OREANAも加わり、戦力はアップした。
危惧していた暴走も今のところなさそうなので、ラキは計画を第二段階に移す事に決めた。
「やっぱり僕は賛成できません」
「俺も反対。これ以上ヤバイ橋渡るのはな」
「だろうな」
その話を聞いたGEL-GELとビュウブームは、真っ先に反対した。
「ん~、危険じゃないのならやってみるのもいいと思うのだ」
「僕は反対する理由ないですし」
「それ以外に有効な方法がないのなら、やってみる事を勧めます」
あまり実感が湧かないらしいGEOLYTEやラスタル、実際に持っているOREANAは、その話に賛成する。
「……あたしは、どっちと言えばいいのか解らないなぁ」
即断即決の気があるアナサジは、珍しく答えを渋った。
「賛成3、反対2、意見保留が1、か……」
全員の答えを聞いたラキは、最近洗っていない頭をぼりぼりとかいた。
――レアメタル装備。
最初から持っているGEL-GEL、事故によって装備されたビュウブーム、それを基本として生み出されたOREANA。この3人は、かなりの戦闘力を持った。
今回は、レアメタルを残りの3人に装備させるという話だ。成功すれば更なる戦力アップが望めるが、失敗すれば暴走という最後が待っている。
元から装備を考えられたOREANAとは違い、3人のボディが耐えられるか。これが問題になっている。だからラキは、最初全員の意見を求めたのだ。
ラキとしては、レアメタルの恐ろしさを刷り込まれているGEL-GELや身体で覚えこまされたビュウブームには悪いが、できれば全員に装備させたい。
それは戦力アップもあるが、本当の理由は組み込む事によってレアメタルの事をもっと知りたいからだ。
ソウルとタイム、何故この二つなのか。また極端に発見数が少ないのは何故か。――何故、ロスト・パラダイスであんなにたくさん発見されたのか。
ヴォルドンに聞いたところ、「おそらくメテオスと大きな係わり合いがある」とだけ答えてきた。隠しているのではなく、それ以外知らないようだった。
だから、調べられる方法があるのなら全部試してみたい。例えそれが、どのような結果になったとしても。
「賛成が多いな。とりあえず、志願者だけテストするぞ」
ラキはあえて淡々と告げた。
「ラキ少尉、ちょっと良いかしら?」
テストは半日後。準備のためにあちこち駆けずり回っていると、散歩していたらしいレザリーに捕まった。
まだ用意しなければならないのはたくさんあるのだが、「手間は取らせないつもりよ」と少し強引に医務室へと引っ張られてしまう。
定期健診で何か悪い所でもあったかな、と気楽に考えていると、レザリーは二枚の紙をラキに向かって寄越した。ちらりと見ると、やはり定期健診の結果のようだ。
だが、二枚。不思議に思ってよく見てみると、1枚はラキのだが、もう1枚は義姉のフィアのものだった。
「見てほしいのは、下の備考欄のところよ」
そう言われて視線を向けてみて……混乱した。
2枚の定期健診の紙。備考欄にある血液や体組織などについての備考が、2人ともほぼ同じだった。正確に言えば、血液型などが全く同じだったのだ。
「おかしいでしょ? 貴方はメックス星人、フィア大尉はファイアム星人。血液や体組織がほとんど同じ、なんてのは在り得ないの。でも現実はそうなってる」
自分がメックス星人、そして義姉がファイアム星人なのは疑いようもない事実だ。引き取られる時に戸籍を見たし、フィア本人も自分をファイアム星人と言っていた。
そして自分も、生まれは間違いなくメックス星だ。幼い頃、生まれた時の写真などを見せてもらったし、親戚もメックス星にいる。
なのに何故、自分と義姉はここまで同じになっているのか。
(心当たりがあるとすれば……)
8年前に起きたフォールダウン。あれが原因で、二人の身体に何かが起きたとしか考えられない。
コメット化とは全く違った何か。だから自分たちは生き延びる事ができたのだろうか。
「それ、他の人に言ったのか?」
ラキが聞くと、レザリーは「ディアキグ博士ぐらいかしら」と答えた。
「ヴォルドン博士にも、レアメタル研究がひとまず終わった後に聞いてみるつもりよ。私もあれには興味あるし」
医学的にも、何か気になるものがあるらしい。レザリーはいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。
(ここでもレアメタルか……)
一体あれは何なんだ、とラキは心底思った。
テスト開始時間となった。
志願者はラスタルとアナサジ。GEOLYTEはレアメタルを間近で見ただけでパスした。
テストと言っても実際に組み込むのはだいぶ後で、まずはレアメタルに慣れる事から始めることにした。という事で、二人はレアメタルに手を触れる。
『どうだ?』
「別に異常はありません」
「あたしもないよ」
ソウルとタイム両方に触れさせてみたが、いきなりコメット化などというトラブルはなさそうだ。まあビュウブームという例があるのだから、そこらは大丈夫だろうが。
とりあえず、第一テストは無事終了した。第二テストという事で、二人にレアメタルを持ってもらい、自由にさせる。
飲み込んだり割ったり(割れる事はないと思うが)しなければ何をやっても良いので、二人は手に持って近づけてみたり、耳を澄ませてみたりしている。
見たところ、様子が激変する事はなさそうだ。ただ、顔色はあまりよくない。
「フォルテ、二人の様子は?」
「感情OSなどにエラーはないようですね。でも、何て言うか……人間で言う『嫌悪感』はちょっとあるみたいです」
随時チェックしているフォルテに聞くと、彼はすぐに調べて報告する。一応テストをやめる事はできるが、今の状態ではまだデータが不充分だ。
「テストは続行。フォルテは二人のチェックを頼むぜ」
「了解しました」
それからいくつものテストを行ったが、別に問題は何一つなかった。ビュウブームたちが恐れた暴走も、全然ないようだった。
テストの結果は、二人とも良好。特に大きな問題もないので、装備してもいいだろうとラキは踏んだ。
……だが。
「ラキ。あたし、やっぱりあれ装備したくない」
全てのテスト終了後、アナサジは開口一番に言った。
「触ってみて、解ったのよ。あれは気楽に人が手に入れちゃいけないんだって」
声が聞こえた。アナサジはそう言った。
手を触れた時は何かのノイズかと思ったが、握ったり耳を済ませたりしてみたことではっきりと確信した。確かにレアメタルから声が聞こえたのだ。
暗く、怨嗟にまみれた声が。
自分と同じ存在にならないものに対しての、呪いの声が。
引き寄せようとする、声が。
「ラスタルはどうか解らないけど、とにかくあたしは装備するのはやだ。……っていうか、あたしは装備したのが暴走しないかどうかを見張った方がいいよ」
「そうか……」
アナサジの話を聞いて、ラキはファイルを取り出してアナサジの欄に「レアメタル装備不可」と書き込んだ。
「こんな事言うのも何だけどよ、俺も気楽に装備しちゃいけねぇと思う」
ファイルに書き込む手を止めて、ぼそりと言う。
その時、ラキの脳裏には定期健診の紙を見せてきたレザリーの言葉が浮かんでいたのだ。
――私が何故レアメタルに興味を持ってるか、解る? あれはね、医学的知識を持った者から見ると、面白い見方ができるのよ。
何だと思う?
――人間の脳よ。
アナサジの言う事が本当なら、レザリーが言っていた事も納得が行く。現にソウルとは「魂」という意味だからだ。
またタイム――「時」は、認識して始めて意味を成す。それを認識するのは、やはり脳が大きい。
身体という入れ物に入れられる魂は、基本的に一つのみ。だが強引に二つ以上の魂が入ったとすれば、どうなるか。
何となくだが予想はつく。分かり合っても対立しても、結局は器が耐え切れずに自滅してしまうか、どちらかの魂が消滅してしまうか。
あるいは、魂も何もないモノへと変貌して暴走するか。
(もしかして、コメット化っつーのも、それが原因なのか?)
異形に成り果て、同属を食らう存在へと堕ちてしまうコメット化現象。もしその原因が、一つの入れ物に強引に二つのものを入れた結果だとすれば、色々説明がつく。
レアメタルとコメット化。この二つの点が、微妙な線に変化したような気がした。
ちなみにラスタルに聞いたところ、彼は自分でこの力を制御したいと固い決意を示した。
これにも断る理由がなかったので、結果レアメタル装備はラスタルのみとなった。