METEOS・68

 GEOLYTEたちがビュウブームたち直接攻撃班と合流したのは、帰還ルートの途中だった。
「だ、大丈夫なのだ!?」
「ああ、足はちゃんとついてるぜ」
「そっちも大丈夫そうね」
「おかげさまでな」
「GEOLYTE、立ち止まってる暇はありません。急ぎ脱出を」
 再会の喜びは、ルミオスの言葉でいったん打ち切られた。正論すぎる正論なので、誰も文句は言わずに歩き始めた。

 

 そして。
 全員が無事に脱出できた次の瞬間、メテオスに変化が起きた。

 

 スマート爆弾で大きくえぐられたアベルのメテオスが光り始め、それに付き従っていたメテオやヒトガタも徐々に光り出す。
 光り輝く眷属たちは、同じように光り輝く親――メテオスに集まり始めた。一つになっているのではなく、群れとして集まっているのだ。
 やがて、かなりの量の眷属たちがメテオスの元に集う。それら全てが光り輝いており、もはや元がどのようなモノだったか判別すらできなくなっていた。
 そんな光そのものを従えたメテオスは、突然戦場の外へと飛び出していった。当然、光る眷属たちも一緒にだ。
「お、おい、飛んで行ったメテオスはどこへ行った!? センサーで捉えろ!」
「駄目です! 早すぎて捕捉不可能!」
「何てことだ……」
 飛び出していったメテオスは、どの艦も追跡することができなかった。かろうじて分析できたのは、「あのメテオスは既に外宇宙に行った」事だけ。
 恐怖と災厄を振りまき続けていたあの星は、あっという間に光となって、眷属を連れてどこかに消えてしまった。まるで、ここにはもう用はないと言うように。
 ……もしかしたら、本当に用はないのかも知れない。あの星は、既に災厄の惑星ではなかった。
 一つの大きな星を中心にして、無数の小さな星が集まる。そしてその星の群れは、ここではないどこかへと飛んでいった。

「銀河が……旅立っていく」
 誰かがそう呟いた。

 誰もが呆然とそれを見送っていたが、地鳴りよりも低い轟音で現実に戻る。
 メテオスは、まだ二つ残っている。これらを破壊しない限り、ジオライト星、ひいては宇宙に未来はないのだ。

 

 外では大きな事が起きているが、館内にいる以上それを見る事はできない。そのため、レグたちはアベルのメテオスが変化していく中でも作業を続けていた。
「おーい! 新しいの持ってきたぞー!」
「よし来た! そいつぁあっちの方に置いてくれ!」
 倉庫にあるメテオがどんどん運び出され、レグが考える「ある物」と合成される。元となったヒトガタは、既に形を留めていなかった。
「フォルテ、右はあとどのくらいいる?」
 レグは、自分の足元でひたすら端末を叩いているフォルテに聞く。呼びかけられたフォルテは、いったん端末からレグへと視線を移した。
「そうですねぇ……、安く見積もっても、100はいるかと」
「多いな……」
「サイズがサイズですから、メテオもたくさん必要になるんです。幸い、うちが持ってるメテオで何とかなる数ですけど」
 当然のことだが、作る物が大きければ大きいほど、必要になるメテオの量も多くなる。
 おまけに質量もかなりのものになるので、指定されたサイズを超える物を合成する場合、戦艦の外で合成することが多い。
 今作っている「ある物」は、戦艦内で作れる最大級の物だ。メテオスに気づかれずに作りたいため、外で合成するわけにはいかないのだ。
「人手も足りないですよね」
「……それは言うな」
 メテオの量が半端ないので、普段は食堂や医務室にいるはずのアネッセやレザリーも合成に手を貸している。最も、アネッセの場合は食堂にいてもやる事がないのだが。
 自由に動けるクルー総出で作業しているものの、やはり人手は足りない。中にはヴォルドンやニコなど、作業に向いていないのもいるのだ。
 もう少し人手が欲しいと言うか? それともこのままこの人数で粘るか?
 レグが考え始めた時。
『ブリッジです。そちらは大丈夫ですか?』
 タイミング良くと言うか何と言うか。
 グランネストが、こっちに回線を繋げてきた。人手のことはいったん置いておいて、レグはグランネストの通信に応じる。
「こっちは大丈夫だ。何とか間に合わせる」
『無理はしないで下さいね。今、他の艦からサポートを手配しましたので』
 正に渡りに船。レグは手を叩いて、「待ってるぜ」と答えた。
「おーし、気合入れろぉ! 急がねーと間に合わねーぞ!!」
 レグが声をかけると、あちこちからそれなりに勢いのある返事が返ってきた。

 グランネストはレグとの通信を切って、アナサジとの通信回線を開いた。
「ブリッジです。そちらの準備はどうですか?」
『今サボンが急ピッチでやってる。ただ、フォルテがあっち行っちゃったから、あたしがぶっつけ本番の手動でやるしかないかもって』
「そうですか……」
 今、どこもかしこも猫の手を借りたいほどの忙しさだ。自分でできることは自分でやれと言う事だろう。しかし、今回はそれで上手くいくだろうか。
 アナサジの奥の手は、彼女一人だけでなくメタモアークも協力して成せる技だ。こっちも全面的にバックアップするつもりだが、それでも不安要素は尽きない。
「……まあ、やるしかないんですけどね」
 グランネストはそう呟く。
 メテオスはまだ二つ残っている。両方ともジオライト星を目指して進んでいる以上、いったん撤退するという手段は使えない状態だ。
 切り札の一つだったスマート爆弾がもうない以上、外壁を抉れるほどの超威力を持つのは「あれ」ぐらいしかない、とネスは考えている。そのため、絶対に当てなければならないのだ。
「サポートを手配したので、少しはマシになると思います。がんばってくださいね」
『OK』
 アナサジがちゃんと答えるのを見てから、グランネストは通信を切った。

 ともかく。三つあったメテオスのうち、一つがなくなった。
 戦況は少しだけこっちに傾いたが、あくまで「少しだけ」である。メテオやヒトガタは、まだたくさん残っていた。

 お――――――――――――――――♪

 左のメテオスに張り付いた、ピンクのヒトガタが鳴く。
 その声に合わせ、ばらばらだったメテオが固まって一つの大きなメテオとなった。打ち返すには……少々メテオが複雑すぎる。
 ならば破壊するまでとヤルダバオトが銃を撃ち、塊を削り始めた。仕事の終わったアリアンロッドも彼に加勢するが、いささか威力がなさ過ぎた。
 メテオは確実に連合軍の妨害を跳ね除け、艦隊へと向かっていく。阻止しようとGEL-GELがイレイザーキャノンを向けようとした、その瞬間。

『あたしに任せて!』

 アナサジの声が割り込んできたかと思うと、強力なビームがGEL-GELの真上を飛び、メテオを砕く。
 ビームの方向に目を向ければ、いつのまにかアナサジが甲板に立っていた。ただし、かなり巨大なキャノン砲をかついで、だが。
 先ほどの一撃は、あのキャノン砲からなのだろう。ヤルダバオトが苦戦したあのメテオを一撃で砕くあたり、かなりの威力があるようだ。
『今から“カルネージ”を撃つから、皆援護して!』
『う、撃つの、あれ!?』
 アナサジからの言葉に、ラスタルが大きく動揺した。というのも、彼は“カルネージ”を詳しく知る者の内の一人だからだ。
 その“カルネージ”とは、メタモアークと直結したアナサジが撃つ、最大級の一撃である。
 アナサジ一人の火力だけでなく、メタモアークのエネルギーも加わるため、威力はけた外れに強い。METEOSモードの能力を除けば、これが一番の火力を誇る。
 ただし、強力なエネルギーを扱う分その反動も大きい。特に問題なのは、アナサジが直接撃つため、反動は全て彼女に来るのである。
 テスト時にかなり出力を絞って撃ってみたが、それでもアナサジの体がオーバーヒートを起こして半日は機能停止状態になった。それだけ負担が大きい代物なのだ。
 今はメテオス破壊作戦と言う大事な時。出力を絞って撃てる余裕は……ない。
『あれなら、確実にメテオスの外壁を破壊できると思う!』
 アナサジの意志は固い。もはや、誰が説得しようとしても無理だろう。全員がそう悟った。なら、やる事は一つだ。
『……全員、時間を稼いで!』
 ラスタルが全員に指示を出す。
 ヒトガタやメテオは、今もこっちを狙い続けている。彼らを盾にメテオスが進む以上、迷っている暇はなかった。
 チャージを始めるアナサジを背に、GEL-GELたちは改めて飛んだ。