某月某日、深夜。
響ミソラは自宅のベッドの中で、明日の事を考えていた。
(明日、ソロに会う)
本人からではなく、ヨイリーから明日会えると連絡があった。というのも、今の彼は世界中から危険人物としてマークされているからだ。
自分は彼が危険だとは思っていないが、世間はそう思っていない。今も彼は、誰からも愛されていない。
(私は、どうなのかな)
世間は自分が星河スバルを愛していると信じている。そして自分も、そうだと信じていた。なのに。
秘密の入り口が、きゅんとうずく。
1年前に無理やり開けられてしまったそこは、今日まで誰一人の挿入を許していない。
そう、誰にもだ。
ミソラは1年前、特別チャンバーでの事を思い出していた。
――ソロは特別チャンバーにいるから、何か用事があるなら会いにいらっしゃい。
きっかけは、ヨイリーからのメールだった。
サテラポリスが用意した「隠れ家」に彼は今潜伏しているらしく、1日だけなら何とか都合を付けられると書いてあった。
そのメールを受け取ったミソラは、彼に会うことを決めた。深い理由はなく、ただ近況を聞いたり何かと助けてくれることに対してお礼を言おうと思ったのだ。
そして当日。ミソラはソロと再会した。
精悍さと鋭さが増した彼に気圧されそうになったが、怯むことなく挨拶して会話した。
彼には地雷なフレーズがたくさんあるので、会話内容も言葉も慎重だった。怒らせたくて話しかけたいのではなく、少しは仲良くなりたいから会話するのだ。
……それでも、彼にとっては気に入らない部分がたくさんあったらしい。
ミソラはいきなり手首をつかまれたかと思うと拘束され、裸にされて寝転がされたのだ。
「やめて! 何するつもりなの!?」
「罰だ」
ソロは淡々とそう告げ、間髪入れずにむき出しなミソラの乳房を揉み始めた。
「やっ! あんっ!」
無骨な手と鋭い眼差しからは想像できない、優しい愛撫。柔らかさや弾力を確かめるように揉まれたかと思うと、乳首をきゅうと摘ままれる。
「やだぁっ! やめっ、んっ!」
引きはがしたくても手首が縛られているので、足を動かすしかない。しかしソロはミソラの股間に触れるぐらいの距離まで近づいていた。
ここまで来ると、ソロが何をしたいのかが解る。しかしこんな無理やりは嫌すぎるので、何とか言葉で止めたかった。
「お願いやめ、あっ、ん!」
止めさせる言葉は、喘ぎ声に変えられてしまう。代わりにがたがたと腕や足が動くが、当然その程度で止まる相手ではない。
その代わりどうしてと問おうとしたら、先にソロの方が口を開いた。
「だったら心にもない事を言うな。星河スバルへの点数稼ぎか? それとも振られて乗り換えようと言う魂胆か? 尻軽女が!」
「え」
予想だにしていなかった言葉に、ミソラの思考が完全に混乱する。
ソロの方はもう聞く必要はないと判断したか、乳首を思いっきり吸われた。
「あぁぁあぁ!」
揉まれた時よりも強い快感が襲い、ミソラは大きく体をそらしてしまう。更に舌でいじられ、視界が一瞬白くなった。
愛撫一つに声が上がり、体がびくびくと動く。やめて、と言いたいのに、舌が思うように動かない。言っても止めてくれないのは解っているのだが。
……そう、止めてくれないのは解っていた。
ソロ本人が言うように、これは罰だ。
ミソラは、ずっとスバルへの想いを上手く処理できていなかった。
好きで好きでたまらないと想っていた恋心は、年を重ねるにつれ独占欲や依存、恋心が入り混じるドロドロとした闇へと変わっていた。
スバルと一緒の街に住んでいないだけでルナに嫉妬し、スバルに同棲を持ち掛けた。スバル以外の誰とも仲良くなりたくなかった。
そんな独占欲が自分からスバルを遠ざけることは解ってても、スバルだけを求めようとする心は止められなかった。
故に、スバルから「しばらく離れよう」と持ち掛けられた。
先日の事だった。
ソロが言っている罰とは、きっとこの事だろう。
自分の幼稚な心でスバルを縛り付け、誰にも渡さないと駄々をこね続ける罪を、ソロはこのような形で裁いている。
「愛していない」男からの凌辱という罰。
だとしたら、自分はこれを甘んじて受けなければならない。
「や……ん! ひぁぁっ! あふぅ……」
ソロの舌は乳首だけでなく、脇や首筋まで舐めてくる。耳に熱い息をかけられて、股間からどろどろと淫蜜がこぼれた。
こぼれたのは淫蜜だけではない。いつの間にか目尻に溜まっていた涙が一筋零れるが、ソロは少し目を向けた程度で何もしなかった。
つらい。
こうして無理やり肌を重ねているのもだが、心が通じ合っていないのがつらい。
「あぁぁーっ!」
悲しみのまま、初めての絶頂を味わわされた。
ソロの方は無表情のまま自分の方を見下ろしている。その目は相変わらず冷ややかで、何の感情も読み取れない。
「……ひどいよ……」
肩で息をしながら、必死になって言葉を紡ぐ。
届かないのは解っていても、それでも言いたかった。
「心にもないなんてない……。今日の私の言葉は、全部嘘偽りのない、本当の言葉だよ……」
会えて嬉しかったのも、生きててほっとしたのも、仲良くなりたいのも、全部心からの言葉。
それを嘘と断定される――心を通わせられないのが、悲しすぎた。
尻軽だと罵られてもいいから、それだけは信じてほしかった。だけど。
ソロの視線が、更に冷たくなった。
「……!」
殺意すら読み取れるその視線は、昔一度だけ見たことがあった。
ムー大陸をめぐって敵対していた時、スバルをかばってソロと戦った。その時のバイザー越しの彼の視線が、まさにこんな感じだったのだ。
信じてもらえていない。それどころか、更に彼の気に障ってしまった。深い絶望にうつむくが、足を動かされた瞬間に恐怖で顔を上げる。
淫蜜で濡れた秘部。そこに指が入れられた。
「やぁぁぁっ! な、何これぇっ!」
初めての挿入にミソラの体が恐怖で震える。しかし中でぐちゃぐちゃと動かされると、徐々に快感の方が強くなっていった。
「あ、んっ、あぁ、あぁぁっ!」
乳房への愛撫以上の快感が走り、体が大きく震える。腕も同じぐらいに震えているのだが、未だに拘束は解けない。
またイッちゃうのかな、とぼんやり考えていた時、ソロがごそごそと何かを取り出した。左手でミソラの膣内をいじり回し、右手で何か……自分のスターキャリアーを操作する。
「……星河スバルか?」
「ッ!?」
唐突なスバルの名前に、ミソラの意識が一気に覚醒する。
やめて、と再び言おうとしたが、指を動かされて嬌声に変えられた。その間もソロはスターキャリアーを操作して、スピーカーモードに切り替えた。
『いきなり電話してきて何? っていうか、今どこにいるんだよ? 誰かの声も聞こえるし……』
「何をしているかって? 貴様の女が愚かな事をしたから、罰を与えているだけだ」
『え?』
どうかスバルに気づかれませんように、と思いながら、必死に歯を食いしばって声を出すのをこらえていたが、ソロの次の言葉でその気力が一気に霧散してしまった。
「貴様の女、響ミソラを今から犯す」
ソロの一言に、電話の先のスバルも息を呑んだのが解った。
『ちょっと、それどういう事!? ミソラちゃんに何してるんだ!?』
「言葉通りの意味だ。今オレの指で鳴いてるぞ。気持ち良さそうにな」
「い、言わない、ふぁっ、でぇぇっ! あひぃっ!」
『ミソラちゃん! ソロ、何でそんな事を!』
「さっき言ったはずだ。罰を与えるためだ」
「あんっっ! や、やだぁぁあっ! やめてぇぇぇっ!!」
スバルの悲鳴に近い叫びが聞こえるが、ソロは正反対に冷徹な声で答える。
「貴様が手綱を握らないから、この女はオレにすり寄って来た。『会えて嬉しい』、『生きてて良かった』、『仲良くなりたい』、そんな歯の浮く噓を並べ立ててな」
『え? 待って、それは』
「安心しろ、孕ませはしない。その代わり、処女は頂くがな」
『……ソロ……』
「せいぜい終わった後に慰めてやることだ」
「ああぁぁっ!!」
言いたい事だけ言って、ソロは電話を切る。用が終わったスターキャリアーを適当に放り投げ、ひくひくと震えて勃起している淫核を摘まんだ。
絶頂しそうなほどの快感を受けつつ、ミソラは先ほどの会話を思い出していた。
スバルは、どう思ったのだろう。
ソロの言葉を全部信じたのだろうか。自分が離れたことで別の男に腰を振るような、軽い女と軽蔑しただろうか。
――自分の言った言葉が嘘じゃないと、信じているだろうか。
ソロは信じてくれなかった。だがスバルは信じてほしかった。
彼の所に赴いたのは自分の意思であって、スバルは全く関係ないという事を。
「やぁぁぁああああんっっ!!」
絶頂。
快楽と絶望で涙が止まらないが、ソロはちょっと見た程度で自分の肉竿にゴムを付けた。
(あれが……入るんだ……)
なるべく痛くしてほしくないが、今の彼は聞いてくれないだろう。ミソラは固く目を閉じる。
次の瞬間、股間に強烈な痛みが迸った。
「いッッッ!」
ぎちぎちと無理やり入り込もうとする音と、繋がった部分から流れ出る赤い血。間違いなく、ミソラの処女が奪われた証だった。
「ぐっ……」
ソロの方も少しつらいのか、荒い息と踏ん張るような声が漏れる。目を開けると、ソロは苦しそうな顔をしていた。
どうにかしてあげたいが、痛みと両腕の拘束がそれを許してくれない。
「ソロぉ……早く……ぅっ」
「解っ……た……」
毒舌を吐く余裕もないようだが、それでも挿入スピードを上げてくれた。そのおかげで、少しずつ痛みの代わりに快感が出始めた。
そして我慢の果て、ようやく全部がミソラの中に納まった。
痛みの方はまだ続いているが、快感もあるので最初の頃より大分マシになっている。
お互いの視線が、絡み合ったような気がした。
「……動いていいよ……」
かすれた声で許可すると、ソロは熱い息を吐きながら少しずつ動き始めた。
「あ……あっ……はぁぁ……んっ!」
中のモノがずりずりと動くたびに、膣内が刺激される。痛みと快感、相反する感覚に涙と嬌声がこぼれた。
痛い。けど、気持ちいい。悲しい。けど、ちょっとむず痒い。
罰を受けているはずなのに、悦んでいた。
「あぁぁ、はぁん……あっ、あああ……!」
ソロが奥を突くスピードを徐々に早めていく。顔を見ると、そこにはさっきまでの冷徹さは無かった。
ただ、必死さと愛おしさがあった。
「い……くっ! イッ…ちゃう……ッッ!!」
「ミソラ……イけ……ッ!!」
快感が痛みを上回った瞬間、子宮まで届きそうな衝撃と体の奥から何かが激しくはじけた。
「あぁぁぁー-----っっ!!」
全てが終わって家に帰れたのは夜だった。
まだ鈍い痛みを引きずりつつも、ミソラはスバルに電話をかける。
『ミソラちゃん! 大丈夫!?』
「うん。あの後もう一回やったくらい。そこまでひどい事はされなかったもの」
『……そう』
「スバル君……、ソロを憎まないよね?」
『え?』
「私も結局気持ち良かったし、怒らせたのは違いないから。私はソロを憎まない」
『そう……。ミソラちゃんは優しいね』
「そうでもないよ。私、ひどい女だよ。スバル君も苦しめてるんだし」
『……』
「……ねえ、スバル君」
『何?』
「私、それほど傷ついてないからね」
『うん』
「慰めるから付き合おうとか、セックスしようとか、言わないでね」
『うん……。でも辛いなら、僕たちに言ってよ? 心配するからさ』
「うん。ありがとう」
あれから一年。
スバルとはうまく距離を保ちながら、親友のままで付き合い続けている。
あの「罰」が一種のショック療法になったのか、今はもう彼を独り占めしたいという激しい独占欲はない。互いの夢を応援しつつ、信頼し合えるようになった。
体の関係にはならなかった。
結局あの後スバルは自分に手を出すことはなかったし、ミソラもスバルを雄として求めることはなかった。
当然他の男と付き合う事もないので、ミソラにとってセックスはあの一回のみだ。
(明日会ったら、ソロは私の事をどう思うのかな)
一応会うことは告げているが、彼からの返事はない。いつもの事ではあるが、今回は特に反応が知りたかった。
懲りずにまた嘘をつきに来たかと怒るだろうか。でも何度も必死に訴えれば、あるいは。
また秘密の入り口が、きゅんとうずく。
抱かれることも期待してるのかな、とぼんやりと思いながら、ミソラは眠りについた。