救い

 この血がある限り、幸せや救いとは無縁だと思っていた。
 孤高こそ誇りと信じ、一人である事こそ強いと信じていた。
 自分の心のどこかでは誰かを求めているとしても、それは決して手に入らないと。
 焦燥も憧憬も閉じ込めてもなお、最後に残ってしまったのは、結局――。

 

 まさかとは思っていたが、本当にこうなるとは思っていなかった。
 それが現地に着いたソロのストレートな気持ちだった。
 冷やりとした満月が照らすのは、朽ち果てた古の聖堂。
 誰もいないそこに連れられて、戯れに渡したペンダントを見せられた時、彼女の覚悟が見えた。見えてしまった。
 渡された衣装は黒に染められた誓いのそれ。
 決して何にも染まらない、染められることのない色の衣装に袖を通せば、同じ色の衣装に身を包んだミソラはふんわりとほほ笑んだ。

 ――お互い、覚悟決めよう?
 ――……そうだな。

 誓いの言葉は、たったそれだけ。
 そして言葉の代わりに手を握り合えば、互いの覚悟と誓いは伝わりあった。
 繋がった手から通じるのは、ミソラの想い。
 だからこそ。
 誓いの口づけが深く、獣のようになったのは必然だったのかもしれない。

「ん、ふ……っ、ちゅ、る……」
「……ふ……ぁ、ちゅ」
 舌を絡め、唾をすすりあう。
 じゅるり、と舌を動かせば、さらに相手が乗ってきて舌を絡めてくる。
「ちゅく、ちゅっ」
「……んっ、ミソラ……っ」
 熱が上がっていくにつれ、息苦しさも来る。
 そっと離れれば、名残惜しそうに唾が糸を引いた。
「ソロ……」
 ぱさり、とミソラがウェディングドレスを脱ぐと、妖艶な肢体が月の光に照らされた。
 ウェディングドレスと同じ黒い下着は、柔らかな尻と乳房を覆うものがなく、男を誘うためのそれだと解る。思わずごくりと生唾を飲み込んでしまった。
「随分と準備万端だな」
「そりゃあ、ね。どうせ汚れるもん」
 これくらいしないと。
 ミソラはそう言って、ソロの手を自分の乳房に当てる。
「は……♥」
 もう何度も揉んだ柔らかな乳房。今夜は一段と柔らかさと淫靡さを感じるのは、下着のせいか。
 揉みたくなるのをこらえて、あえてその手を引きはがすと、ミソラは「じゃあ、こっち?」とソロのスラックスを下着ごと一気にずり下した。
 半勃ちした肉竿がミソラの前に現れる。こっちの意思を無視してびくびくと震えるそれに、ミソラは誓うように静かに口づけた。
 れろ、とゆっくりと舐められて体がぶるっと震えた。
「えへへ」
 亀頭、竿部分、玉部分。全ての部位を舌で撫でるように舐めていき、最終的にはもう一度先端に口づける。ミソラの丁寧な舌使いに、ソロの息が少しづつ上がっていく。
「うっ……!」
「えへへ♥」
 再度ミソラが笑うが、それは雄を誘う雌の笑み。
 すっかりいきり立った肉竿を乳房で挟もうとするミソラだが、それはソロが止めた。
「そこまでだ。四つん這いになれ」
「え? もうっ」
 ソロがそう命じると、ミソラは一瞬膨れっ面になるものの、素直に体を翻そうとする。……が、地面の砂利に体を痛めたか、少し顔をゆがめた。
「……ああ、なるほどな」
 手近な所に置いておいたスターキャリアーを操作し、透明なマットのマテリアルウェーブを出す。
「ちょっとムードがなくなっちゃったね」
「無駄に傷を増やすよりマシだと思え」
「もう……」
 再び膨れっ面になるミソラだが、いきり立った肉竿を見ておとなしく四つん這いになる。
 ドレスを脱いで口淫した影響だろう。塗れてぐしょぐしょになった下着が露になった。肉竿を誘う匂いだが、ソロは鉄の意思でそれに逆らった。
 舐めやがって、と心の中で呟き、グローブを外す。

 つぶりゅっ

「あぁぁんっ!♥」
 ミソラの下着を引っ張って秘部をさらし、二本の指を入れた。
 指でわざと膣壁をこするように動かしては、気まぐれに抜いては挿す。とんとん、と軽く突っついて中の感触を楽しんだ。
「あっ、やぁっ♥ はぁぁっ! ふぁぁ……♥」
 空いた左手で下着をまた強く引っ張り、立ち上がっている陰核も刺激すれば、ミソラの体が大きく跳ねた。
 さらに刺激すると、とろとろな秘部がさらに蜜であふれ、ソロの指を濡らしていく。
「い、イくぅぅぅ! んん~~~ッ!♥」
 体が大きく震えたのち、ぴたりと止まるミソラ。どうやら、達したようだ。
 ふらりと倒れそうになるのを、腕をつかんで止める。ミソラは達したが、自分はまだなのだ。
「あ……」
 入口につけた肉竿は、ミソラが舌で愛撫した時そのままだ。つまり、何もつけていない。
 普段ソロはセックスする際、必ずゴムをつける。ミソラに余計な迷惑をかけたくなかったし、何よりソロ自身が子供を望んでいなかった。
 だが今は何もつけていない。……つまり、妊娠させるかもしれない。
 ミソラもそれに気づいたらしく、体をひねってこっちを見てくる。その目は「大丈夫?」と不安からの問いに満ちている。

「チャンスは一度だけだ」

「!」
 しかし今夜だけは何もつけず、生のまま最後まですると決めていた。自分が子供を望まないのと同じくらい、ミソラが自分との子供を望んでいるのを知っているから。
 これで子供ができなければそれでよし。もし子供ができたとしても、それを受け入れようと決めた。それもまた、覚悟だ。
「行くぞ」
「あっ、あぁっ、あぁぁぁーーっ!♥」
 下着とミソラの膣壁。二つの力で締め付けてくるのがたまらない。半ば我を忘れて、ミソラの膣内を貪った。
 ぱじゅっ、どちゅっと卑猥な水音が鳴るたびに、ミソラが甲高い声で鳴く。
 廃墟とは言え聖堂、しかも花嫁をこうして穢す行為。愛している女とはいえ、背徳感はソロの気を高ぶらせるには十分だった。
「いい感じに締まってるぞ。興奮したか」
「あんっ! したよおぉっ♥ ふぁぁっ、ソロの咥えてぇっ、気持ちよくなってるよぉぉぉっ!」
「なら出してやる。後悔するなよ……!」
「い、いいよぉぉっ! ソロのあついのほしいぃぃ!♥」
「ふん……ッ!」

 ずちゅぅぅぅぅっ!

「あ、あぁっ、あぁぁんっ! はああぁぁぁっっ!!♥」
 自分のモノがミソラの子宮に届いたのを、ソロは感じた。ここに己の欲望をぶちまければ、ミソラは妊娠するかもしれない。
 心のどこかでアラームが鳴り響く。己の誇り、自身に流れる血、彼女の未来。全てを失ってもいいのか、と過去の自分が叫ぶ。
 それでも構わない。今こうしてミソラと深く繋がり合えるのなら、何もかも捨てても良かった。たとえ明日暴徒にその身を裂かれたとしても、それはそれで構わないとも。

 今はただ、ミソラの全てが欲しい。

「イけ! 受け止めろ!」
「はぁぁああああぁぁーーーーーッ!!♥♥」
 ミソラが達した瞬間、ソロも達して子宮の中に欲望を吐き出す。出し切ってから、ずるりと引き抜いた。
「あ……ああ……」
 ぐったりと倒れそうになるミソラを引っ張って、自分の腕の中に収める。潤んだまなざしと火照った体は、まだ足りないと暗に訴えかけていた。
「ソロ、あのさ……」
 荒い息を整えていると、ミソラが口を開いた。

「ちゃんと、手に入ったね」

 ミソラの言うことが解らず、ソロは首をかしげる。
「……? どういうことだ?」
「覚えてないの?」
「……ああ」
 ミソラからの問いに素直にうなずくと、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「もう一年ぐらい前かな。バーでお酒飲んで、ソロ言ってたんだよ。『オレは何も手に入らない。全部奪われる』って」
「……!」
 ああ。
 思い出した。
 思い出してしまった。

 ――オレは何も手に入らない! 望んでも何も手に入らない! 全て奪われるんだ!

 初めて一線を越えたあの夜。
 ミソラと飲んでいた時、彼女の愚痴にイライラしてそう言ってしまったことがある。
 あの時は、ミソラの愚痴がただの言い訳にしか聞こえなかった。星河スバルが別の女を選んだとしても、彼女は諦めることはないだろうと思っていた。
 自分にとって響ミソラもまた、「欲しいものを手に入れられる人間」だった。愛も幸福も友人も、彼女には用意されているのだろうと。
 だからこそ、ベッドに誘ってきた時も警戒した。目の前の餌に食いついたら釣りあげられる魚には、なりたくなかった。
 しかし、彼女は。

「手に入ったね」
 何が、とは言わない。
 確かに今、こうして契りを交わすという形でミソラを手に入れた。
 彼女は奪われない。自らの意思で自分を捨てない限り、自分の手の中にあり続けてくれる。
「私も手に入ったよ」
 互いに求め合い、やっと手に入った大事な物。相手への愛。
 しばらく二人はそのまま動かない。今は熱よりも優しいぬくもりが欲しい。やっと互いの気持ちが伝わったのだから。

 やがて、ぬくもりよりも熱が欲しくなる。
 いつしか二人はまた深く口づけ合い、互いの舌を絡めていく。体をひねらざるを得ないミソラはやや苦しそうだが、ソロはお構いなしに舌でもてあそんだ。
「ちゅ、く、えろ、んふぅぅ……」
「ふぅ……む……」
 二度目の熱はすぐに来た。
 唇を離すと、ミソラは少しうつむき、自身のお腹――子宮のあたりを撫でてぽつりとつぶやく。
「お願い。私のここ、ソロでいっぱいにして」
 あの人を吹っ切るためにも。
 言外に込めた願いを、敏感に察する。本当の意味で星河スバルを吹っ切らないと、またいつか己の浅ましさから求めてしまう。
 初恋を昇華させるために。ソロの心を救うために。自分の大事な場所を明け渡す。
 それに対する返事は、一つしかなかった。
「いいだろう」

 透明マットの上に、ミソラを仰向けに寝かせる。
「下着は?」
「好きにして」
 破くのもやぶさかではないが、ソロは丁寧に彼女の下着を脱がしていく。自身もジャケットやシャツを脱ぎ捨て、お互い生まれたままの姿になった。
「は……♥」
 脱がされただけでも感じているらしいミソラ。既に体は出来上がりかけている。あとは飛び切りの快楽を味わわせるだけだ。

 ぢゅうううううううう!!

「はあ゛ぁっ!!♥」
 限界まで立ちびくびくと震えていた乳首を勢いよく吸っただけで、ミソラが軽く達した。
 ついでとばかりに空いている乳首をやや強く指でつまめば、彼女の股間からぴゅうっと潮が吹き出る。
「そ、ソロ、ずるいよぉ。おかしくなるぅぅ……♥」
「なれ。もっとオレを悦ばせろ」
「バカぁ……あ、あんっ♥ もっとぉ……」
 今までずっとお預けを食らっていた乳首への快感に、ミソラがよがり狂う。これ見よがしに見せつけてきていた乳房に触れなかったのは、この時のためだ。
 思惑通りミソラは体をくねらせて、さらにソロに乳房を押し付ける。ずっとお預けを食らっていたのはソロも同じなので、ここぞとばかりにその柔らかさを堪能する。
 弾力もあるその乳房を揉めば揉むほど、ミソラの喘ぎ声が蕩けていく。
「あはぁ、あっ、ふぁあっ♥」
 半開きの口から舌がちょろちょろとはみ出る。その舌先を舌で拾い、また深いキスを交わした。
 今度は真正面から体を押し付け合い、自身の胸板とミソラの柔らかな乳房をくっつける。ぴりぴりとした快感が、ソロの体を駆け巡った。
 くちゅ、とミソラの股間が鳴った。
 口を離し、深呼吸を一つ。蜜であふれた股間に顔をうずめ、ぢゅると軽く吸った。
「あ゛ぁぁんっ!♥」
 また軽く達するミソラ。潮こそ吹かなかったが、代わりにあふれる蜜の量が増えた。
 ふーっと息を吹きかければ、びくびくと大きく震える。
「あぅぅ♥」
「息をかけただけでこれか」
「やぁ……ん♥ き、気持ちいいんだもん……んっ」
「そうか」
「んん……っ! そ、そこ、いぢめないでぇ……っ♥」
 今度は陰核を軽く吸うと、ミソラの体はさらに妖しくよがる。
 淫靡な動きにソロの肉竿がどんどん起き上がっていくが、まだ足りない。指を入れても良かったが、それよりも直接感じたかった。
 竿の部分を秘部につけ、さっと滑らせた。

 じゅぷぷっ!

「く……っ!」
「はああぁぁっ!」
 直接的な快感。ソロの肉竿から先走り汁があふれて、ミソラの腹に降りかかった。
 白濁の汁が腹の上にかかってるのを見た瞬間、ソロは今まで以上にぞわりと泡立つのを感じた。

 今ここにいるのは、自分だけの女だ。
 自分は響ミソラという女を、手に入れたのだ。

「ミソラぁぁっ!」
 もう何も考えたくなかった。
 完全にそそり立った肉竿を、一気に膣内に押し込む。突然の挿入に、ミソラは声もなく大きく体をびくつかせた。
 ああ、もうだめだ。
 誇りも自分の血も、彼女の事情も関係ない。愛してる。世界中の誰よりも、ミソラを愛してる。
「そ、ソロっ! ちょ、あんっ♥ は、激し、ふああぁぁぁっ! 激しすぎぃぃぃっっ!♥」
「知るかっ! 言え! お前の気持ちを言え!!」

 ぱんっ!

「あはあ゛あ゛あぁぁんっ!♥」
 力強く腰を打ち付け、膣内を激しくえぐる。ソロの動きに対して優しく包み込もうとする膣壁に、目の前が一瞬白くなった。
「……す……んふぅっ!」
「どうなんだっ!」
 ソロは切羽詰まったような声で答えを求める。聞きたい。ミソラの口からはっきりと聞きたい。
 そして。

「好きっ! 大好きぃっ!! 愛してるよぉぉっ!!」
 やっとミソラが、それを口に出した。

「そうか、ご褒美だ! 出してやる! お前の中に全部出してやる!!」
「い、いいよぉぉっ! 来てぇぇっ!♥ 全部全部出してぇぇぇっ!!♥ ああああぁぁぁぁっっ♥」
 高まる快感。溶け合う体。繋がり合っているという実感。
 互いの愛を確かめ合ったという気持ちが、二人の思考をはるか彼方に連れて行こうとしていた。
「イくっ! イッちゃう!♥」
「ミソラっ! ミソラぁぁっ!」
「ああああぁぁあああーーーーーーーッッ!!♥♥」
 最奥を突いた瞬間、我慢できなくなった欲望が再度ミソラの子宮の中を満たしていく。
 その反動で彼女も達したようで、体を大きくしならせて最大級の快感に耐える。ソロも彼女の腰をつかんで、絶頂に意識を奪われないように耐え続けた。

 肉竿を抜くと、こぽりと名残惜しそうに吐き出したモノが流れる。溢れるほど出したという現実に、ソロは内心呆れてしまった。
「はぁ……はぁ……っ」
「ふ、ぅ……」
 さすがにもう続けるだけの気力はない。普段ならさっさと服を着るのだが、今回はミソラの息が落ち着くまで待った。
「ソロ……きゃっ」
 ミソラが呼びかけてきたので、さっと手を引いて起こす。そのまま引き寄せてそっと抱きしめた。
「?」
 不思議そうな顔になる彼女の耳元で、「一度しか言わない」と断ってから覚悟を決めて呟いた。

「愛してる。ミソラ」

「―――!」
 ミソラが息をのむのが解った。慌てて体を離し、ソロの顔をまっすぐ見る。
 その目は先ほどまで快感に酔いしれていたものではなく、いつもの明るく輝いたそれだった。
「ね、ねえ、もう一度言って! ちゃんと私の顔を見て!」
「嫌だ」
「『嫌だ』じゃないよ~! そういうのは顔を見て言うんだよ!」
「絶対に嫌だ」
「も~!!」
 ついさっきまで快感で蕩けていたとは思えない、不機嫌そうな膨れっ面。今はそれすらも愛おしいと思ってしまう。
 救われた、と思った瞬間だった。

 この血がある限り、幸せや救いとは無縁だと思っていた。
 孤高こそ誇りと信じ、一人である事こそ強いと信じていた。
 自分の心のどこかでは誰かを求めているとしても、それは決して手に入らないと。

 でも、それでも。
 愛する女は自分から寄り添ってきてくれた。
 抱きしめて、そばにいるよと囁いてくれた。
 そのぬくもりを覚えている限り、自分の血も誇りも救われたのだ。

 

 一組の男女が、誓いの口づけを交わしたのを見ていたのは、月だけだった。