METEOS・16

「レアメタル?」
 初めて聞く言葉に、ラキは首をかしげた。
 それを横目に見たヴォルドンは、コンソールをいじってもう一つのファイルを呼び出す。びっしりと書き込まれたファイルには「レアメタルについて」とあった。
「メテオの中でもかなりごく稀にしか出てこないレア物じゃ。サイズは通常メテオの核と同じほどじゃが、エネルギーが段違いでの」
 ぽん、とファイルからまたファイルを呼び出す。表を交えたデータがずらりと並び、ラキの目を丸くさせた。
 エネルギー値は通常のメテオの1000倍近く。それでいて材質などは、どのメテオのものとも全く違う代物らしい。

 一つは生きとし生けるものの根本たる「ソウル」。
 もう一つは始まりと終わりをつかさどる「タイム」。

 この二つがGEL-GELに収められているとということは、GEL-GELの製作者はレアメタルの存在を知り、なおかつ手に入れたことがある人物だ。
「……軍の上層部が作ったって言うのか?」
「可能性はあるのぅ。じゃが、それなら何故GEL-GELは廃棄処分にさせられたのじゃ? 彼奴ほどの性能を持つ者はそう作れまい」
「戦闘以外で作られた理由がある……」
 そこまで考えて、ラキは七賢が言っていた「ジェネシス32」と言う言葉を思い出した。
 ジェネシスはGEL-GELが入っていた廃棄カプセルにもあった言葉だ。意味は確か「創生」。32はおそらく開発ナンバーだ。
 格納庫で暴れていた七賢は、GEL-GELを最後の一体とも言っていた。と言う事は、GEL-GELと同じ存在が31体いた事になる。
 一体何のために? 戦う以外に、彼は何の使命を課せられたというのだろうか。
「しかし、解せんの」
 ファイルをまとめながら、ヴォルドンがつぶやいた。
「レアメタルってのは、通常のメテオのエネルギー値の1000倍近くはある。それが常に放出されておるわけではないじゃろうが……」
「エネルギー効率が極めて低すぎるってことか?」
 ラキの推論にヴォルドンはうなずいた。
 アンドロイドに限らず、機械系は大抵メテオを融合、または分離させる事によって生じるエネルギーを基に動いている。予備もセットできるが、大抵はそれだ。
 GEL-GELがもしレアメタルを動力源としているとしても、そのレアメタルのエネルギーは通常エンジンと同じぐらいだと言うのか?
 とりあえず謎は一つ解決したものの、まだ彼の隠された真実に近づいていない事を知り、ラキは深々とため息をついた。

 ラキたちがレアメタルを調べていた頃、艦長室ではエデンが簡単な取調べを受けていた。
 襲撃してきたのがヘブンズドア星人ともいえる「七賢」。そしてエデンはヘブンズドアで保護された少年。
 疑う材料はそれなりにあるということだ。
「で、お前はメタモアークを襲撃した『七賢』との関係はないというのだな?」
「はい」
 副長のフォブや軍師のフィアを交えての取調べに臆することなく、エデンは毅然とした態度でクレスの問いに応ずる。
「何故あそこにいたのか、記憶にないですから」
「奴らの顔も、見覚えはないか?」
「……ありません」
 淡々と答えるエデンの様子からするに、彼らとの関係はあまりないようだ。全くないというわけではないだろうが、仲間ではないのは解る。
(「七賢」の間で、意見の食い違いがあったのかも知れんな)
 人間、上手く分かり合えないように出来てしまっている。二人でも喧嘩する事があるのだから、七人の意志がバラけていると言う事も無きにしも非ずということか。
 しかし、何故「七賢」は動き始めたのだろうか。
 存在こそは大分前から確認されていたが、彼らはずっと動くことなく、ヘブンズドア領域にいるだけの存在だった。それが何故、今になって。
 真っ先に思いつく原因がヘブンズドア星滅亡だが、メタモアークを襲撃した七賢の一人が「そのことに対して恨みはない」と言っていた。
 鵜呑みにするつもりはないが、彼らの言っている事に嘘はないような気がした。ヘブンズドア星を犠牲にしてもやらねばならない事があるのか。
「私から聞くけど」
 クレスが考えている中、フィアがエデンに尋問した。
「貴方、彼らと『戦える』?」
 フィアの『戦う』とは、ただ戦うのではなくその先の結果――殺すと言う覚悟の事だった。仲間ではなくても、顔見知りをあっさりと殺せるか――?
 しかしこっちの予想を裏切り、エデンは何の反応も示さずに、一言で答えた。
「戦えますよ」

 メタモアークが襲撃されていると聞いても、ディアキグはずっと研究に没頭していた。
 子供たちはロウシェンがついていたし、襲撃者は内部をあまり荒らしていないという情報から、こっちに来ると思わなかったからだ。
 ブラックコーヒーをがぶ飲みの勢いで飲み干すと、今日までの子供たちや別のタイプの合成人間であるレイのデータをかき集め、そこから注意点などを記していく。
 入り込めない硬い雰囲気の中、ばしゅっと空気が抜ける音と共に誰かが入ってきた。しかし、研究に没頭しているディアキグは気づいていない。
 来客者はこっそり明かりの調節をしてから、コンピュータにかじりつきっぱなしのディアキグに近づく。その手には、彼が飲んでいたのと同じコーヒーがあった。
 モニターを見てみるが、彼にはよく解らないらしく首をかしげる。それでも理解しようとしばらくは覗き込んでいたが、すぐに諦めた。
 コーヒーを置いて、空のカップを片付ける。かちゃかちゃと音が鳴るが、やはりディアキグは何の反応も示さなかった。
 来客者は、そっと離れて部屋を出た。
 それからしばらくして、ロウシェンが中に入ってくる。明かりの具合に少し首を傾げるが、すぐに自分の上司の下へと行った。
「博士、根を詰め過ぎると倒れますよ」
「放っておいて貰おう」
 ディアキグはコーヒーを飲みながら、吐き捨てるように言う。相変わらずの態度にロウシェンは苦笑しながらも、コンピュータに近づく。
 散らかったものでも片そうかとデスクを見て、少し目を見張った。
「……お子さんですか」
 カップが片付けられた後と今ディアキグが持っているコーヒーカップに気づき、鋭い口調で聞く。
 モニターから目を離さないまま、子供を失った一人の博士は、助手の言葉にうなずいた。
「ああ、どうやらここに運び込まれていたようだな」
「僥倖……というべきでしょうかね」
「さあな。だが、これで少しは研究がはかどる」
 そうでしょうね、とロウシェンは心の中で賛同した。どういう経路なのかは知らないが、どうやらディアキグの息子はここに来てくれたようだ。

 様々な思惑を乗せ、メタモアークはヘブンズドア領域を行く。