ロスト・パラダイスを探索中、地表の八割が海という惑星を発見した。
メテオの影響が全くない惑星だが、ここから出る手がかりがあるかもしれないということで、惑星に降下して調査する事となった。
ただ八割が海なので、メタモアークでは表面しか調べられないし、人を下ろすにしても普通の装備ではやはりよく調べられない。
そこで、大まかな調査はメタモアークで、気になる場所を発見したら深海用装備をした戦闘チームで探索、となった。人間では潜れない場所でも、彼らなら行けるわけだ。
リーダーのビュウブームは深海用装備をつけると過負荷がひどいので、今回は彼らが潜った場所で待機することになる。実際のリーダーはラスタルだ。
その方法で探索して一時間ほど。わずかながらもエネルギーを感知したので、チームは集中探索を開始した。
急ごしらえの深海用装備――アクアフレームを装備したGEL-GELたちが、どんどん潜行していく。サポートである優先無人カメラが、その後を追っていった。
『現在、深度1200メートル。この海域の最深度だと思われます。どうぞ』
「こちらラスタル。大きな穴などもないし、確かにここが一番深い場所です」
サーレイのオペレートに、ラスタルが応答する。今調べている海域は、深度が少ないのが幸いだった。これが水深一万などになったらもう手の打ちようがない。
今のところ、メテオやコメットもないし、危険そうな原住生物もいない。一種のスクーバダイビングのようなものだった。
気持ちよさそうに泳いでいく魚が微笑ましい。色合いからして熱帯魚だが、その形は独自の進化を遂げているのか、データにはないものだった。
GEL-GELが何となくそれを視線で追っていると、ある一点で止まった。海の色と同じ髪をした女性型アンドロイド。
『了解しました。それでは、OREANAを先行させて探索を開始してください』
サーレイがクレスからの命令を彼らに伝える。ラスタルが女性型アンドロイド――OREANAへ視線を向けると、彼女は了解したと言わんばかりにうなずいた。
「先行して、サーチを開始します」
水圧を考えて、それなりの重装備であるGEL-GELたちとは違い、彼女は対水中用装備であるドルフィン・ユニットだけを装備していた。
OREANA――正式名称ORigin Egg,Advanced NAme(起源の卵、次なる名前)――は、昨日ロールアウトして正式に仲間になったメンバーだ。
武装はロングバレルライフルやスナイプ・ガンなどの銃撃戦や長距離戦に向いたものであり、アナサジとコンビを取れるようになっているらしい。
アナサジとのコンビ、ラスタルの護衛が主な戦術的役割の彼女だが、GEL-GELやビュウブームと並ぶほどの実力がある……らしい。
そんなOREANAの得意エリアは水中。重装備でないと対応できない水深でも、彼女は少しの装備で大きく動き回る事ができるのだ。
正にこのミッションは、OREANAの独壇場と言ってもいいかもしれない。
GEOLYTEやアナサジが装備で戸惑う中、OREANAは優雅に泳ぎまわり、あたり一体の偵察を終えていた。
「どうやらこの辺りに、危険な存在は見当たりません。ラスタルたちでも探索は出来るでしょう」
「解った。そのまま遠くまで見て行って」
「了解しました」
ラスタルの指示に従い、彼女は自分たちの見えない場所へと泳ぎ去っていく。その動きは優雅だが、どことなく機械的だった。
最新型として性能や装備が優秀なOREANAだが、人としての感情は何故か抑えられていた。機械そのものというわけではないが、必要以上に無表情なのだ。
早速仲間に打ち解けさせようと話しかけてきたビュウブームに対して「不要な気遣いは邪魔です」と言い放ち、待機中はただ座ってるだけ、自分からは話さない。
開発者であるラキは、「感情OSが予想以上に積み込めなかった」と話すだけで、その他の事は黙して語らなかった。
ビュウブームたちは首をかしげていたが、ただ一人GEL-GELだけは何となく本当の理由を察していた。
――結論から言うけどよ、OREANAはお前にとって、かなり近い妹だ。
OREANAがロールアウトする前、ラキはそうGEL-GELに説明した。
それがどういう意味なのかまでは語らなかったが、彼女を作っている間に何度も相談された事や最近入手したレアメタルを考えると、大分予想はつく。
でもGEL-GELは仲間にそれを言う事はなかった。ただの杞憂かもしれないし、何より話さないほうがOREANAのためになるのでは、と思ったのだ。
もちろん時が来れば話すが、それより先に仲間が気づくはず。その時、自分があえて黙っていた理由――恐れられる危惧を感じていたのに気づいてほしい。
先行偵察に出たOREANAは、まだ帰ってこない。
GEL-GELは不安な目を、彼女が消えた方へと向けた。
そのOREANAは、仲間から数10メートル離れた場所で今だ稼動しているエネルギー装置を発見した。
規模の大きさや複雑さからするに、半永久的にエネルギーを放出し続ける装置なのだろう。供給源は、おそらく海そのもの。海力発電、というのだろうか。
大まかに表面を見ただけだが、どうもこれは単なるエネルギー装置なだけで、メタモアークにとっては何の得にもならないだろう。エネルギーならたくさんあるからだ。
破壊する理由もないので、そのままにしておくことを選択する。とりあえず報告だけはしておいて、後で調べてもらうのが最良だ。
OREANAはそう結論付けて、仲間の所へ戻ろうとするが。
…………いで…………
「!?」
どこかから、手招きされたような気がする。
急いで付近をサーチするが、それらしいものは何一つない。エラーでも起こしたと判断し、仲間の元へと泳いでいった。
OREANAからの報告を受けたラスタルとビュウブーム(無線で情報が随時送られている)、クレスはどうするかと考え始めた。
「ここには情報等はないと判断し、引き上げる事を提案しますが」
彼女はそう言うが、おまけのように報告された「ノイズ」が少し引っかかる。
ここはロスト・パラダイス。誰もが知らないエリアなのだ。迂闊な判断で全員死亡なのは何としてでも避けたい。
『……ふむ』
ウィンドウに映るクレスが何か言おうとした瞬間、凄まじい流れと共に何かが中に割って入った。
ばらけながらも何とか陣形を組んだメンバーが見たのは、巨大な異形。大きなヒレがナイフのように鋭くなっていて、流れる髪が乱流を生んでいた。
そう。それは確かにコメットだった。何らかの反応で巨大化し、エネルギー装置の放出するエネルギーに紛れていたのだろう。
何故ここにコメットがいるのかは解らないが、発見次第即殲滅せよ、という命令が常に出されている以上、応戦しないわけには行かない。
早速アナサジが魚雷を発射し、コメットに一撃を与える。巨体とは言え、命中のインパクトにひるんだコメットに、GEOLYTEがかく乱のために飛び込んだ。
GEL-GELも実体武器であるスライドブレードを手に、コメットに向かっていく。後ろはアナサジとOREANAのサポートがあるので、心配する必要はない。
しかし、場所がいつもと違う水中。振り向くだけで予想以上に力や時間を使うので、悠々と泳ぐコメット相手に上手く攻撃が当たらない。
「動きづらいのだ~!」
「もう少し頑張ってください! GEOLYTEさん!」
GEOLYTEも上手い事かく乱できずにかなり苦戦している。まあ彼の場合、フレームに慣れていないだけなのかもしれないが。
そんな激闘の中、とうとう的確な攻撃をしていたアナサジが攻撃を食らった。
「きゃあっ!」
「アナサジ! うわっ!」
ラスタルが援護に入るが、彼も彼でフレームに慣れずに四苦八苦している。
こっちも武器は無事でも身体のほうが無事ではない状態。一撃を食らえば、あっという間にこっちの不利になるだろう。
GEL-GELが切り札を出そうかと考え始めた頃。
「チーム敗走の確立上昇。――METEOSモードに切り替えます」
OREANAの抑制のない声が淡々と響き、海の中に光があふれた。
やっぱり予感が当たったな、とGEL-GELは思った。
今自分とOREANA以外のメンバーは全員ラキを問い詰めている。理由はもちろん、OREANAのMETEOSモードだ。
特に実際にMETEOSモードを背負わされたビュウブームの詰め寄りぶりは半端ではなく、ラキが椅子から転がり落ちそうになるくらいだった。
OREANAは自分の妹――会席できた自分のデータを元に作られたアンドロイドだ。つまり、METEOSモードも擬似的ながら搭載されている。
そのMETEOSモードの元であるレアメタルがないので、計画は頓挫しかけていたが、そのレアメタルが回収できたのでロールアウトされた。
彼女に搭載されているレアメタルはソウル。ビュウブームがタイムを搭載しているからか、OREANAはそうなったようだ。
「OREANAさん」
声をかけてみたが、いつも通りに彼女に答えはない。直立不動の状態で、待機しているだけだ。
彼女がここまで機械的なのは、レアメタルの影響なのだろうか。
強大な力を抑えるために、彼女はただひたすら自制に努めなければならないのだろうか。
GEL-GELがその場を離れようとすると、後ろから声が聞こえた。
「……私も、あの力を正しい形に使う自信がありません」
かすかな声。だがはっきりとした声。
それはOREANAの悲鳴なのかもしれない。
一つため息をついて、GEL-GELは今だ騒いでいる部屋から出て行った。