「これで10体目っと……」
攻撃してきた戦闘用アンドロイドを切り倒して、ビュウブームが汗をかくしぐさをした(アンドロイドは汗をかかない)。
付近をサーチしていたラスタルがゴーグルを上げ、「周囲に敵反応はないですね」と戦闘の終わりを告げる。それでようやくOREANAとアナサジも武器を下ろした。
ビュウブームたちは研究所らしき施設の近くで上手く合流する事ができ、帰る手段を求めて施設の調査に乗り出した。
人の反応こそなかったが、施設に残されていたガーディアンらしきアンドロイドが、侵入者であるビュウブームたちの排除に動き出したので抗戦するはめになった。
相手はかなりの性能を持っていたが、ロールアウトしてだいぶ経っているらしく、動きが鈍いのが幸いだった。
細い通路という特殊な場所を生かして一人ずつ相手にしたので、割と楽に倒す事ができた。そこまでは良かったのだが……。
「しっかし、全員がGEL-GELにそっくりってのは不気味で仕方ねーな」
襲ってきたアンドロイドのヘッドギアを外すと、GEL-GELそっくりの顔立ちがそこから現れる。こいつだけでなく、全ての相手がそうだった。
どういうわけか、ここの警備兵はみんなGEL-GELに似ているのである。スペックを似せるのなら解るが、ルックスを似せる理由が解らない。
理由も解らぬまま仲間そっくりの敵を倒すというのは、やはり気分が良くないものだ。
「攻撃パターンとかはGEL-GELと微妙に違うんだよね。何か、GEOLYTEみたいな感じ。量産向けっていうか……」
「彼らがGEL-GELに似ているのではなく、GEL-GELが彼らに似ている可能性もあると思われます」
突然のOREANAの意見に、全員の視線がそっちの方を向いた。
「ッてことは何か? ここはGEL-GELの過去に関係がある施設って事か?」
「その可能性はあります。少なくとも、こことGEL-GELに関連性がないのは不自然です」
「ここまでGEL-GELに似た敵がいますからね……」
ラスタルは敵の残骸の一欠片を拾い、ふーっと埃を払い落とす。
パーツは見覚えのないものだが、それが返ってOREANAの説の信憑性を深めていく。この施設には何かがある。それだけは確実だった。
「もうちょい先に進んでみるか?」
ビュウブームの意見に反対する者はいない。ラスタルにマッピングを任せ、4人はこの施設の奥へと進んでいくことにした。
入り込んだのはおそらく裏口なので、何らかの情報が手に入りそうな場所は少し遠いかもしれない。しかも、警備兵はあれだけで終わりとは限らないのだ。
ちょっと大変な事になりそうだな、とビュウブームは他人事のように思った。
メタモアークでは、ロゥとエデンが目覚めた事で少し事態が進展しようとしていた。
「つまり、バイパスをこじ開けて全員の意識を戻すという事か」
「はい。今の状態では狭くて、一人二人が限界だそうです」
自分の身体に戻ったロゥは、ただひたすらコンソールを叩いて何とか自分が通ってきたバイパスを開こうとしている。
倒れた事による原因追求は後回しにして、まずは全員の意識を取り戻す事が先決とクレスは判断したのだ。ここでは、情報を得たくても、ほとんど無理だからだ。
バイパスを教えてくれたエデンは、今ここにはいない。レザリーと共に、ラキたちの様子を見に行ったのだ。
電子生命体であるロゥやアンドロイドであるGEL-GELたちは、バイパスを通る事ができるかもしれないが、生身のラキたちがそれが出来るかは不明だ。
だから、エデンは他の方法を模索しに行ったのだ。確実に全員が帰れる方法。それがあれば、こちらから上手くコンタクトを取れる可能性も出るかもしれない。
今のメタモアークは、オペレーター一人が倒れ、戦闘員は全滅状態と最悪だ。この状況で敵が来れば、間違いなく被害が出る。
(……スターリア女神にでも祈っておくか?)
全宇宙で一番信仰されていると言うスターリア女神。実際に女神の加護があったというが、今このメタモアークにその加護が舞い降りる可能性は極めて低いだろう。
それでもその加護にすがりつきたいほど、状況は切羽詰っていた。
『艦長、武器と主砲の修復は完了した。一応戦闘は出来るようになったぞ』
「『一応』な……」
「とはいえ、気休め程度ですな」
ソーテルの報告に、フォブは相変わらず読めない表情で顎をなで、クレスはふぅとため息をついた。朗報ではあるが、好転させるほどのものではない。
まだ迂闊には動けない。全員とは行かなくても、半数が戻ってくるまでは待機が一番だろう。
「当艦はこの場で待機。手が空いてる者は、全員で警戒作業に当たれ」
「無難な対応です……が」
「が?」
フォブの引っかかるような発言に、クレスの頬に冷や汗が流れる。彼がこのような発言をした場合、大抵ロクでもないことが起きるのだ。
そして、その「ロクでもないこと」はすぐに判明した。緊急のブザー音と共に、スターリアの艦内放送が流れたのだ。
『緊急事態発生。当メタモアークに侵入者! 繰り返す。緊急事態発生。当メタモアークに……』
「……最悪」
サーレイの言葉は、今この場にいる全員の心境そのものだった。
メタモアークに侵入してきた者は、すぐにレグやベルティヒ、ソーテルが対応する事になった。戦闘員ほどではないが、一応彼らも銃は撃てる。
……だが入ってきた存在は、彼らで対応できるものではなかった。
「その程度では、無理だ」
青白い肌に漆黒の髪。幼いながらもどこか人を圧倒させるようなたたずまいに、整った服装。
淡々と迎撃者に告げる侵入者は、ラスタルが覚醒した時に仕掛けてきた相手に間違いなかった。そして、フィアが一度見た少年でもあった。
「くそ、銃が全く効かねぇんじゃ、どうしようもねえぞ!」
ベルティヒが悪態をつきながら銃を投げ捨てる。その隣で自分が整備した銃を投げ捨てられたレグが、ちょっとだけベルティヒを睨んでいた。
「ギガントガッシュの姫にニコは上手く逃げ出せたんだろうな?」
「ああ、アネッセが避難させてるはずだ」
諦めずに銃を撃つソーテルが、ぼそりと聞く。
「……もっと避難させないとヤバイのが、いるんじゃないか?」
「……あ!」
レグの脳裏にその対象人物が浮かび上がった瞬間。
「レグさん! ソーテルさん! ベルティヒさん!」
少年が向かおうとしている先に、エデンが立った。
「坊主、逃げろ!」
レグが慌てて声をかけるが、エデンがそれより先に少年の方へと走る。その手に何か光が宿っている辺り、彼も戦う気なのだろう。
超能力者が相手なので、流石の少年も余裕が消える。エデンの光を帯びた手刀が少年の首筋を狙って伸びるが、少年は力任せにそれを弾いた。
インパクトを避けるために大きく飛び退る少年に、エデンの第二段攻撃が迫る。隙を見せないその攻撃に少年の体が大きく飛んだ。
「やったか!?」
誰かが叫ぶが、エデンの顔にはまだ緊張が残っている。これも肝心な所で避けられたのを、彼は感じたのだ。
「……第一賢の名を受け継いだだけのことはある。汝の力、侮ったか」
「なら、ここから退いてください」
「それは出来ぬ。今まだ殻の中にある、32番目にして最初の呼び水たる者と我らの同胞を呼び起こすのが、我が役目」
その言葉を残し、少年はうっすらと消えていく。それが転移だと気づいたのは、エデンのみだった。
「ま、待って!」
慌てて呼び止めようと手を伸ばすが、少年はもう反応することなく姿を消した。
そろってほうけたような顔をしている三人を余所に、エデンはさっきまで少年が立っていた場所に立つ。
(彼ほどの力があれば、転移なんてその気になればすぐに出来たはずのに……、誰かが彼を抑えていた? それとも……)
「……ダメだ。まだ呼んじゃダメだ……」
どこかで誰かの声が聞こえる。
「まだ目覚めさせるには早いよ……。ううん、目覚めさせちゃダメなんだよ……。
ラキ・リフォバーも、フィア・シオンも、もう全てが完全なものなのに、余計なものを入れたら……!」
少年の転移先は、GEL-GELたちが眠っている(?)メディカルルームだった。
「な、何ですか!?」
「ひゃあ!」
突然の来訪者に、サボンとフォルテは慌てて武器になるものを取ろうとしたが、それより先に少年の一撃であっさり昏倒した。
「さて……」
立つ者がいない部屋を、少年はゆっくりと見渡す。目当ての人物はいない。彼はメディカルルームではなく、自室で眠っているからだ。
だが、もう一つの目当ての人物は確かにいた。
「ジェネシス32……」
GEL-GEL。プロジェクト・ジェネシスの32番目のテスト機体。
いつしか、少年の手にはアンドロイドすら破壊できるという銃が握られていた。
――銃声。