METEOS・51

 あの戦いの後、TELOSが転移したのは何とメタモアーク外壁だった。張り付くことにより、全方位のサーチから逃れているのだ。
 仮面に覆われていない口が開き、仲間の名を呼ぶ。
「パンドラ」
 TELOSに名前を呼ばれた仲間――パンドラ・レグセティム少佐は、手に持っていた通信機を起動させた。
 通信機は最初ノイズだけを発していたが、彼が何回か振ると『……本部です』とまともな言葉になる。長距離用通信機でよかった、とパンドラは適当に思った。
 オペレーターと2,3会話して、会議長を呼び出す。
『私だ。メタモアークを発見したのか?』
「ええ。後はそちらの筋書き通りに」
『お前の、だろう?』
「さあ? そろそろ連れてこようと思うので、迎えを用意してください」

 メタモアーク。
 応急処置ながらGEL-GELを修理したラキは、クレスたちに真相を全て話していた。
 降り注ぐメテオやレアメタルの由来。地球人種へと変換が成功した人間のみ、コメットから解放される事。生存する地球人が、メテオスを操っているという事。
 特にメテオスの誕生は、ラキとフィアを除く全員が驚愕する内容だった。
「失われた約束の星が、災厄の星へと……」
「全く、予想以上でしたな」
 サーレイが苦々しくつぶやくと、フォブがさほど困ってない顔であごひげをなでる。
 メテオスに関してはさまざまな仮説が流れているのだが、「地球=メテオス」という説はどこにもなかった。まさかそれが事実だとは、誰も思わないだろう。
「レアメタルが強力なエネルギーを持つのも、凝縮された『人間』そのものじゃからか」
「あれは医学的にも疑問だったんだけど……納得はできるわね」
 珍しくブリッジに上がってきたヴォルドンとレザリーが、ラキの話に何度もうなずく。
 全くベクトルの違う点から見ても謎だったモノが、一つの真実でこう見事に繋がるのは感動ではある。無論、そんな余裕はないが。
「それで、これからどうする?」
 クレスがラキとフィアを見据えながら問う。これに対する答えは単純だ。

「メテオスを破壊します」
「あれを止めないと、全ての銀河が滅びます」

 ためらいのない二人の言葉に、クレスは「いい答えだ」と笑った。
 過去に何があったとしても、今のメテオスは災厄を呼ぶモノなのだ。全ての星を守るために、あれは破壊しなくてはならない。
 二人に揺らぎがないと解ったクレスは、一つうなずいて艦長席から立ち上がる。
「そうと決まれば、対メテオスの準備とやつの現在位置を知……」
『ワープエネルギー感知』
 クレスの指示をさえぎり、スターリアが警報を出した。
『前方にワープホールが出現します。規模は……艦隊一つ分』
「何だと!?」
 全員がモニターに集中する中、それは現れた。
 連合軍用大型艦からメタモアーク同系艦まで、大中小と並んだ戦艦の群れ。その中心に位置するひときわ大きいそれに、全員見覚えがあった。
「『ブラーポ』……」
 フィアが息を飲む隣で、ロゥがぼそっとつぶやく。
「連合軍の中でも大物が乗る船ね。いったい何の用なの?」
 ロゥの疑問は、いきなりの通信で解決された。
 普段はオペレーター同士の簡単なやり取りがあって、それからメインの話になるのだが、今回は違った。
『メタモアーク艦長、クレス=アルデバランはいるかな?』
 回線をつないできた相手を見て、また全員が息を飲む。あのブラーポに乗っているのは、連合軍中将グリンズ――いわば「お偉方」の一人であった。
 特務部隊とは言え、位の低い部隊であるメタモアークに接触するなどまず有り得ないのだが……。
 しかし、今は詮索は後回し。クレスを初めとした全員が姿勢を正した。
「私ですが……」
『ああ、楽な姿勢にしてくれたまえ。クレス中佐、君もだ』
 そう言われるが、誰も姿勢は崩さなかった。目の前にいるのがお偉方であるのも理由だが、一番は油断ならないという警戒心だった。
 メテオスと関連のある者たちの襲撃の後に、意味ありげにやってきたのだ。警戒しないわけがない。
 グリンズはそんなメタモアーク乗員に笑うこともなく、ただ悠然ととんでもないことを告げた。

『実はだな、君達がメテオスと関わっているという無視できない情報があってね。その件で君達を捕縛しようと思うのだ』

「な……っ!」
「いきなり何を!?」
 唐突な宣言に、珍しくフィアが食って掛かった。しかし、グリンズは最初から聞いてないかのように告げる。
『というわけで、メタモアークは全兵装を解除し、大人しくするのだ。ああ、安心したまえ。全員を連れて行くつもりはない。
 GEL-GELと、そっちで保護されているらしい七賢、それからメタモライトだけでいいのだからな』
「!?」
 出された名前に、クレスの眉がぴくりと上がった。ロスト・パラダイスに行く前に提出した報告書に、彼らの名前は一文字も出した覚えはない。
 なのにグリンズはGEL-GEL達の名前を出した。内通者がいるのか、それともかつて会った何者かが教えたのか。
 そんなクレスの動揺など知らず、グリンズは『では、よろしく頼む』と言いたいことだけ言って通信を切る。同時に、艦内にアラートが鳴り響いた。
『警告します。連合軍が強制的に突入した模様。正規の手続きを踏んでいないため、制圧などの可能性があります。繰り返します……』
 無情に繰り返される、スターリアのアラートメッセージ。上で何があったか解らないが、自分たちは完全に彼らの敵とされてしまったらしい。
「総員、急ぎ退艦せよ!」
 クレスが叫んだ。

 

『総員、急ぎ退艦せよ!』
 クレスの命令は、スターリアによって艦内に放送された。グリンズの命令を知らないメンバーとしては、急な退艦命令に戸惑うだけである。
「ね、ねえ、なんであたしたちメタモアークを出ないといけないの!?」
「知るか!」
「アナサジ、今は全員の退艦を支援するのが先です」
「大パニックなのだ~」
「みんな落ち着いて!」
 メンテナンスを受けていたビュウブームたち戦闘チームは、突然の命令に半分パニックになっていた。
 それでも命令は絶対なので、急ぎ退艦準備を始める。ここにいる全員はすぐにでも外に出られるが、問題はGEL-GELだ。
 ラキの手によって応急処置がなされたものの、歩くだけで精一杯なのだ。支援などとても無理だろう。
「ビュウブーム、GEL-GELを!」
「あいよ!」
 ラスタルもそれを考えたらしくこっちに視線を投げるが、一歩踏み出す前に通信が割り込んだ。
『ビュウブーム、みんな、聞こえるかい?』
「アネッセ!?」
 通信の主は、滅多な事では食堂から出ないアネッセだった。音声オンリーではあるが、声からにじむ焦りで彼女の狼狽度が解る。
 いったい何が、と思いつつ、ビュウブームが通信に応じる。
「どうした?」
『あんたたち、悪いんだけど子供達逃がすの手伝ってくれないかい? 船に乗り込んできた兵士達、全員武器持ってるんだよ!』
「「!?」」
 予想外の状況に、ビュウブームたちは絶句する。グリンズの話を聞いてない彼らにとって、武装兵士がなだれ込むなど有り得ない話だった。
 だが、現実に武装兵士は乗り込んでいるらしい。通信からかすかに聞こえる銃声が、アネッセの言葉が真実だと告げていた。
 このまま放っておけば、子供達だけならぬ乗員全員の命が危ない。しかし、相手は同じ軍の兵士。ためらいの重い空気が、その場を満たしたが。
「……行くぜ、ちびたちの救出に!」
 ビュウブームは迷いを断ち切るように、自分の武器を手に取った。
 仲間達も、リーダーが武器を手に取ったことで吹っ切ったか、ややためらいつつも武器を手に取った。
 迷うのは後だ。今は仲間達を助けるしかない。

 乗員を全てブリッジから逃がした後、クレスは深々と艦長席に座った。
 ここではないどこかを見つつ、淡々とスターリアに命じる。
「スターリア、メタモアーク自爆…準備。10分後に爆破……」