだけだ。