合間に聞かせて

 数カ月前、ミソラはソロに抱かれた。

 ――いい加減、覚悟を決めろ。奴を奪うか、別の男に逃げるか。

 逃げる、の意味がいまいち解らなかったが、前者……スバルを奪うということを選べなかったミソラは、そのままソロと一線を越えた。
 犯されているとは、微塵も思わなかった。
 ナイフのように鋭い赤い目と、暗い中でもはっきりと見える白い髪、そして浅黒い肌を縦横無尽に走る傷跡に、目を奪われ続けた。
 乳房や腹、尻をじっくりと愛撫され、秘部に指を入れられ、気づけばぐちゅ、と肉竿をつけられた。

 いいよ、来て。
 覚悟できてるから。

 そう言って、ミソラは初めてをソロに捧げた。
 破瓜の痛みは予想以上にもので、歯を食いしばって耐えていると、ソロがそっと頭を撫でてくれた。
 優しい時もあることを思い出していた時、ソロが耳元でぼそりと呟いた。

 ――ミソラ、耐えろ。

 それは。
 初めて彼の口から聞いた自分の名前だった。

 その時ミソラは、心から嬉しさで泣きたくなった。
 ソロはずっと自分の事を名前で呼ぶことはなかった。スバルに縋りつく自分は、ただのスバルのおまけとしか認識してなかったのだろう。
 そんな彼が、やっと名前を呼んでくれた。自分を認めてくれた。これが嬉しくなくて何というのか。
 もっと呼んでとせがめば、やや不思議そうな顔をしつつもソロは何度も名前を呼んでくれた。
 多分、初めての絶頂よりも嬉しかった。
 それが、数カ月前の事。

 そして今。
 ミソラはまたソロに抱かれていた。
 わざわざ知人の少ないであろう海外まで行き、これまたわざわざ高いホテルを取り、部屋に入ってカギをかけた瞬間に求め合った。
 服を脱ぐのももどかしく、半脱ぎのままで一回。それからは熱に浮かされるまま、ベッドの上で、風呂場で繋がった。
「ああぁぁぁっ! ぅあああぁぁぁーーっ!!♥」
「ぅく……ッ!」
 子宮まで届く一発に、何度目か解らない最大級の喘ぎ声をあげる。
 絶頂と同時に力が抜ける。ほとんど休みなしでセックス漬けだったため、体力の限界が来た。
 ソロはまだ限界ではないようで、息こそ荒いが歩き回る余裕はあるようだ。冷蔵庫から水のペットボトルを二本出し、一本は自分が飲み、残り一本はごとりとサイドテーブルに置いた。
「寝るなら好きにしろ」
「ううん、そこまでじゃない」
 ソロが出してくれたペットボトルに手を伸ばし、一口飲んだ。冷えた水はのどを潤すと同時に、火照った体と頭を冷やしていく。
 体を起こしてペットボトルをあおる。一糸まとわぬ姿だが、今ここにいるのは自分とソロだけだから気にしない。
 ……しかしソロの方は考えが違ったようだ。
「ね……あ、んんっ……」
 問おうとした口から、また喘ぎ声が漏れる。いつしか後ろにいたソロが、抱きすくめたかと思うと指で乳首をいじり始めたのだ。
「ま、待って……ぇ、あんっ♥ や、め、ん……!」
「誘ってきたから応じただけだ」
「さ、は、誘って、あぁっ、ないよ……ぉっ、はぁっ」
 少し強く引っ張られたので、体を大きくそらしてしまう。手に持っていたペットボトルが滑り落ち、ミソラの胸元に水をまき散らした。
 完全に中身が零れる前にソロがそれを手に取り、さくっとサイドテーブルに置く。もうこうなっては、止めさせることはほぼ不可能だろう。
 くたりとソロにその身を預け、彼が引き出していく快感に身をゆだねた。

「あ、ひぁぁぁあっ、んん~っ!♥」
「ここが弱いか」

 ソロの声が聞こえる。
 疲れてるはずなのに、全然疲れてなさそうな、いつも通りの冷静な声。
 だからこそ、不安になる。

「あっ……はぁぁ……んっ♥」
「欲しいか?」
「そ、その言い方ずるいぃぃ……やぁ、んっ、は……ぁっ」

 貴方は、私の事をどう思ってるの?
 私のアプローチをどう思ってるの?
 知りたい。

「ソロぉ……」
「……ふん」
「んっ、ちゅ、んん、ふぅっ」

 気づけば膨れ上がっていた想いに、ただ戸惑った日もあった。悩んだ日もあった。
 でも今は、ひたすら愛おしい。
 この青年の全てを、愛してしまった。
 だからこそ、気になってしまう。

「大したものだな。二回目でここまでか」
「い、言わないでよぉ。ソロがえっちなだけだって……」
「そうか」
「あッッ!!♥」

 彼はなぜ、自分を抱くのだろうか。
 彼はなぜ、今になって自分の誘いに乗ってくれたのだろうか。

「欲しいか?」

 聞きたい。
 聞かせて。

「……ミソラ、イイか?」

 私の名前と、私への……。

「ねえ……、同情じゃ……ないんだよね……?」
「……当たり前だ」

 やっと聞けた。
 やっと教えてくれた。
 その喜びが、ミソラの心を震わせた。
 体の方も嬉しさで大きく反応し、膣内のモノをきゅうきゅうと締め付ける。
「はぁっ、う、嬉しい、あっ♥ 嬉しいよぉっ♥」
「そ、そうか……っ。ミソラ、動かすぞ……!」
「いいよ、来てぇ……っ♥」
 ソロに抱き着き、さらに感度を上げる。その姿勢からくる奥の奥までえぐる強烈な快感が、ミソラを狂わせた。
 もう理性はいらない。ただの雌として、目の前の愛する男を貪りつくすだけだ。そしてそれはソロも同じく、雄として熱く激しく腰を動かしてきた。
 卑猥で濡れた水音、尻肉と腰がぶつかり合う音、ベッドがきしむ音。それら全てが、彼女たちを快感に狂わせた。
「そろそろイく……か?」
「いっ、イくっ!♥ もうイッちゃうぅぅぅっっ!」
「オレも、だ……ッ!」
 今までで一番の絶頂が来る。いつしか二人はそう察していた。ソロは少し苦しそうに歯を食いしばり、ミソラはすぐに来るであろう一番の快楽に身構えた。
(好き……! 愛してる……ッ!)
 快楽で白く染まる瞬間、頭の中に浮かんでいたのはそれだけだった。
「ああああぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!♥♥」

 朝起きた時、もうソロはいなかった。
 既にチェックアウトしたのか、荷物らしいものは全部なくなっていた。彼らしいといえば彼らしいが、やはり寂しくなる。
「もうっ」
 思わず膨れっ面になってしまうのが解る。せめて自分が起きるまではいて欲しかった。そうすれば、もっといろいろ話ができたはずなのに。
 それでも。
 一番聞きたかったことはちゃんと聞けた。

 ――当たり前だ

 ああ答えたということは、自分への気持ちはあるということだ。
 ストイックな彼が、性欲処理のためだけに女を抱くことはそうそうない。自分を抱くということは……そういう事のはずだ。
 後はどうやって自分の思いを伝えるか。
 一番難しい問題に対し、ミソラはくすりと笑ってしまった。